時刻は9時……その頃、みらいは江地さんの居る矢熊山の地下研究所でタイムマシンの改良・修理を行っていた。
「ふぅ…まあこんなもんじゃろっ」
「ギプッ」
「みらいちゃん、そっちはどうじゃ?」
「まだまだだよ。」
「そうか…」
「ねぇ、江地さん」
作業の手を止めて、江地に話しかけるみらい
「ん? なんじゃ?」
「今さらなんだけど、タイムマシンの損傷…大き過ぎませんか?」
「そうかの?」
「いくらここが18年前の過去だからとはいえ、負担が掛かり過ぎです。もう少し軽い故障で済んでいたはずです。」
タイムマシンの損傷が大き過ぎると言うみらい
「うむ、確かに言われてみればそうじゃな。しかしそこまで気にする必要ないと思うのじゃが…」
「そうかも…しれませんね。」
「どうしたのじゃ?急に深刻な顔になりおって……」
急に難しい顔で考え事をし始めたみらいを心配する江地
「江地さんが起こしたタイムスリップ…本当に正常に起こしたタイムスリップだったのかな?って思って…」
「じゃが、その時のレーダーでは異常は見られなかったぞ?」
「そうですか…それじゃあ気のせいかもしれませんね。」
タイムスリップを起こした時に異常は見られなかったと江地が言ったので、気のせいだと思う事にしたみらい
「うむ。」
「でも…もう一つ気になることが…」
「なんじゃ?」
「勇平が巻き込まれたっていうタイムスリップ…不自然な気がするんだよね。」
「なぜじゃ?」
「江地さん、私は江地さんの起こしたタイムスリップ実験に巻き込まれた事によって、過去へ飛ばされてきてしまいましたよね?」
「う、うむ…そうじゃたな。」
みらいはただ確認するように問いかけただけなのだが、江地にはそう思えなかったようで、
タイムスリップに巻き込んでしまった事に対して、自分を責めているように聞こえたようだ。
「じゃあ、勇平はいったいどうやって過去へ飛ばされて来たのか?」
「勇平君か?」
「はい、勇平が言うには、夢が丘公園に居た時、急に天候が悪くなったから、急いで家に帰ろうとして、その場から離れようとしました。
ところがちょうどその時雷が勇平に向かって落ちてきた…気がつけば、いつの間にかこの過去の世界へ飛ばされていた。
タイムスリップが起きたのは、私が江地さんのタイムスリップ実験に巻き込まれた時刻より遅い。よって、考えられる事はただ一つ。
江地さんがタイムスリップを起こした時刻とは外れて、別のタイムスリップで過去であるここに飛ばされてきたと考えるべき。」
勇平は自分達とは別のタイムスリップでこちらへ来たのではないかと言うみらい
「うむ、確かにそうじゃな。しかし、それなら勇平君は自然に起きたタイムスリップに巻き込まれて、こちらへ飛ばされてきたのではないか?」
「普通ならそう思うよ。でも…ただ自然に起きたタイムスリップじゃないような気がするの。」
「どういう事じゃ?」
「もし、本当に勇平が自然に起きたタイムスリップに巻き込まれて飛ばされていたのなら、すぐにタイムスリップが発生した事が確認され、
昼間の内に大平さんの所へその事が伝えられているはずなんだよ。」
「伝えられていなかったのか?」
「……一昨日の通信の時の話し振りでは、勇平がまだ確実に過去であるここに居る事が解っていない状態だった。
つまり、勇平がタイムスリップに巻き込まれた事を知らされていなかったという事。」
「そ、それはつまり…」
「そう、夢が丘公園で起きたタイムスリップの発生を観測する事が出来なかったという事。」
みらいの話をまとめると、どうやらタイムスリップが起きた事を観測する所があるらしく、もし自然なタイムスリップに巻き込まれてこちらへ来たのなら、
タイムスリップが起きた時にすぐ観測され、勇平が過去へ飛ばされてしまった事が解り、勇平の両親へ連絡が行くはずだと言う。
「そ、それじゃ…」
「私は、勇平がただタイムスリップ事故に巻き込まれたのではなく、初めから勇平を狙って、タイムスリップを起こしたのではないか?っと思ってる。」
「し、しかしいったい何の為に…」
「それは…まだ解りません。」
「そうか…ところでみらいちゃん、確認して良いかの?」
「何ですか?」
「タイムマシンの改良の事じゃが…3人乗りから4人乗りに変更しなくて良いのか?」
「はい、そのままで良いです。」
「しかし…」
江地が渋るのには訳がある。
自分達だけではなく、勇平も居るとなったら、3人乗りでは定員オーバーなのだ。
だから3人乗りではなく、4人乗りに変更しなくて良いのかと言ったのである。
「だってそのタイムマシン…これ以上人数を増やせないでしょ?この間、江地さんが渡してくれたマイクロシップに記憶されていた、
開発当時のタイムマシンのデータを見て、改善がどこまで可能なのかを調べてみたら解ったよ。3人乗りまでしか改良できない事を…」
「うっ…た、確かにその通りじゃが…」
まったくその通りなので返す言葉もない江地
そのタイムマシンには…江地さん、ツバメ君、勇平の3人に乗ってもらいます。」
「なっ!? お主はどうするつもりじゃ!?」
「別の方法で帰ります。」
「別の方法って言ったって…」
「今開発中の…タイムウォッチを完成させます。」
どうやらみらいにはまだたった一つだけ、未来へ帰る方法を持っていたようだ。
それはまだ未完成だが、タイムマシンがさらに小型化された腕時計型「タイムウォッチ」という物らしい。
「なにぃっ!?お主っ!まだ開発段階であるタイムウォッチを完成させて、その装置で未来の世界へ帰るつもりなのかっ!?」
「うん、そうだよ。」
「そ、そうだよって…ダメじゃっ!危険すぎるっ!!」
「でも…これしか方法がない。」
「じゃが、タイムウォッチはまだ開発段階の上、実験ずらも行っていないのじゃぞ!?」
江地は未完成品を使う事の危険性を指摘してみらいを止めようとする。
「それはそうだけど…そこは予定を変更して、現在のタイムマシンのデータを参考に開発を進める。少し難しい方になっちゃうけど…」
難しくはなるが、完成させる方法を変更するから問題ないと言うみらい
「みらいちゃん!わしは絶対反対じゃっ!! そんな危険な事をするくらいなら、わしがここに残るっ!
そしてお主がタイムマシンに乗って未来の世界に帰るのじゃっ!! 元々わしは過去の世界の人間じゃ。
わしがたとえここに残ろうと未来の世界にはそれほど影響を受けないはずじゃっ!」
「確かにそう影響は受けないかもしれない。でも、江地さんはもうこの時代の人じゃない…未来の…
18年後の世界で生きる人だよっ!もう過去の世界の人じゃないっ、未来の世界の人なんだよっ!!」
「みらいちゃん…」
「江地さん、未来の世界へ行ってから何年経ってる?」
「お主が赤ん坊の頃じゃったから…もう6年になるかのぅ。それがどうかしたのか?」
「1年や2年ならまだしも…6年は…長過ぎだよ…江地さんの存在を知っている人達が居る。その内の何人かは江地さんが
過去から来た人だって事を知ってる人だって居るはず。だから…もしかしたら今はもう、江地さんが未来の世界に帰らず、
ここに留まれば、いずれ影響が出てくるかもしれない。」
今度はみらいが江地がここへ残る事の危険性を指摘した。
「…………」
「だから…江地さんも絶対に未来の世界に帰らなきゃ…ダメだよっ!!残るなんて、私が絶対に許さないっ!!」
江地が残る事は自分が絶対に許さないと言うみらい
もしこのまま残る方を選択していたら、おそらく首根っこ掴んででも連れて帰ろうとするだろう。
みらいの誰一人欠ける事なく未来の世界へ帰るんだという強い想いは江地に十分過ぎる程伝わってきた。
「…わかった。じゃが、タイムウォッチは…」
「ごめん…それは、絶対にやめられない。」
「…よかろう。協力する。みらいちゃん、一緒に…無事に未来の世界へ帰ろう。」
江地はみらいの決意の籠った瞳を見て、説得するのを諦め、しぶしぶ承諾する事にした。
「江地さん……うんっ! もちろんだよっ!」
「あやつらには…言わないでおこう。この事は、わしと…お主とツバメ君の3人の秘密じゃ。」
「ありがとう…江地さん」
「さて、作業再開するかの。ツバメ君っ、張り切って行くぞっ!!」
「ギプッ!!」
急に張り切りだした江地とツバメ君。
「もうっ…張り切りすぎて、ギックリ腰にならないでよ、江地さん!」
「わかっとるわいっ!」
「ツバメ君もあまり無茶をしないでね。」
「ギプッ!」
「それじゃ、私も作業を再開しますかっ!」
みらいは江地さんの居る、矢熊山の地下研究所でタイムマシンの改良・修理を行っていた。
みらいは江地にタイムスリップの損傷の大きさ、不自然なタイムスリップの事を話した。
そして…まだ開発段階にあるという、タイムウォッチで未来の世界へ帰ると決めた事も…
江地はその危険な選択に大反対し、必死にみらいに説得しようとしていた。
だが、みらいはその江地の説得も振り切り、その危険な選択をやめようとしなかった。
江地はみらいの決心の強さが解ったのか、説得を諦め、しぶしぶ承諾したのであった。
果たして、みらいはそのタイムウォッチを完成させ、無事に未来の世界へ帰れるのであろうかっ!?
今回はみらいちゃんと江地さんとツバメ君の3人の間であったお話です。
なつみ達の知らない所でみらいちゃんがいろいろと江地に話している所です。
さてさて、次は待ちに待った同窓会っ!!
なつみは久しぶりにクラスメイトに会えるという気持ちだけできっと待ち遠しいはず!
それでは第28話へお進み下さい。