みらいの言葉で少しの間沈黙が続いていたが…
「お前はどうなんだよ?」
大介がその沈黙を破り、みらいに話しかけた。
「私は…半分信じ、半分信じない…それは今ここで混乱している人はみんな同じ事。」
「私は…そうは思わないな。」
「なつみ?」
「私は信じてる。」
「…俺も、信じてる。」
なつみと大介は迷いなくはっきりと信じると言い切った。
「だって、2年前みらいちゃんが来た事も夢じゃない、本当にタイムスリップして過去にやってきたんだって信じられる。」
「俺も同じだ。確かに俺も初めはあまり信じられなかった。けど2年前、お前がなつみの前に現われて…お前が未来から来たという事を
あるきっかけで知って…お前がこっちへ現われていなかったら…起きなかった出来事がたくさんある。」
「私は、みらいちゃんがこっちへ来た事で解った事がたくさんある。人によって、いろんな生き方があるんだって事。
家族の間でもいろんな問題が起きたりするんだって事。」
「俺も、お前がこっちへ飛ばされてくるような出来事がなかったら、俺はあの時なつみといろんな事を話すようにはならなかっただろうし、
それに…親父とも…お前があの時居なかったら、今も和解出来ていなかったかもしれない。お前がこっちへ来た事は
明らかに現実で起きた事。だから今なら俺は信じられる…あの出来事のおかげで俺は変われたんゃないかって。」
「…あたしも。もしあんたがこっちへ来なかったら、今も…漫画家としてデビューしていなかったかもしれない。少女漫画も描いていなかったかもしれない。
それに…あんたが来ていなかったら、たぶん今も赤ん坊嫌いだっただろうしな。」
「みらいちゃんを通して、変われた人がたくさんいるって事だよ。だから私は信じるよ。」
「そんなふうに思えるなんて…やっぱり歴史が変わっちゃったせいかな。」
「確かにそうかも。でも良いんじゃないかな?少しくらい変わってしまった世界があっても…」
「そう…かもね。」
みらいはみんなには気づかれない程度だが、一瞬悲しい瞳をする。
「みらいちゃん…」
その時、勇平が戻ってきていた事に気付いたみらい
「あっ…勇平君」
「みらいちゃん、今起きてる現実…受け入れないの?」
「……」
「ここに居るお兄ちゃん達の事、信じないの!?」
「っ…」
「どうして?どうしてなの?みらいちゃん!」
「……」
「みらいちゃん、前に僕に言ったよね?『信じる心を大切にしなさい』って、そう言ったよね!?」
「勇平君…」
勇平の問いかけにどれも答えを返す事が出来ないみらい
「ねぇ、答えてよ、みらいちゃん!」
「っ…勇平君っ!」
興奮状態の勇平を落ち着かせる為に声を掛けた。
「あっ…」
「落ち着いた?」
「う、うん、ごめんなさい…」
「勇平君が謝ることなんてないよ。今、勇平君の言った事は間違っていないよ。」
勇平の言った事はどれも間違っていないから謝る必要はないとみらいは言う。
「みらいちゃん…」
「…はっきり言うよ。勇平君の言う通り、確かに私は今起きている現実を完全には受け入れてはいないし、
ここに居る人達の事も…完全には信じてはいないよ。」
言おうか、言わないか迷っていたが、今の自分の想いをはっきりと告げた。
「どうして?」
「それは…解らない…自分でも、良く解らないんだ。」
「みらいちゃんでも解らない事なんてあるの?」
「そりゃあるよ、私だって完璧な人間じゃないんだから。」
「でも、それでも『信じる心を大切にしなさい』って言った事は、みらいちゃんの『いし』ってやつだよね?」
「…うん、そうだよ。その言葉は…確かに私の意思だよ。」
「だったら僕もお兄ちゃん達と同じだよ、僕は今起きている現実を受け入れる。
僕はみらいちゃんがいつも教えてくれる事、全部信じているんだ、だから僕は信じる!」
みらいの事を全面的に信頼している勇平
「勇平君…」
「焦らずゆっくりだよね?僕、頑張るっ!」
「勇平君は充分頑張ってるよ。」
「それはみらいちゃんだって。」
「ううん、私はまだまだだよ。自分で言っておきながら、あまり信じる心を大切に出来ていないからね。」
「…みらいちゃんは充分信じる心を大事にしてるよ?」
「ありがとう…」
勇平にお礼を言った後、みらいはソファーから降りて居間を出ようとした。
「みらいちゃん、どこ行くの?」
「便所。」
なつみの問いかけに応えてから出て行った。
「みらいちゃん…もしかして…まだあの時の事を気にしてるのかな…?」
「あの時の事?勇平君、あの時っていつの話?みらいに何かあったの?」
いづみは勇平が言い放った言葉を聞き逃さなかった。
「あっ…そ、それは…言えない…」
「しまった」と言わんばかりに慌てだしながらもいづみの問いかけには応えなかった勇平
「そう言われると余計気になるんだけど。」
「そ、そんな事言われたってっ…」
「ん〜?」
「…みらいちゃんだって…前は信じる心を物凄く大切にしていたよ。でも、ある時をきっかけにみらいちゃんは
人を簡単に信用したり、絆を深めたりとすることがなくなって、心を簡単には開かなくなっちゃったんだ。」
いづみの押しに負けて、勇平は話し出した。
「ある事?何なの?それ。」
「…交通事故。」
『えっ!?』
衝撃の言葉を聞き、いづみ達は驚く。
「僕達がまだ幼稚園に通っていた時、みらいちゃんと凄く仲の良かった子がいたんだ。その子は命(みこと)ちゃんっていう女の子でね、
みらいちゃん…目の前で命ちゃんが交通事故に遭うところを見ちゃったらしいんだ。」
『えぇっ!?』
「…その命ちゃんって子、今は元気にしてるの?」
「ううん、命ちゃんは交通事故に遭った時、運悪く頭を強く打っちゃったのが原因で、あの時に亡くなっちゃったんだって。」
なつみの問いかけでその子はもう故人だと教える。
「そうなんだ…」
「みらいちゃんは、あの時の事故は自分のせいだって、自分のせいで命ちゃんを死なせてしまったんだって、
責任を凄く感じちゃっているんだって。だから、みらいちゃんは誰かに裏切られたり、誰かが自分の目の前から
突然いなくなったりするのが怖くて、自分の心を強く、固く閉ざしたんじゃないかってパパがそう言ってた。」
「あいつ、目の前で友達の死を見たのか?」
なつみの次は大介が問いかけた。
「うん、2人はとっても仲が良かったんだ。命ちゃんは僕の事を『さべつ』をしないで、
普通に僕とお友達になってくれたとっても優しい子だったんだ。」
「勇平君っ!その話はやめてっ!」
勇平に向かって叫びながら、みらいは居間へ戻ってきた。
「あっ…みらいちゃん…」
「勇平君、どうして勇平君があの時の事故の事を知ってるの!?」
みらいは動揺し、なぜ勇平があの事故の事を知っているのか聞く。
「この間、パパに教えてもらったんだ。初めはパパは全然何も話してくれなかった。でも、日を重ねに重ねてやっと教えてくれたんだ。
命ちゃんがどうしてあの時亡くなったのか、どうして命ちゃんが亡くなったのは自分のせいだとみらいちゃんが思っているのかを。
みらいちゃん、あの時、命ちゃんと凄く仲が…」
「…っ!!もう何も言わないでっ!あの時の事は…もう、思い出したくないっ!!命は…命は私のせいでっ……私の…せいでっ…」
「あっ……ごめんなさい…」
一気にまくし立てた後、我に返り、みらいは勇平に謝った。
「ちょっと外に出てくる…」
再びみらいは居間から姿を消し、そのまま外へと出て行ってしまった。
「みらいちゃん…」
外に出て行ってしまったみらいの事を心配する勇平
「…ねぇ、勇平君」
なつみが勇平に声を掛けてきた。
「な、何?」
「みらいちゃんって…未来の世界でもあんな感じなの?」
「うん、そうだよ。みらいちゃんは命ちゃんが亡くなった後、前みたいに自分から集団に紛れて
お話とかをあまりしなくなっちゃってね、1人で居ることの方が多くなっちゃったんだ。」
「そうなんだ…みらいちゃん、お友達とかは…居ないの?」
「ううん、居るよ、たくさん居る!みらいちゃんのお友達はたくさん居るよっ!みらいちゃん、勉強が出来て、運動神経が良くて、
みらいちゃんのクラスではリーダー的存在なんだ。みらいちゃんがクラスのみんなをまとめて引っ張っているんだ。」
「そうなんだ〜。あっ…でもみらいちゃん、周りの人達から何か言われたりしていないのかしら?
例えば、上級生から乱暴な言葉を言われたりとか。」
えり子がふと思った事を言い、心配する。
「そんな事ないよ、みんな、みらいちゃんが凄いって騒いでいて、学校中で噂が流れていて有名なんだ。
先生達からの信頼も厚いって噂も聞くよ。」
「そ…そうなんだ。」
みらいの評判の良さを聞いて、改めてみらいの凄さを痛感するタマエ
「あっ、でもそういえば確か1ヶ月くらい前までは、何度か数えられる程度だけど、みらいちゃんに乱暴な言葉や
いたずらなどをしていじめていた上級生や他校の生徒が居たらしいんだけど、すぐに治まっちゃった事があったっけ。」
詳しい事は知らないが、1ヶ月くらい前まではえり子が言っていたような出来事があった事を思い出した勇平
「えっ?」
「はぁ?なんでだよ?」
実際に起きた出来事がいつの間にか綺麗サッパリに無くなっている事を聞いて不思議に思った大介
「みらいちゃんをいじめた人は恐ろしい罰を受けたんだって。学校中で一気にその噂が流れて、
誰もみらいちゃんをいじめようとする上級生や他校の生徒は1人もいなくなったんだって。」
「…マジ?」
信じられないと言わんばかりに、勇平に確認する。
「うん、ほんとだよ。」
なんでそこまで驚くの?と言わんばかりに勇平は首を傾げながらも、大介に本当の事だと言う。
「しっかしそれにしても…あいつ、あんま優等生っぽい雰囲気がねぇな。」
みらいが現れてからの行動をすべて振り返るが、全然普通に見えると思った大介
「みらいちゃんは誰にでも優しいんだ。優等生ぶった所や優越感とか全然なくて、いつも自分の事より先に相手の事を考えているんだ。
パパが前に、みらいちゃんは人を思いやる気持ちがとても強くて、人の気持ちが手に取るように解るのか、
その人が一番欲しい言葉、して欲しい事をくれるとても心優しい子なんだって言ってた。」
「へぇ〜、そうなんだ。凄いね、みらいちゃん」
素直に感心するなつみ
「うん、凄いよ!でも、みらいちゃんは相手の事は考えるけど、自分の事には全然気に掛けないんだ。
だから時々無茶をして体調を崩す事があるんだ。」
「ん〜…こりゃ重症だわね、みらいのやつ。」
今まで黙って聞いていたいづみが呟く。
「よく僕のせいでみらいちゃんがちょっと体調を崩したりする事があるんだ。」
「勇平君のせいで?」
「うん。僕、その辺の普通の同い年の子より体が丈夫じゃないから、ときどき体調を崩して熱を出しちゃうんだ。
その度にいつもみらいちゃんがほとんど看病してくれているんだ。」
「どうしてみらいちゃんがいつも勇平君の看病をしてるの?お家の人は?」
なぜそこでみらいが出てくるのか不思議に思ったなつみ
「僕ん家はお店だから、普段からいつもとても忙しいんだ。パパはよく大阪支店の方にも行くからほとんどいないし、
ママも良くパパについていっちゃってるから。おばあちゃんはお店のお仕事で忙しい時が多くて、ずっとは看病が出来ない。
だからみらいちゃんがいつも僕の家に来て、おばあちゃんと交代で看病をしてくれてるんだ。」
「そうなんだ。」
「みらいちゃん…とっても優しいんだね。」
「お友達とも遊ばないで、ずっと勇平君の看病をしているんだね。」
「いとこにしてはなんか超している気がするけど…」
「っ……それは…」
いづみの呟きに言葉が詰まる勇平
「勇平君はみらいちゃんの事が本当に大好きなんだね。」
「うん!だってみらいちゃん、優しいもん。」
なつみの言葉を聞いて即答する勇平
「…おい、なつみ」
「何?大介」
「みらいの所に行かなくても良いのかよ?」
「あっ…」
大介に言われて、みらいが外に出ていったままだった事を思い出す。
「ほら、行って来いよ。」
「大介…じゃあ、ちょっと行ってくるね。」
なつみは居間を出て、外へ出ていってしまったたみらいの所へと向かった。
その頃、みらいはというと……夢が丘公園に来ていた。
「はぁ〜…(さっきはついカッっとなっちゃった…勇平にはちょっときつく言い過ぎちゃったかな?)」
ベンチの上に座ってため息をつきながら、自己嫌悪に陥っていた。
(…命……あれから…もう1年が経つんだね。)
みらいは空を見上げた。
(命…なんであの時………な〜んて言っても、答えなんて…返ってくるわけ…ないか。
もう、この世には…いないんだもんね。)
空を見上げながら、心の中でそう思っていたみらい。
その時、突然後ろの方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「みらいちゃん!」
「あっ…なつみお姉ちゃん」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…やっと見つけた〜。みらいちゃん、外に出てみたらどこにもいないんだもん。心配しちゃったよ。」
乱れた呼吸を整えながらも、みらいが見つかって安心するなつみ
「ごめんなさい…ちょっと1人になりたかったから…いつの間にかここまで来ちゃったんだ。」
心配を掛けてしまった事を申し訳なく思うみらい
「そ、そうなんだ。はぁっ…はぁ…」
「ずっと走って私の事を捜してたの?」
「う、うん。」
「…隣、座る?」
「うん、ありがとう。」
なつみはみらいの隣に座った。
そしてしばらくの間沈黙が続いたが、その沈黙をなつみが破って、みらいに話しかけた。
「ねぇ、みらいちゃん」
「何?」
「さっき勇平君に聞いたんだけど、みらいちゃんって良く勇平君の看病をしているんだってね?」
「あっ……勇平、そんな事言ってたの?」
「うん。みらいちゃんは凄く優しいんだって、勇平君が。」
「そっか。勇平、怯えたりしてなかった?」
「えっ?…怯えてなかったけど…どうして?」
ここへ来る前のの勇平の様子を思い出しながら呟くなつみ
「さっき、ちょっと勇平にはきつく言っちゃったから…」
「そっか。…ねぇ、みらいちゃん、命ちゃんって…どんな子だったの?」
みらいの友達だった命ちゃんの事を聞くなつみ
「えっ…」
「みらいちゃん、命ちゃんって子と…仲が良かったんでしょ?」
「…うん、凄く仲が良かった。命は、普段からおとなしくて、いつも笑顔で、本を読むのが大好きで、とても優しい子だった。
勇平の事も、何の疑問も差別も持たずに、すぐに勇平に話しかけてお友達になってくれた。」
「へぇ〜、命ちゃんっておとなしくて、本を読むのが大好きな子だったんだ。」
「命とは、幼稚園に入る前に、夢が丘公園で勇平と遊んでいた時に初めて会ったんだ。それから少し経った後、
命と夢が丘公園で遊んでいた時に、秋生(あきみ)っていう女の子と知り合いになったんだ。」
「その秋生ちゃんはどんな子?」
「秋生は明るくて活発で、とっても素直な優しい子で、ちょっと命とは正反対の子だよ。秋生も勇平の事を
何の疑問も差別も持たずに、すぐに勇平に話しかけてお友達になってくれたんだ。」
「へぇ〜…秋生ちゃんは明るくて活発で、とっても素直な優しい子なんだ。」
「うん、そうだよ。それから私と命と秋生は少しずつ仲が良くなって、一緒に遊ぶ事も多くなった。
幼稚園に入ってからも、私と命と秋生の仲は変わらなかった。でも…一年前…命は交通事故に遭って…
救急車が来るまでは…まだ意識があって生きていたんだけど……救急車で病院へ運ばれている途中で
息絶えちゃって…そのまま亡くなっちゃったんだ。」
当時の事を思い出して悲しそうな顔をするみらい
「秋生ちゃんとは…今も仲良しなの?」
「うん、仲良しだよ。今、同じ夢が丘小学校に通ってて、同じクラスなんだ。」
「そうなんだ。…ねぇ、みらいちゃん、どうして…命ちゃんが亡くなったのは自分のせいだなんて思ってるの?」
「それは……」
その後みらいは何も喋らず、ただ悲しい瞳をしていた。
なつみはみらいが悲しい瞳をしている事に気づき、その事を聞くのをやめ、少々話題を変えた。
「…命ちゃん、天国でみらいちゃんが自分自身を責めているの…悲しい目で見ているかもしれないよ?」
「そんな事…解らないよ。逆に恨んでいる場合だってある。」
「みらいちゃん…」
「さて、そろそろ戻ろっか。みんなが心配してるといけないし。特に勇平がね。」
これ以上話したくないのか、今の話を無理矢理終わらせてしまうみらい
「あっ、うん、そうだね。」
なつみは、みらいの気持ちを汲んでこれ以上聞くのをやめた、
なつみとみらいは水木家へと帰って行った。
なんと、みらいは過去の出来事が原因で、今では純粋に人を簡単に信じる事が出来なくなってしまっていた。
みらいと仲が良かったという、亡くなったみらいちゃんの大切なお友達の命ちゃん。
1年前に起きた交通事故で命ちゃんを死なせてしまったのは、自分のせいだとみらいは責任を感じているらしい。
いったいあの時の交通事故の時、みらいと命ちゃんとの間に何が起きたのだろうか?
果たして、この先、1年前の出来事の真実が明らかになる時が来るのだろうか!?
今回のお話では、みらいちゃんの過去について少し語っちゃいました。
もちろん、これは管理人が勝手に想像して作った、みらいちゃんの過去です。
この想像力、恐ろしい…恐ろしいです!完全にバラレルモードです!
このお話で出ていた命ちゃんと秋生ちゃん、みらいちゃんの一番大切なお友達の2人です。
当然この2人は管理人が考えたオリキャラです。この2人の名前、考えるの大変でした。
それでは第15話へお進み下さい。