今日で四日目…

次の日の朝になり、時刻は6時を指していた。
水木家のなつみの部屋では、なつみはまだベットで寝ており、
みらいはもうすでに起きて、ノートパソコンをいじっていた。

『あともう少しで完成だね!』

「そうだね。」

『江地さんの所で、最終段階に入るんでしょ?』

「うん。」

『部品、足りる?』

「大丈夫。オルゴールの部品はすべて持ち歩いていたから。」

『そっか。じゃああとは完成を待つのみだね。もう一息だよ、頑張ってっ!』

「ありがとう、未来」

『えへへっ』

みらいは未来とオルゴールの作成をしていたようで、完成まで後一息のようだ。

「ねぇ、未来」

『ん?』

「来とちゃんと仲直りしなよ?来は素直じゃないだけなんだからさ。」

『うん…わかってる。私だって、ちょっと意地を張っちゃう時があるし。だから、ちゃんとお兄ちゃんと仲直りしたいな。』

「大丈夫だよ、来と未来なら…」

『そうかな?』

「絶対そうだよ。来はいつも未来の事を気に掛けているんだよ?未来の事、いつも心配しながらも、影で見守っているんだよ?
来にとって、未来は大切な妹。だから、いつも妹の事を第一に考えているでしょ。来は妹思いだから…」

『うん、知ってる。お兄ちゃんがいつも側に居てくれてたから、心強かった。初めて、すぐには会いにいけない状況になってしまった今、
お兄ちゃんの存在が自分にどれだけ必要なのかが、わかったから。』

「じゃあ、大丈夫だよ。」

『うん、ありがとう!みらい』

「未来、頑張ってね。」

『うんっ!』

来と仲直りするように言うみらいに、未来は改めて兄の存在が自分にとってどれだけ大切か解ったから、きちんと仲直りしたいと言った。

「来はきっとこれから少しずつだけど、きっと今まで以上に未来に対して、優しくなるような気がするんだ。だから、その時を一緒に待とう?」

『うん、約束だよ!』

「うん、約束。さてと、息抜きに散歩でもして来よっかな。」

『それ、いいね!行っておいでよ、電源落としていいから。』
散歩に行くのに賛成する未来

「そう?じゃあ、電源を切るね。次に電源を付けるのは、江地さんの所に着いてからね。」

『了解。』

そこでみらいはノートパソコンの電源を切った。

その後、みらいはノートパソコンをリュックにしまい、そのまま静かになつみの部屋を後にして、下へ降りていった。


「ワンッ」
みらいに気づいて吠えたボビー

「しーっ…みんなが起きちゃうでしょ。ボビー、これからお散歩に行くけど、一緒に行く?」
口の前に人差し指を立てながら、ボビーにしか聞こえない程度の小声で話しかけるみらい

「ワンッ」小声でみらいに返事をしたボビー

みらいはボビーのその返事を聞いた後、玄関へ直行し、靴を履いて外へ出ていった。

「うん、いい天気! さて、行こっか。ボビー」

「ワンッ!」

ボビーの返事を聞いた後、みらいはボビーと一緒に歩き始めた。

「今日で四日目か…」

「クゥ〜ン?」
「何が?」っという風にみらいに語りかけた。

「過去の世界へ来て、四日目だなぁって思ってたんだよ。ボビーにとっては、2年ぶりなんだよね?私と会うの。」

「ワンッ!」

「私にとっては…6年ぶり…かな?6年前は赤ちゃんだったから記憶がない。だから、今回が初対面と言ってもおかしくないんだよね。
だけど…こっちへ来てから、全然初対面な気がしなかったんだよね。」

「クゥン?」

「なんでだろう? って思ってるんだ。体がボビーの事を覚えているからかな?未来の世界に居るママも、
私はボビーと仲が良かったって…そう言ってた。だからここに居るボビーとも仲が良いのかな?って…」

「ワンッ!」

「ボビー…変わらず私とお友達で居てくれるの?」

「オンッ!」

「クスっ、ありがとう。ボビー」

「ワンッ!!」

「勇平は…大丈夫かな?」

「クゥ〜ン?」

「勇平は…私とは違って、誰かの支えが必ず必要になるんだ。どうしてか解る?」

みらいのその言葉に対し、ボビーの顔はなんでだろうか必死に考え込んでいた。

「…それはね、勇平がまだ幼いからだよ。」

ボビーはその言葉を聞き、みらいに唸った。

「えっ? 幼いのは私も同じだって?うん、確かにそうだね。でも、私は大丈夫。支えになっているものが、側にあるから。」

ボビーは「誰の支え?」っとでも言いたそうな顔をした。

「内緒♪」

ボビーは「え〜? なんで〜?」とでも言いたそうな顔をする。

「ダ〜メ、教えてあげない。」

周りからしたら、ただの独り言や唸り声に聞こえるだろうが、そうではない。
みらいにはボビーの言っている事が解るようで、1人と1匹での会話をしながら散歩をしていた。


それから時間が経って、6時40分頃…

水木家の方は、浩三郎やるり子が起きており、コーヒーを飲んでいた。

「ボビーはまた居ないようだが、みらいちゃんと散歩にでも出かけたのかな?」

「きっとそうかもしれないわね。」

その時、玄関の方から、ガチャリという音が聞こえてきた。

「あら?みらいちゃんとボビーが帰ってきたのかしら。」

るり子は玄関の方へ向かった。


玄関の方では…

「さっ、ボビー、入って。」

「ワンッ」

みらいはボビーを入れた後、ドアを閉めた。

「ボビー、ここで待っててね?タオルを取ってくるから。」

「ワンッ!」理解したのか、返事をするボビー

「みらいちゃん、ボビー、おかえりなさい。」

「あっ…るり子さん。おはようございます。」

「おはよう。今日はお寝坊さんじゃないのね。」

「タ、タオル取ってきますのでっ」

そこから逃げるように、洗面所の方へ素早く行ってしまったみらい

「あら、逃げられちゃったわ。」

それからすぐ後にみらいがタオルを持って玄関へ戻ってきて、ボビーの足を拭いてあげた。

「これでよし。もう上がっていいよ、ボビー」

「ワンッ」

その後、るり子、みらい、ボビーは居間へ入っていった。

「やあ、みらいちゃん、おはよう。」

「おはようございます。浩三郎さん」

「ボビーはまたみらいちゃんにお散歩に連れてってもらえてご機嫌だな。」

「ワンッ!!」

「まぁ、ボビーてば、すっごく喜んでいるみたいね。」

「そのようだね。」

「みらいちゃん、紅茶飲む?」

「あっ、じゃあいただきます。」

「わかったわ。ちょっと待っててね。」

るり子は台所に行った。

それから少ししてるり子が紅茶を持って戻ってきた。

「はい、どうぞ。みらいちゃん」

「ありがとうございます。」
自分で砂糖とミルクを入れて飲み始めるみらい

「ねぇ、みらいちゃん。一つ聞いても良いかしら?」

「はい?何ですか?」

「みらいちゃんは、未来の世界に居るパパとママの所に早く帰りたい、会いたいって思う時はないの?」

「…ないと言ったら、嘘になりますね。」
るり子にそう言われて少し考え込むが、すぐに答えた。

「じゃあやっぱり…」

「でも、勇平ほどじゃない。勇平は普段から、あまり親に甘えられる時間がないから、もの凄く会いたくなるんだと思います。
でも私は普段から、勇平よりは、親と一緒に過ごせる時間がたくさんある。だから頑張れる。それだけだよ。」

「そう。じゃあ、全然寂しくないってわけではないのね?」

「はい。」

「みらいちゃんは強いんだね。」

「別に普通だよ。」

「ねぇ、みらいちゃん。もう一つだけ、聞いていいかしら?」

「どうぞ。」
もう一つ質問を追加されたのに、嫌な顔をまったくせずに了承する。

「ここに居るなつみの事だけれど…」

「なつみお姉ちゃんの事は、傍に居て安心出来る存在です。」
るり子の聞きたい事を悟り、みらいはすぐに答える。

「あら、まだ何も言っていないのに…」

「だいたい予想つきますから。なつみお姉ちゃんが何かに不安を抱いていたんでしょ?私があまりにも落ち着いているから。」

「その通りよ。みらいちゃんはあまり感情を表には出さないから、みらいちゃんがここに居る
自分達の事をどう思っているか、不安を抱いていたのよ。」

「そうだったんですか。」

「みらいちゃん、もっと私達を頼ってくれていいんだよ?私達に出来る事なら何でも協力する。」
黙って聞いていた浩三郎がみらいに話し掛ける。

「いえ、申し出て頂けてありがたいんですけど、江地さんがタイムマシンの修理・改良を済ませてくれれば帰れますから、ご心配なく。」
気持ちだけ貰うと言うみらい

「そうかい?でも、ほんとに遠慮しないで、困った事があったら言っていいからね。」

「はい、ありがとうございます。」

3人の間でこのような会話をしていた。


それから時間が経ち、午前8時頃…

「ふぁ〜…よく寝た。」

なつみはベットから出て私服に着替え、その後髪をくしで梳いてから下へ降りていった。


二階から降りて、居間へ行くと…

「あら、おはよう。なつみ」

「おはよう、なつみ」

「おはよう! パパ、ママ」

「すぐに朝ご飯の用意をするわね。」

「うん、ありがとう。あれ? ねぇ、みらいちゃんは?」
みらいが居ない事に気づくなつみ

「ああ、みらいちゃんなら、もう出かけたよ。」

「ええっ!? もう出かけちゃったの!?」
まだ寝ていると思っていたので驚くなつみ

「ああ。」

「はやっ…」

「はい、朝ご飯。」

「ありがとう、いただきます。」

「今日の同窓会では、元4年2組だった子、全員集まるそうね?」

「うんっ! タマエがそう言ってた。」

「そう。ゆっくり楽しんでらっしゃいね。」

「うん!」

「でも、今さらだけど、そんなに楽しみにしている同窓会なのに、ほんとに夢の事を任せていいのかしら?」
とても楽しみにしていた同窓会なのに、申し訳無さそうに聞くるり子

「大丈夫だよ!2年前の時にみらいちゃんが来た時にも、みんなで面倒を見ていたから、きっと今回もみんな助けてくれるよ。」

「そう、ならいいのだけれど。」

「ん?もうこんな時間か。じゃあ私はそろそろ会社へ行くよ。」

「あっ、いってらっしゃい! お仕事頑張ってね!」

「ああ。なつみもゆっくり楽しんでおいで。」

「あなた、いってらっしゃい。」

「ああ、行ってくるよ。それじゃ、行ってきます。」

「「行ってらっしゃ〜い!」」

「あっそうそう。なつみ」

「ん?何?ママ」

「今日、みらいちゃんが出かける前に聞いたんだけれど…」

「みらいちゃんに何を聞いたの?」
何を聞いたか気になるなつみ

「一つ目は、みらいちゃんが今、パパとママに会えなくて寂しくないのか、会いたくならないのかって事。」

「えっ!? そんな事聞いたの!?」

「ええ。」

「そ、それでみらいちゃん、何て答えたの!?」

「ないと言ったら嘘になるって。」

「やっぱり…」

「でも、勇平君ほどではないんですって。」

「勇平君ほどじゃない?」

「ええ。勇平君は普段から親に甘えられる時間があまりないから会いたくなるんですって。」

「みらいちゃんは?」

「みらいちゃんは普段から、勇平君よりもたくさん親に甘えられる時間があるから頑張れるんですって。」

「そうなんだ…すごいな、みらいちゃん」

「ええ、そうね。二つ目は…なつみ、あなたの事よ。」

「えっ?」

「ここに居るなつみの事は、傍にいて安心出来る存在ですって。」

「それ…ほんと?」

「ええ、本当よ。」

「みらいちゃん…」
みらいが今傍に居る自分の事をどう思っているのかをるり子から聞いて嬉しそうにするなつみ

「良かったわね、なつみ」

「うんっ!!」

それから少し時間が経った後、なつみは朝ご飯を食べ終えた。

るり子は空になったコップと皿を持って台所に行き、洗い始めた。
なつみはその間、居間で妹の夢の面倒をを見ていた。



一方、同時刻8時頃の山口家では……

大介と大平の部屋に目覚まし時計が鳴り響いていた。
大介は目覚まし時計を手探りで止め、それから起きた。

「う、う〜ん…朝か…」
大介が自分の横を見ると、そこには安心して眠っている勇平がいた。

まだ眠っている勇平を見つめながら、昨日の夜中に起こった事を思い出す大介


<昨日の夜中の出来事>

――夜中1時頃――

勇平が寝ている部屋では勇平が魘されていた。

少ししてから勇平は未だに魘され続けながらも、泣き喚き始めた。

その声に気づいた山口家の人達は起きた。

佐和子や大介や大平や徳さんらは勇平の部屋へ急いで向かった。

一番に到着したのは大介だった。

『どうしたんだ! 勇平っ!』

『えっぐっ…えっぐっ…』

『勇平? (もしかして…これがみらいの言っていた、夜泣きか?)』
魘されながら泣いている勇平を見て、これがみらいの言っていた夜泣きかな?と思った大介

そう思っているうちに佐和子達もやってきた。

『勇平君、どうしたんですか!?』

『大介坊ちゃん! 勇平坊ちゃんに何かあったんですか!?』

『わかんねぇ……けど、もしかしたら、これがみらいの言っていた夜泣きかもしれねぇ…』

『夜泣き? その勇平君が?』

『ああ。』

大介はそう返事をしながら、再び勇平の方を見た。
他の3人も釣られて勇平の方を見る。

大介は未だに魘されながら泣いている勇平を起こした。

『おい、勇平。起きろ、勇平』
体を揺さぶりながら呼びかける。

それから少ししてから、勇平が起きた。

『あれ……僕……』

『勇平、大丈夫か? だいぶ魘されていたみてぇだけど…』

『大介兄ちゃんっ!』
大介に飛びつき、そのまま再び泣き出す勇平

『お、おい、勇平』

『大介さん、勇平君は怖い夢を見たんじゃないでしょうか。』

『怖い夢を? そうなのか?勇平』

『うん…だって、一人で寝るの、怖いんだもん! みらいちゃんが側に居なくて、パパやママも側に居なくて、
いつも一緒に寝てくれる人がここにはいないんだもん!!一人で寝るのは……嫌だよ〜、うわぁ〜んっ』
1人で寝るのが怖いと言いながら泣く勇平

『勇平…』

『ひっくっ…ひっくっ…』

『勇平、俺と、俺と一緒に…寝るか?』

『えっ…』

『お前が未来の世界へ戻れるまで…俺がお前と一緒に寝てやるよ。』

『ほん…と?』

『ああ、ほんとだ。』

『じゃあ、一緒に寝てくれる?』

『ああ。』

『勇平君、兄ちゃんと僕の部屋においでよ!』
自分達の部屋へおいでと誘う大平

『えっ?』

『そーだな。よし、俺と大平の部屋に来いよ。一緒に寝ようぜ。』

『…うんっ!』

『じゃあ大介さん、何かありましたら教えて下さいね?』

『ああ。』

『私も何かありましたら、ご協力致しますぞ。』

何かあったら、自分達を呼んで欲しいと言う佐和子と徳さん

『サンキュ。大平、部屋に戻るぞ。』

『うん。』

その後、勇平は大介と大平と一緒に2人の部屋へついていった。

大介達が部屋に戻った後、上のベッドに大介と勇平が、下のベッドには大平が。

『そんじゃ、寝るか。おやすみ、勇平』

『うん…おやすみなさい。』

<回想終了>


そんな事があったことから、今、勇平は大介と同じベッドで寝ているのであった。

「さて、勇平をそろそろ起こすか。おい、勇平、起きろっ!朝だぞっ!」

「う、う〜ん…」

「おい、起きろってば」

「う〜…大介お兄ちゃん、おはよう〜」
唸りながらも勇平は起きて、大介に挨拶する。

「おう、おはよう。勇平」

大介と勇平は2段ベッドから降りてきた。

そして下のベッドで寝ている大平を大介が起こす。

「おい、大平!朝だぞ、起きろっ!」

「う〜、まだねむい〜」

「だめだ、起きろっ!」

大平は大介にそう言われ、まだ眠い目をこすりながらも、ベッドから降りた大平

「おしっ、起きたな!」

「兄ちゃん、勇平君、おはよう!」

「おはよう!」

「ああ、おはよう。んじゃ着替えて朝飯食いに行くぞ。」

「「は〜いっ」」



水木家と山口家の両家では、それぞれ四日目の朝を迎えていた。
水木家では、みらいが早朝にボビーと散歩に出かけ、ボビーと話をしていた。
こっちの世界へ来て4日が経った事や、ボビーとは初対面のはずがそうじゃないと感じる事。
そして、勇平を心配している事を…
ボビーはまるで人間のようにみらいの話を聞き、みらいにはそれが嬉しかったようだった。
みらいが言っていた支えとはいったい誰の事なのだろうか?
起きてきたなつみにるり子がみらいに聞いた事を伝えた。
みらいが未来の世界に居るパパとママに会えなくて寂しくないのか、会いたくならないのかという事。
そして、ここに居るなつみ自身をどう思っているのかを。
なつみはるり子からその事を聞き、嬉しくなるのであった。
そして、同じく山口家では、みらいの心配していた通り、勇平は誰かの支えを必要としていた。
大介は預かっている責任を感じてか、無事に未来の世界へ戻れるまで、自分が勇平の支えとして傍にいる事を決意したのであった。
この時、大平も何を思ったのか、大介と一緒になって、勇平に優しく接していた。
果たして、この2人の必死の支えは、勇平を支えていく事が出来るのであろうか!?


第27話へ進む。


今回のお話では、それぞれが4日目の朝をどのように迎えているかというお話です。
みらいにはみらいなりの4日目の朝を迎え、なつみや大介や勇平や大平も
同じようにそれぞれ4日目の朝を迎えていましたね。
次のお話は、江地さんの居る矢熊山の地下研究所でのみらいちゃんのお話です。
それでは第27話へお進み下さい。

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