2人の願い

その頃の2013年はというと、現在午後7時を回っていた。
水木家では、大介となつみがある人物が帰ってくるのを待っていた。

「遅い!」

「遅いわね…大平ちゃんの話では、夕方頃だって言っていたのに…」

「もう7時だぞ。夕方と呼ぶより、もう夜だ。遅過ぎる。」

「そもそも今、大地が何をしているのかも解らないのよね。大平ちゃんも何をしているかは知らないって言うし。」

「ああ。それは俺も知らねぇな。」

「みらいは知っていたのかしら?大地が何をしているのか。」

「さぁな。けど、たぶん知ってるんじゃないか?大地が帰ってくる日を知っていたみたいだし。」

「それもそうね。」

その時、突然ベロが伏せていた耳を動かし、立ち上がって吠え始めた。

「ワンッ!ワンッ、ワンッ!!」
ベロは吠えながら、玄関の方へと走っていった。

「「ベロ?」」

大介となつみもベロの後を追いかけて玄関の方へ向かった。


そして水木家の玄関の方では…

ガチャッ

「ただいま。」

今帰ってきたのは、茶色の髪を逆立てて固めた様は鋭い瞳と相まって、世間への反発を感じさせ、
彼の眼光からは周りを怯ませる程の強い意志の強さが認められ、彼の事を良く知らない者からみれば、
触れるものは片っ端から傷つけられてしまいそうだと誤解をされそうな少年だった。

「ワンッ!ワンッ、ワンッ!!」
ベロは吠えながら、今帰ってきた少年へ飛びついた。

「ん?ベロか、ただいま。」

「ワンッ、ワンッ!」

その少年は飛びついてきたベロを邪険に扱う事はなく、そのまま頭を撫でてやっていた。

「ベロ、そろそろ降りろ。」

ベロは言っている事が解ったのか、飛びついていた状態から戻って、お座りした。

「「大地!」」

どうやら、この少年が2人の待っていた「大地」という少年のようだ。

「ん?」

「大地!お前、帰ってくるの遅いっ!」

「……俺、帰ってくる日なんて教えたっけ?」

「大平から聞いたんだよ。この前みらいが言っていたらしいから。」

「ふーん。」
みらい経由で大平から教えてもらったと聞き、納得する。

「大地、お願いがあるの。」

「何?」

「その前に状況説明が先だろ?なつみ」

「あっ、そうね。」

「大地、実はな、お前が居ない間にみらいが…」

「みらいの現状況なら知ってる。」

大地には、大介となつみが言わんとしている事が解っているようだった。

「「えっ!?」」

大地の思わぬ言葉に今帰ってきたばかりなのに、なぜもう知っている?っと言いたげに驚く2人。

「その事で帰ってくるのが遅くなったからな。」

「なら話が早い!大地、『Zポイント』という通信手段の事を知っているか?」
状況を知っているならすぐに本題だとばかりに大地に問いかける。

「どこでその話を?」

「大平からだ。みらいからの通信で、大平の所へ行った時に教えてもらったんだ。それで…知ってるか?『Zポイント』の事を。」

「ああ、知ってる。」

「良かった…ねぇ、大地」

「何?」

「お願い、その『Zポイント』を使って、過去に居るみらいのノートパソコンへ通信回線を繋いでくれない?」

「俺からも頼むっ!お前なら、こっちからの通信の仕方…知ってるんだろ!?」

なつみと大介は必死になって大地にお願いする。

「……」

だが、大地はその2人のお願いに応えることなく、ただ黙って2人を見つめ…いや、見極めるかのような眼で見ていた。

「大地!お願い!」
先程より強く願うなつみ

「…大平さんから…みらいが今まで隠してきた秘密を…聞いたか?」
黙っていた大地が口を開く。

「ああ、聞いた。お前は知っていたんだな。」

「ああ、知ってた。それで…その秘密を知った今、みらいの事をどう思っている?」
話しながら、まだ見極めるかのような眼で2人を見つめていた。

「ど、どう思うって……」

「大平ちゃんから、初めてその事を聞かされたときには、大介も、私も驚いたわ。
正直言って、みらいが私達に隠し事をしていた事にはショックを受けたわ。」

「ああ、そうだ。みらいが俺達にその秘密を隠し通す事で、これまで苦しんできた事にまったく気づいてやれなかった。親失格かな?っとも思った。」

「でも、その秘密を知ったからといって、今までと変わりはないわ。どんなみらいも私達の娘には変わりないのだから…」

「俺もなつみと同じだ。これまで通りだ。」

なつみと大介はそれぞれ正直に自分の想いを伝える。

「今までと変わりなく、今のみらいも受け入れるんだな?」

「ああ、もちろんだ。かっての…お前の時のようにな…」

「……」
大介のその言葉を聞いて、思わず目を逸らしてしまう大地

「だからお願い。いくらみらいがそこまでしっかりした子でも、まだ子供。親としては不安で、心配で仕方がないの。
一度でも良いから…みらいが無事な姿を見たい。」

「…解った。けど、明日まで待ってくれ。」

「明日まで?」

「ああ。今日はもう休みたいし、それに今向こうは夜中だろ。」

「そうなのか?」

「ああ。聞いた話によるとだけどな。」

「…解ったわ。じゃあ…大地、約束して?明日、必ず過去に居るみらいと通信を繋いでくれる事を…」
なつみは指切りでもするのか、右手の小指を差し出した。

「ああ、解った…約束する。」
大地も右手の小指を差し出し、なつみと指きりをした。

「お願いね、大地」

「頼むぜ、大地」

「ああ。」

大地は2人の願いに応え、明日必ず過去にいるみらいと連絡が取れるようにすると約束を交わす。

「ところで大地、晩御飯はもう食べた?」

ご飯はもう食べたか聞くなつみ

「いや、まだ。」

「じゃあ…食べる?」

「…食べる。」
少し間を置いてから返事を返す大地

「それじゃ、すぐに御飯を作るわね。」


その後大介と大地とベロは居間へ移動し、なつみは台所へ移動した。

「大地、お前…今までどこに行っていたんだ?」

「……」

「答えられない事なのか?」
何も答えないのを見て、聞いてはいけない事なのかと思った大介

「極秘指令…」

「そっか、解った。もう聞かない。」
大地の一言を聞いてこれ以上は聞かない事にした大介

「……」

ずっと何も話さず、黙っている大地にまた話しかける大介

「なぁ、大地」

「ん?」

「お前は…いつからみらいに隠されていた潜在能力の事に気がついていたんだ?」

「…覚醒した、当時の3歳の頃。」

「覚醒したその時から気づいていたのか!?」

「ああ。もっとも、その覚醒する前の2歳の時からうずうず気がついていたが、その時はまだ確信を持てていなかったんだ。」
みらいが2歳の頃から、内に秘めたる潜在能力があるかもしれないとは思っていたが、それが確信に変わったのは3歳になって覚醒した時だと言う大地

「そうだったのか…」

「俺には解る…だからみらいに眠る潜在能力がある事に気づいたんだ。どんな潜在能力が眠っているか、そこまでは覚醒するまでずっと解らなかったけどな。」

「…潜在能力がある事を感知することが出来るなんて、今まで知らなかったぞ。」

「それはそうさ…俺、言ってないし。」

「確かにそれもそうだな。他にも、何か感じる事が出来るのか?」

「ああ、出来る。」

「例えば?」

「…人の気配を感知する事が出来る。」

「もしかして…俺の気配も解るのか?」

「ああ、解る。」

「そうか!だから前にみらいが勇平を探しに行ったまま帰ってこなかった時、コンパクトを頼らずに見つけて連れて帰ってこれたのか。」

以前、居なくなった勇平を探しに行ったみらいがなかなか帰ってこなかった時に大地がコンパクトを頼らずにみらい達を連れて帰ってきた事があった。
今の話を聞いて、あの時コンパクトに頼らずに見つけてこれた理由が解って納得する大介

「ああ。」

「みらいは知っていたのか?その事。」

「ああ、知ってる。俺が気に敏感なのをいつも見ていて、なんとなく解っていたらしいからな。」

「見ていて?」

「ああ。俺は時々、人の気を感じた時、その気を感じた方を目だけ向ける時があってな。」

「目だけしか動いていなかったのに、気がづいたのか?みらいは。」

「ああ。どうやらみらいは洞察力がかなり秀でているみたいだな。」

「そうか…まだ俺達はみらいのすべてを知っているわけじゃなさそうだな。」

「ああ、俺も知らない事がまだあるはずだ。俺に無い物を…みらいは必ず持っているからな。」
大地は呟きながら、ここには居ないみらいの顔を頭の中で思い浮かべる。

「そうだな。…大地」

「ん?」

「お前…時を越えること…出来るか?」

「……」
大介の問いかけに応えず、黙っている大地

「もし、お前が時を越えることが出来るなら…今すぐにでも、みらいの居る過去の世界へ行って、みらいや勇平を迎えに行ってきてほしいんだ。
見ての通り、なつみは今、みらいの事が心配で不安でいっぱいだ。だから一日でも早く、みらいがこっちへ帰ってきて、なつみを安心させてやりたい。
もちろん、俺もみらいの事が心配だ。だけど俺はみらいの事を信じている。だからそこまでは不安を抱いてはいない。」
妻であるなつみの事を想い、みらいと勇平を迎えに行けるなら行って欲しいと頼む大介

「なぜ、俺に時を越える能力があると思ったんだ?」

「ただの勘さ。6年前、みらいがまだ赤ん坊だった頃にタイムスリップが起きて過去へ飛ばされたんだろ?」

「ああ。」

「俺やなつみは、みらいが過去の世界へ飛ばされていたという事実を知らなかった。だけど、お前は知っていた。」

「……」

「だから、6年前の当時の事に何か関わっていたんじゃないかと思ってな。」

「なるほど。」

大介がなぜ自分に時を越える力を持っていると思ったのかを聴いて納得する。

「それで…出来るのか?」

「……可能だ。」
少し間を置いてから応える

「ほんとか!?」
時を越えられると聞いて歓声を上げる大介

「けど、俺はこれまで現代である自分の居るこの時代から、約10年前までの過去の世界までしか時間を越えた事はない。」

「10年前ってことは…まさかっ」

「…18年も前の過去の世界には行った事がない。」

「無理…なのか?」

「解らない、試した事もないしな。」

「そうなのか…」

時を越える力はあるが、現実問題として、これまでに18年前の世界へは行った事がなく、試した事もないから行けるかどうかも怪しいところ。
大介はそれを聞いて、見えかけていた希望をあっさりと打ち砕かれて落胆する。

「それに、俺が時間移動能力を使う時には、必ず許可を得てから使っている。だからそこからの許可が下りない限りは、過去の世界へ行く事はできない。
それともう1つ。俺は自身を時間移動させる事は可能だが、俺ともう1人の2人での時間移動は、さすがに18年も前だと、
自身を時間移動させるだけでも精一杯だろう。だから、どちらにしろ、2人以上での時間移動は不可能だ。」

「なっ!?…2人以上での…時間移動は不可能…なのか…」

「ああ…不可能だ。」

例え18年前に行く事が出来たとしても、2人以上での移動は難しいらしく、
現実問題として不可能だと聞き、さらに落胆する様子を見せる大介であった。


「出来たわよーって、なんで2人ともそんな深刻そうな顔をしてるのよっ!せっかくの御飯がおいしくなくなるじゃないっ!」

重苦しい雰囲気を吹き飛ばすかのように、なつみの明るい声が聞こえてきた。

「わりぃ、わりぃ、今行く。ほら、いくぞ。大地」

「ああ。」


リビングへ移動した後、それぞれの席へ座った。

「「「いただきます。」」」

「どう?味の方は。」

「…うまい。」
なつみの問いかけに相変わらずの無表情ながらも、無意識に表情が少し緩む大地

「そう、良かった。」
大地の素直な感想を聞いて嬉しそうにするなつみ

わずかな変化なので、彼の事を良く知らない者からすれば、いつも通りの無表情と捉えるが、
彼の事を良く知る大介となつみにはそのわずかな変化が解るようだ。

なつみはある所へと目の視線を移し、心配そうな瞳で見つめる。

「ん?なつみ、どうした?」
なつみの異変に気づく大介

「……」
大介の声に反応を示さないなつみ

「おいっ、なつみ」

「あっ…」

さっきより大きめの声で呼びかけた事で、なつみはやっと反応する。

「…みらいの事が…心配なんだろ?」

「…ええ。」

「それは俺も同じだ。だが、今は無事に未来の世界へ…ここへ帰ってくる事を祈ろう。」

「ええ。」

今自分達に出来る事はみらいが無事に未来へ帰ってこれるように祈る事だと言う大介

「……あとでみらいの部屋のパソコンの中にある日記…見るか?」
2人の様子を見て、大地はある提案をする。

「「え?」」

「あいつの事だ。もしかしたら日記に、向こうの事が書かれているかもしれない。」

「け、けど、今みらいはこの時代にはいない。だから日記を書いてもこっちへ届く事なんて…」

「…『Zポイント』を使えば可能だ。」

「「えっ?」」

「『Zポイント』は…通信手段として作られているものだ。だから交信、メール、日記、転送など、お互いに繋がりがあれば可能だ。」
通常ならば不可能だが、「Zポイント」なら可能だと言う大地

「じゃあ…」

「だけど、まだ未完成だ。物を転送となれば、転送装置が必要になる。だから、まだ不可能だ。」

「メールは?」

「それもまだだ。迷い込んで、違う場所にメールが送られていってしまう可能性がある。場合によっては、ウィルスを連れてくる可能性もある。よって、不可能。」

「そっか…メールや転送はまだ不可能なのか…」

「日記はちょうど今、実験段階だったはずだから、だいたいの対策は出来ている。だから可能だ。けど、18年も前となると、保障はできない。」

転送やメールは不可能だが、日記は可能。けれど、まだ未完成の為、
18年前ともなると保証は出来ないようだ。

「…全然可能性がゼロというわけではないんだな?」

「ああ。」
確認する大介に答える大地

「どうする?なつみ」

「どうするって…」

「なつみはみらいの事が心配なんだろ?」

「ええ。」

「みらいが無事かどうかが、過去の世界から、未来の世界へと日記の更新が送信されてきているかもしれないだろ?」

「ええ。」

「その確認をしたいのかを決めればいい。」

「でも…」

大介はなつみに日記を見るか問うが、それに対してなつみは迷っていた。

「日記の事なら心配するな。みらいもその事はおそらく承知している。だからこそ、日記に更新されている可能性が高いんだ。
みらいは、俺が帰ってくる日を知っていたし、俺がその話を切り出すと踏んでいたに違いない。」
なつみが迷う理由を察し、日記の閲覧については問題ないと言う。

「大地…」

「だから…自分の意思を言えば良い。みらいは母さんが心配している事なんて、見なくても解っているからな。」
ただ日記を見るか、見ないかを決めればいいと大地は言う。

「大地もこう言っているんだ、どうするんだ?なつみ」

「じゃあ…お願い、大地」

「わかった。」

「とりあえず御飯を食べ終えよう。」

「そうね。」

まだ残っている晩御飯を食べ始め、時間が経つと、3人とも食べ終えた。

「「「ごちそう様でした。」」」

「…みらいの部屋…行くか?」
みらいの部屋へ行くか問う大地

「ああ。」

「ええ。」

その後3人は2階のみらいの部屋へと移動し始めた。



大介となつみが待っていた少年…大地とはいったい?
みらいとはどんな関係なのだろうか?
大地というこの少年は、どうやら「Zポイント」の存在を知っている様子。
なぜ大介となつみは、この少年と親しい関係にあるのだろうか?
この少年の事はまだ、すべて謎に包まれている。
この先、この大地という少年の謎が明らかになる時はくるのであろうか!?
そして、大地という少年はみらいの日記に何か書かれているかもしれないと言い出し、
なつみは少々迷いながらも、日記を見る事を決めた。
果たして、日記に何かが書かれているのであろうか!?


第17話へ続く。


今回はまたまた未来編です。
今回のお話しでは、大介となつみとベロ、そして大地という少年の間でのお話。
「大地」という少年は管理人が作ったオリキャラです。
この先、もしかしたらまた違うオリキャラが登場するかもしれません。(たぶんですが…)
このお話の方を読んでいて、もしかして…っと、うずうず大地という少年が
どのような存在かを気づく人も中にはもしかしたら居るかもしれませんね。
この大地という少年の設定を今加える予定はありませんので、この少年の設定を少しだけ言います。
お話を読んでの通り、大地は男の子で、年齢は12歳。夢が丘小学校6年生…っと以上の情報だけを与えます。
他の設定は一応もう作ってありますが、今は出すべきどころではないと私が判断しているため、今は公開出来ません。
さて、この大地という少年はいったい大介、なつみ、みらいとはどのような関係なのだろうか?
それはこれから先のお話を見ていれば、少しずつ明らかにされるかと思われます。
それでは第17話へお進み下さい。

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