西暦1995年の過去の世界の方では、現在夜中の4時頃…
水木家では、約1名だけがまだ起きており、その他の人達は全員寝ていた。
なつみの部屋で静かな方ではあるが、少々音がしていた。
その音はなつみの部屋にある、2階から聞こえるようだ。
そこに居たのは、みらいであった。
その2階の上をしばらくの間、みらいが寝る場所としたらしく、布団が置かれていた。
現在、みらいは両耳にイヤホンをつけ、ノートパソコンと繋いでおり、
みらい専属ネットナビゲーターである「未来」と、何やら作業を行っていた。
なぜ両耳にイヤホンをつけて、ノートパソコンと繋いでいるのかというと、音が外に漏れないよう、
そしてなつみや他の皆を起こさないようにするためであった。
『どう?』
未来がみらいに聞くと…
みらいは声を出さずに「ダメ。」と顔で表現しながら、首を横に振った。
その後、みらいはタッチバットに手を置き、また何かを始めていた。
画面の方を見てみると、何やらざまざまな音符が並べられていたのであった。
音質や、音色や、音程などを少々変えてみた後、未来に「再生して。」というように、
目で合図すると、未来はそれに従い、また音を再生させていた。
ずっとこれの繰り返しをしていたのであった。
再生し終わった後、未来はまだみらいに聞いた。
『この音色は?』
みらいはそれに対し、「これもダメ。」という風にまた首を横に振った。
『はぁ〜…ねぇ、みらい〜』ため息をつく未来
みらいは「何?」という風に未来に顔で表現する。
『もうあれから3時間もやってるよ?大丈夫?』
そう、みらいは一度寝た後、夜中の1時あたりに起き、そして今の状況に至っていたのであった。
みらいは未来の言葉に、「大丈夫。」という風に伝えた。
『そう。でもあまり無茶はしないでよ?』
主であるみらいの事を純粋に心配する未来
「解ってる。」とみらいは首を縦に振った。
『なかなか良い音色が見つからないね。』
「うん、そうだね。」という風にみらいは顔で表現する。
『でもどうして自分が持っているオルゴールと同じメロディーにしないの?』
「それじゃ意味ないよ。」
今まで声を発さなかったみらいが、未来にしか聞こえない程度の小さな声で言う。
『…勇平君のために作る…オルゴールだから?』
「そう。」という風に首を縦に振った。
『どんな風なメロディーにしたいの?』
「…勇気が出せるメロディー…っかな?」
未来にしか聞こえない程度の小さな声で教える。
『勇気が出せるメロディー?』
「うん。」という風に首を縦に振った。
『…勇平の名前に勇気」の「勇」があるから?』
みらいは未来の答えに対し、こう答えた。
「確かにそれもあるかな。でも、勇平自身が自分から行動を起こそうとする勇気を持って欲しいという小さな願いからでもあるかな。」
小声ながらも、未来の問いかけに答えるみらい
『へぇ…』
「それに…大平さんから、勇平の名前の由来を前に聞いた事があったからね。」
『人を思いやる気持ちも確かに大切だけど、たまには自分の事にも気に掛けたら?』
「自分に気を掛けられなくてもいいよ、別に。」
自分の事なんてどうでもいいという風に言うみらい
『みらい…でも、それじゃあ、未来の世界で待っているみらいのご両親が心配するよ?』
「大丈夫。ちゃんとその辺には気をつけるから。」
『……解ったよ。でも、もう4時半になっちゃったから、作業をやめて、体を休ませよう?』
これ以上言っても無駄だと解り、そこでその話を終わらせるが、
みらいの事が心配な未来はせめてこれ以上の作業はやめるように言う。
「ありがとう…未来。解ったよ。」
未来の想いを素直に受け止めるみらい
みらいは今開いている「オルゴール2の曲作成」というファイルを上書き保存をし、ノートパソコンの電源を落とした。
その後、みらいは布団に入り、再び眠るのであった。
そして、その日の朝、午前7時頃……
ジリリリリッ、ジリリリリッ…
なつみの部屋の目覚まし時計が鳴り始めた。
なつみはその音で起きて、目覚まし時計のスイッチを切った。
「ふぁ〜…朝か…」
なつみはベットから降りて、パジャマを脱ぎ、制服に着替え始めた。
着替え終わった後、鏡の前で髪を整えてから鞄を持って部屋を出ていった。
まだみらいが寝ているとは知らずに…
下へ降り、なつみはリビングへ行った。
「おはようっ!」
「あら、おはよう。なつみ」
「おはよう、なつみ」
リビングに居たるり子と浩三郎がそれぞれ応える。
「あれ?みらいちゃんは?」
周りをキョロキョロと見回しながら聞くなつみ
「さぁ?まだ寝ているんじゃないかしら?私達が起きた時には、まだ起きてきていなかったから。」
「そうなの?」
るり子の言葉を聞いて驚くなつみ
「ああ。昨日は早起きだったが、今日はお寝坊さんだな。」
「起こした方が良い?」
「別に良いんじゃないかしら?みらいちゃんは学校へ行くわけでもないし。」
「それもそうだね。」
るり子の言葉にそれもそうだと思い、起こすのをやめるなつみ
「それじゃあ朝食にしよう、なつみも来た事だし。」
「そうしましょうか。」
浩三郎にそう言われて、朝食に賛成するり子
「あっ!そういえばいづみおばさんは?」
「あら、そういえばそうね。なつみ、悪いけれど…いづみを起こしてきてくれるかしら?」
なつみに言われて、妹のいづみがまだ起きてきていないのに気づき、なつみにお願いする。
「うん、解った。」
なつみはいづみを起こしにまた2階へと上がっていった。
いづみの部屋の前に着き、なつみは一度ノックをしてから、ドアを開けた。
「おばさん?起きてる?」
声を掛けながら中へ入っていくなつみ
いづみはまだ起きておらず、寝ていた。
「……呆れた、大事な日なのに…」
なつみはため息をつきながらも、いづみを起こす事にする。
「おばさん、おばさんってばっ!」
「ん〜…何よ〜、こんな朝っぱらから〜。もう少し寝かせろ〜」
「…ふ〜ん、じゃあすっぽかすんだ?」
「ん〜?なにをだ〜?」
「おばさんが昨日言っていたサイン会。」
「サイン会?…あーっ!そーだったっ!急がないとっ!」
なつみに言われて今日の予定を思い出し、いづみは慌てて飛び起きて服を着替え始めた。
「ママがおばさんの分の朝食も用意してくれてるから。じゃあ、私先に下に降りるね。
あっ、ドタバタと降りてこないでね?夢が目を覚まして泣き出しちゃうから。」
「ああ、わかったっ!」
なつみはいづみの部屋を出て、下へと降り、リビングに戻ってきた。
「いづみ、起きた?」
「うん。サイン会の事、昨日自分で言ったばかりなのに、もう忘れていたみたい。
今慌てて着替えている所。もうすぐ降りてくるよ。」
母であるるり子にいづみの事を伝えるなつみ
「そう。」
そして、少しだけ時間が経ち、朝食の用意ができた。
その時、いづみが降りてきた。
「あら、いづみ。おはよう。」
「おはようっ、るり子姉ちゃん!朝飯は!?」
「もう出来ているわよ。」
いづみはすぐに席に座り、「いただきます!」と言ってから大急ぎでガツガツと食べ始めた。
食べ終わると、いづみは「ごちそう様!」と言い、そのまま玄関の方へ直行し、出かけていってしまった。
「…すごい慌てよう…」
「まあ、いづみったら…」
呆気に取られるなつみとるり子であった。
「私達もそろそろ朝食を取ろう。」
「うん、そうだね!」
「「「いただきます。」」」
それからまた少し時間が経ち、なつみは朝食を食べ終えた。
「ごちそう様でしたっ!それじゃあ、そろそろ夢を起こしてくるね。」
朝食が終わると、夢を起こしに行くなつみ
「ええ、お願いね。」
「は〜い。」
なつみはまた2階へ上がっていった。
夢が寝ている夫婦部屋へ行く前に、なつみは自分の部屋へ向かっていた。
ドアをそ〜っと開けて閉め、なつみはみらいが寝ている2階へと上がった。
「すぅ…すぅ…すぅ…」
なつみに気づく事なく、ぐっすりと眠っていたみらい
「ウフフッ、良く寝てる。」
「……おにいちゃん……」
みらいはとても小さな声で呟いた。
「えっ…」
「すぅ…すぅ…すぅ…」
「今、何か呟いていたような気がしたんだけど……気のせい…かな?」
なつみはしばらくみらいの寝顔を見ながら考えていたが、夢を起こす事を思い出し、考えるのをやめ、
みらいが寝ている2階から降りて部屋を出て、夫婦部屋へ向かい、昨日と同じように夢を起こし、
抱き上げてそのまま夫婦部屋を後にし、下へ降りていった。
「ママ、夢をソファーの上に降ろしとくね。」
まだ眠たそうにしている夢をソファーにそっと降ろす。
「ええ、ありがとう。」
「あっ…もうこんな時間だ!それじゃ私、学校へ行って来るね!」
なつみはソファーの上に置いておいた鞄を持ち、玄関の方へ行き、靴を履いた。
「なつみ、いってらっしゃい。」
「いってきまーす!」
なつみは家を出て、学校へ走って向かっていった。
なつみは夢が丘中学校へ着き、1年3組の自分の教室へ向かった。
1年3組の教室に着き、なつみは教室の中へと入っていく。
「あっ、なつみ!おはようっ!」
「なつみちゃん、おはよう。」
なつみが来た事に気づき、声を掛けてきたタマエとえり子
「はぁっ…はぁっ…タマエ、えり子ちゃん、おはよう!」
息切れしながらも、親友の2人に挨拶する。
「なつみ、走ってきたの?」
「うん。間に合って良かった〜。」
「お疲れ様、なつみちゃん」
その時、教室の中に大介が入ってきた。
「あっ、大介。おはようっ!」
「おう。」
「今日はなつみちゃんも、山口君も遅刻ぎりぎりね。」
「セーブを切れて良かったわね、2人とも。」
「あ、ああ。ちょっとな…」
「私も家でちょっと…」
どこかグッタリしている様子の大介となつみ
ちょうどその時、チャイムが鳴ったので、なつみ達はそれぞれの席へと座った。
一方、その頃の水木家では…
浩三郎はあの後会社へ出勤し、るり子は夢の面倒を見ていた。
みらいはいまだに起きてきていなかった。
現在時刻は9時を指していた。
「あら、もう9時。みらいちゃん、まだ起きてこないわね…」
2階へ上がる階段の方を見つめながら呟くるり子
「そろそろ起こしましょうか。」
夢がちょうど、また眠たくなって寝てしまっていたので、夢をその場に残し、
るり子は2階のなつみの部屋へ向かった。
るり子は、ノックをしてからドアを開け、中へ入ってきた。
「確かみらいちゃんは…」
なつみの部屋の2階に上がり、るり子はみらいの居る方に視線を向けると…
みらいはまだ布団の中で眠っていた。
「すぅ…すぅ…すぅ…」
「まぁ…クスっ、可愛い寝顔をして寝ているのね。……その寝顔、小さい頃のなつみにそっくりね。」
なつみの小さい頃の事を思い出しながら、るり子は優しい目でみらいの寝顔を見ていた。
「……パパ……ママ……」
先程なつみが居た時と同じようにとても小さな声で呟くみらい
「あら。」
るり子はその小さな声で呟いたみらいの言葉を聞き逃さなかった。
「……すぅ……すぅ……すぅ……」
「クスっ、みらいちゃん、未来のなつみと、未来のなつみの旦那さんとの楽しい夢を見ているのね…」
るり子は自分の事のように微笑んだ。
「…もう少し寝かせてあげましょうか、せっかく楽しい夢を見ているのに、邪魔できないわ。」
みらいの身体が少しだけ布団からはみ出ていたので、るり子はみらいを起こさないように、そっと布団をかけ直してあげた。
その後、るり子はみらいの居る2階から降り、なつみの部屋を出て行った。
それから1時間後、10時頃にみらいは目を覚ました。
「ふぁ〜……ねむ……」
体を起こし、まだ目が寝ぼけていながらも布団から出て、きちんと布団を畳んでから2階から降り、
なつみの部屋を出て、下へ降りていった。
「あら、みらいちゃん、起きた?おはよう。」
みらいが起きてきたの気づいて声を掛けるるり子
「あっ、おはようございます。るり子さん」
みらいは居間にある時計を見て、現在の時刻を見た。
「…10時10分……寝過ぎた…」
「昨日はあんなに早起きだったのに、今日はお寝坊さんね。」
「…すみません…」
申し訳なさそうな顔をするみらい
「みらいちゃん、朝ご飯、食べる?」
「えっ?」
「ちゃんとみらいちゃんの分も用意しておいたのよ、いつ起きてきても良いように。」
「あっ…ありがとうございます。じゃあ…お言葉に甘えて、朝ご飯頂きます。」
「解ったわ。ここでちょっと待っててくれるかしら?」
「はい、わかりました。」
るり子はみらいの返事を聞いた後、台所へ行き、みらいの朝食の用意をし始めた。
少し時間が経ち、るり子はみらいの朝食を持って、居間へ戻ってきた。
るり子は持ってきたみらいの朝食をテーブルの上に置いた。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。それじゃあ、いただきます。」
手を合わせながら言ってから、朝食を食べ始めた。
「それにしても、ほんとに今日はお寝坊さんね。みらいちゃん」
「あはははっ…すみません。」
「ウフフッ…良いのよ、別に謝らなくても。」
「あっ、はい、わかりました。」
「みらいちゃんの顔、ほんっとになつみにそっくりね。顔つきも昔のなつみを見ているようだわ。」
「…そんなに似てます?」
「ええ、とっても。なつみの小さい頃の写真…見る?」
「いえ、遠慮しておきます。」
「まあ、別に遠慮しなくても良いのに。」
「私、あまり人のプライベートを覗きたくありませんので。」
「まぁ…」
「人には知られたくないプライバシー…誰でも必ずあるでしょ?
だから、あまり覗きたくないんです。特に張本人無断での事には。」
「あら、なつみなら別に大丈夫だと思うけれど…」
みらいは娘なのだから大丈夫だろうと言うるり子
「いえ、本当に結構ですから。私、あまり興味がないので。」
元からそういった事に本当に興味がない様子。
「あら、そうなの?」
「はい。」
「そういえばみらいちゃん…こっちへ来てから、こっちのなつみと一緒に居ても、全然動じたり、
戸惑ったりしていなかったわね。未来のなつみとそんなに変わらないのかしら?」
ここに来てからのなつみとみらいのやり取りを思い出しながら聞く。
「いいえ、全然違います。」
「あら、きっぱりと言うのね。」
「はい。動じたり、戸惑ったりしないのは、どんな姿でも、いつの時代のママでも、私にとっては血の繋がった母親だからでしょう。
だから別に動じたり、戸惑ったりせずに、ありのままを受け止めます。」
「まあ。」
「ごちそう様でした。」
朝食を終えたみらいは手を合わせながら言う。
「クス、クスっ」
その時、るり子が笑い出した。
「どうしたんですか?るり子さん」
るり子が突然笑い出した理由が解らないみらい
「みらいちゃんがまだ寝ている時に、一度なつみの部屋に様子を見に行ってきたのよ。」
「えっ?」
「本当は起こすつもりでいたのだけれど、その時のみらいちゃんの寝言で起こすのをやめたのよ。」
どうやら、みらいがまだ寝ていた時に聞いた寝言の事を思い出して笑っていたようだ。
「…どんな寝言…言っていたんですか?」気になるみらい
「クスっ、それはとても答えられないわ。ただ、みらいちゃんが楽しい夢を見ていたみたいだったから、
邪魔しちゃ悪いかな?って思って起こさなかったのよ。」
「……別に気を使わないで、起こしてくだされば良かったのに。」
「クスっ、あの寝言を聞いたら、誰でも起こしづらくなるわよ。きっと。」
あの寝言を聞けば、例え他の人でもきっと起こせないだろうと言うるり子
「……」
みらいはるり子のその言葉に返す言葉なく、ただ黙り込んだ。
みらいは、どんな寝言を言っていたかは知らないが、よほど自分にとっては恥かしい
寝言だったのかもしれないと思ったのか、照れ隠しに黙り込んでしまったのだった。
そう、みらいは照れているのを隠す時には必ず無言になってしまう癖があるようだった。
それから時間が経って昼頃になり、なつみ達の通う夢が丘中学校では、午前の授業が終わり、本日の授業は終了していた。
「なつみちゃん、一緒に帰りましょ。」
「なつみ、今日も一緒に帰ろう?」
「うん、そうだね!」
「山口君、一緒にどう?」
大介も一緒にどうかと誘うえり子
「俺は別にいい。俺、これから幼稚園に大平を迎えに行かなきゃならねぇしな。そんじゃあな!」
「待って!」
大介を呼び止めるなつみ
「ん?なんだよ?なつみ」
「私、大平ちゃんが通っている幼稚園、行ってみたいな。」
「はっ!?」
突然何言い出すんだと驚く大介
「あっ、私も行ってみたいわ!」
「なつみ達が行くなら、私も行く!」
なつみに続いて、タマエとえり子も行くと言い出した。
「お、おい…」
「ダメ?」
「べ、別にダメじゃねぇけど…」
なつみにダメと言えない大介
「んじゃ、決定!」
「おい、おいっ……勝手に話を進めるなよ…」
大介はそう言いながらも、内心ではなつみと一緒に居られる事を喜んでいた。
なつみ達は教室を出て、靴箱で靴を履き替えてから夢が丘中学校を後にし、夢が丘幼稚園へと向かった。
夢が丘幼稚園へ行く途中の道で……
「ねぇ、大介」
「なんだ?」
「今日の勇平君の面倒、誰が見てるの?」
「ん?そりゃあ義母さんに決まってんだろ。午後からは俺だけど。」
なつみの疑問に答える大介
「そっか。勇平君の様子、あれからどう?」
「いや、特にこれといった事は何もねぇけど…ちょっとな。」
「何?何?なんかあったの?」気になったタマエ
「いや、大した事じゃねぇよ。ただ…みらいが勇平の事を放っておけねぇ気持ちがなんとなく解っちまっただけだ。」
「えっ?みらいちゃんが、勇平君の事を放っておけない気持ち?」首を傾げるなつみ
「ああ。あいつ、今もいじめられっ子の上、友達を作る事にトラウマを抱いているみてぇなんだ。」
「お、お友達を作る事にトラウマを?」
「ああ…」
大介は、昨日家に帰ってから勇平と話した時の事をなつみ達に話し始めた。
「…っというわけなんだ。」
「なるほど、だからみらいちゃん、勇平君にあんなに優しく接してるんだ。」
「ただのいとこ同士なだけなのに、そんな勇平君の事に構ってあげられるなんて……みらいちゃん、優しすぎるわ。」
みらいが勇平の事をとても気に掛けている理由が解り、納得するタマエとえり子
「ああ…俺らには絶対真似できねぇかもな。」
「そうだね…」
「そういうなつみこそ、みらいの様子はどうだ?」
「えっ?みらいちゃん?」
「ああ。」
「別に何も変わりないよ。それに今日はまだ一度もお話ししていないし。」
「えっ?どういうこと?なつみちゃん」
「みらいちゃん、まだ寝てたんだ。」
えり子の疑問に答えるなつみ
「へぇ〜、そうなんだ。」
「昨日はうちのパパとママよりも早起きだったんだけどね。」
「へぇ〜」
「…なあ、みらいって…なつみと同じ時間に寝たんだろ?」
「うん、そうだよ。どうかした?」
「いや、ただ…よく寝るなと思ってな。」
なつみと同じ時間に寝たはずなのに、起きるのが遅いみらいに少し引っかかりを覚えてしまう大介
「ふ〜ん。あっ、そういえばあまりに聞き取りにくかったから確信は持てないけど、
今朝、みらいちゃんの様子を見に行った時、寝言を言ってたんだ。」
今朝のことを思い出すなつみ
「寝言?」
「うん。確か…『おにいちゃん』って呟いてた。」
「おにいちゃん?」
「うん。」
「まあ、いったい誰の事かしら?」
「まさか、大介の事だったりして…」
「まさかっ!あいつ、俺のことを『大介お兄ちゃん』って呼んでんだぜ?俺の事なら、名前も呟くはずだろ。」
「そんなのわかんないじゃな〜い。」
「そうよ、山口君。」
「いや。それ、ぜってー俺の事じゃねぇから。」
「…私もそう思うな。」
「だろ?」
「なつみ〜」
「あはははっ…」
なつみ達は、みらいが呟いたその「おにいちゃん」が誰の事を示しているのか話していた。
「おっ、着いたぜ。」
大介の言葉で立ち止まるなつみ達
「じゃあ大平連れて来るから、ここで待っててくれよ。」
大介はなつみ達に言い、夢が丘幼稚園の中へと入っていった。
少し時間が経ち、大介が大平を連れてなつみ達の元へと戻ってきた。
「大平ちゃん、こんにちは。」
「こんにちは。」
「ウフフッ、大平ちゃんってほんとうに礼儀正しいわね。」
「うん、うん。大介とは大違いね。」
「おいっ、タマエ!そりゃどーゆー意味だよ!?」
「言ったまでの意味よ。」
「タ、タマエちゃん…それはちょっと言い過ぎじゃないかしら?」
「いーの、いーの。」
「タ〜マ〜エ〜!お前な〜、人の事なんだと思っていやがるんだ!!」
「あはははっ…」
「ん?どうしたんだ?なつみ」
大介はさっきから何も喋っていないなつみに声を掛けた。
「あっ…ごめん。」
「なつみちゃん、大丈夫?」
大介だけではなく、タマエやえり子もなつみの事を心配する。
「うん、大丈夫。ちょっと…考え事をしていただけだから。」
「考え事?何を考えていたのさ?なつみ」
気になってなつみに聞くタマエ
「…今朝…みらいちゃんが呟いていた…寝言の事…」
「みらいちゃんの寝言?」
「うん、そう。」
「確か、『おにいちゃん』って呟いていたのよね?」
「うん。だってさ、誰の事かはまだ解らないけど、もしその『おにいちゃん』っていうのが、
みらいちゃんの実のお兄さんの事だったらって思っちゃって…」
「確かにそういう考えもあるよね……ってことはなつみが結婚する時期がいつなのかがますます解らないわね。」
「確かにそうね。」
みらいの実のお兄さん説を聞かされ、タマエとえり子はありえなくもないと言う。
「…別にそんなに深く考えても答えは出てこねぇよ、考えるだけ時間の無駄だな。
それに、そんな先の未来の事なんて俺らには解らねぇんだし。」
「ちょっと大介!あんたその言い方、ちょっと冷た過ぎ。」怒るタマエ
「…そうだね、大介の言う通り、くよくよ悩んでても仕方ないよね。なんたかどうでもよくなってきちゃった!」
「だろ?」
「うん!」
そこで大介となつみは、その時、無意識のうちに、2人だけの世界へ入っていったのである。
ところが、そんな絶景の良い雰囲気な所をタマエは気づかずに、声を掛けてしまった。
「ちょっと2人とも〜、勝手に2人だけの世界に入って納得しあわないでよ〜。」
「だ、誰がこいつと2人だけの世界に入るかっ!」
「そうよ、どうして私がこんな奴と2人だけの世界に入らなきゃいけないのよ!」
「なっ!?「こんな奴」で悪かったなっ!!」
「そっちこそ何よっ!「こいつ」で悪かったわねっ!!」
お互い顔と顔で向き合い、目と目で睨みあって言い争い始めてしまった。
「ちょっと2人とも…」
「喧嘩は良くないわ。なつみちゃんと山口君、落ち着いて!」
「「ふんっ!」」
大介となつみの2人は両方とも目を逸らした。
(なつみのバカやろうっ!)心の中で思う大介
(大介のバカっ!)心の中で思うなつみ
「はぁ〜…(どうして2人はいつもこうなのかしら…)」
ため息をつきながら思うタマエであった。
「にぃちゃん…」
「それじゃ、俺達はここで分かれ道だから。ほら、行くぞ、大平!」
大介は弟である大平の手を引っ張りながら、帰っていくのであった。
なつみとの仲直りもしないで…
「それじゃあ私達も帰りましょうか。」
「うん、そうだね。いこっ、なつみ」
「あっ、うん。」
なつみ達もそれぞれの家へと帰っていった。
なんとみらいは、皆に内緒で、わざわざ徹夜をして、勇平のためにオルゴールの完成を急いでいたのだった。
未来はそんな自分のご主人様の事を心配しながらも、全面的に協力をしてあげている様子。
そして次の日には、そんなみらいの徹夜の事を知らないなつみ達はみらいがただ単に寝坊をしているだけと思っているのであった。
なつみは食事の後、夢を起こしに行くついでに、みらいの様子を見に行くのだった。
なつみは、みらいがあまりに小さな声で呟いていたので、聞き取りにくかったようで、
確信が持てていないらしいが、みらいは寝言で「おにいちゃん」っと言っていたとの事。
これは一体どういう事なのか!?
なつみは大介達にその寝言の話を話し、そして考えていたが答えがなかなか出ず、
大介の言葉でなつみはそんな事がどうでも良くなってしまったのだった。
大介となつみはその時、無意識のうちに、2人だけの世界へ入っていったのであった。
だが、その絶景の良い雰囲気にある大介となつみをタマエの言葉で現実へと戻り、2人はまた喧嘩を始めてしまった。
とりあえず、喧嘩は治まったが、お互い仲直りもしないまま分かれてしまった。
一体この先どうなってしまうのであろうか!?
そして、2人は無事に仲直りする事が出来るのであろうか!?
今回のお話では、みらいが徹夜をして、必死にオルゴールの完成を急がせています。
その徹夜のせいで、その日の朝は寝坊してしまうみらいちゃん。
しかも、自分の知らない間に、無意識に言葉を呟いていた事をるり子に聞かされ、無言になってしまうみらいちゃん
そして、みらいちゃんの呟いた寝言の事をなつみは大介達に言い、一緒に誰の事なのかを話し合わせてみました。
それでは第19話へお進み下さい。