ピロリロリンッ、ピロリロリンッ、ピロリロリンッ……
「あれ?何の音?」
「この音の鳴り方は…」
みらいは自分のリュックからノートパソコンを取り出す。
その後すぐに居間のテーブルの上にノートパソコンを置いて蓋を開け、電源をつけ、
電源がついたらすぐにパスワードを入力して起動させた。
少し経って起動した後、みらい専属ネットナビゲーターの女の子が画面に映し出され、嬉しいニュースをみらいに伝えてきた。
『みらいっ!Zポイント捕まえたよっ!!』
「ほんとっ!?」嬉しそうな声を出すみらい
『うんっ!ついでにタイミング良く向こうからもZポイントをキャッチして、こちらに交信しようとしてるみたいなんだ。
信号は……「山口太郎左衛門商店」からみたいだよ。どうする?今から向こうと繋いで通信回線を開く?』
「すぐに通信回線を繋げるっ!」
『了解っ!』
その後みらいはキーボードを打ち始めた。少し経って…
『プログラムデータスキャン完了!!』
「電波状況異常なし。すぐに通信回線を繋いで!」
『了解っ!』
「な、なあ、Zポイントって…なんだ?みらい」
みらいはノートパソコンの方に集中していたためか、大介に呼ばれているのに気づいていない。
「おい、みらい」
もう一度呼んでみたが、反応無し。
大介は仕方なく今度は大きな声でみらいを呼んだ。
「おいっ!みらいっ!!」
「うわっ!?びっくりしたー、何ですか?いきなり…」
大介の大声でやっと気づいて応じるみらい
「いきなりじゃねぇよ、お前が俺の声に気づかねぇからだろ。」
「あっ、ごめん。何か一つの事に物凄く集中していると、時々誰かが呼んでも気づかないほどになっちゃうんだよね。」
申し訳なさそうに謝るみらい
「ああ、俺の声に全っ然気づかねぇんだもんな。」
「あははは……それで…何?」
「Zポイントって何の事だ?」
「えっ…」
「Zポイントって…何の事なの?みらいちゃん」
「確か…通信回線を開くとかなんとか言ってたよね?」
大介だけではなく、他のみんなも「Zポイント」が何なのか気になるようだ。
「えっと…『Zポイント』っていうのは……」
『みらい、通信回線を繋いだよっ!通信回線開くねっ!』
ノートパソコンの画面が切り替わると、そこには大介達が初めてみる男性が映っていた。
「ん?誰だ?この人…」呟く大介
『みらい!やっぱりみらいが『Zポイント』を使っていたんですね。』
画面の中の男性はみらいに向けて話しかけてきた。
「はい。」
『みらい、君は今どこにいるんですか?』
「西暦1995年……18年前の過去の世界です。」
『なんだって!?18年前の過去の世界にいるんですか!?』
「はい、そうです。」
『なんてこった……兄さんの推測、当たっていますね……』
「あの、今そっちは…」
『…君がいなくなって、もう次の日になっています。』
「やっぱり。」
「おい、みらい。こいつ誰だ?」
それまで2人の会話を黙って聞いていた大介が画面に映っている男性について尋ねてきた。
『ん?いぃっ!?な、なんで兄さんがそこにいるんですかっ!?』
みらいの横に居る大介に気付いて驚く。
『えっ!?』
「兄さんって…ま、まさかっ!」
大介は画面に映っている男性が誰なのかすぐに解った。
『み、みらい、君は今誰の家に居るんですか?』
大介に驚きながらも、現在地を尋ねてきた。
「過去の世界の水木家です。」
『過去の世界の水木家なのに、なぜそこに兄さんが居るんですか!?』
「それはですね……私がタイムスリップで出現した時の目撃者の1人だからだよ。」
画面の中に映し出されている男性はみらいの言葉を聞いて唖然とした。
「お前…大平なのか?」
『…18年後の山口大平です。』
大介の問いかけに応え、自身の正体を明かした。
『ええーっ!?』
みらい以外の人達が声を揃えて驚いていた。
「これが大平ちゃんの18年後!?」
「すっごい美青年じゃないっ!」
「……おい、大平」
自分の隣に居る弟の大平を呼ぶ大介
「何?兄ちゃん」
「あのノートパソコンに映ってる男の人…お前の18年後の姿らしいぞ。」
ノートパソコンの方を差しながら教える大介
「えっ!?あそこに映ってる大人の人が?」
「ああ。お前、これから苦労するぜ?あれくらい美形ならぜってーもてるからな。」
「そ、そうかな?」
「ああ、間違いねぇな。」
『あっ…みらい』
そこで何かふと思い出したかのようにみらいに問いかけてきた未来の大平
「ん?何?大平さん」
『勇平…まさか…そっちに居たりします?』
「…Yes」
『やっぱりそうですか。それで…勇平は?』
息子である勇平の行方が解ってほっとする。
「今は寝ています。私はさっき勇平がこの時代に居るのを知ったばかりです。」
『えっ?じゃあそれまで勇平はいったい…』
「勇平は『山口太郎左衛門商店』でタイムスリップが起きて、現われたらしい。」
みらいではなく大介が大平の質問に答えた。
『らしい?』
「勇平が出現した時に立ち会ったのは義母さんなんだ。」
『そ、そうなんですか。それでみらい、勇平の方は大丈夫ですか?』
「それが……一つだけ…」
『な、何かあるんですか?』
「実は…勇平の精神年齢、下がっちゃいました。」
『なっ…いったいなぜ!?』
「たぶん、タイムトラベル副作用が原因だと思います。だから一時的であり、
未来の世界へ戻れば、本来の精神年齢に戻るかと思われます。」
『……現在は…いくつですか?』
「たぶん…2歳〜3歳あたりです。」
『……申し訳ない。』大平が手を合わせながら謝ってきた。
「もう慣れてるから、安心してよ。」
「なんで、そこで謝るんだよ?」
『みらいにはいつも勇平の事で迷惑を掛けっぱなしですからね。』
大介の疑問に答える未来の大平
「そうなのか?」
『はい。』
「大平さん、それは言いっこ無しのはずだよ?」
『しかし…』
「勇平の事はすべて私が責任を持って、ちゃんと体調管理とかをいつものようにしておきますから。」
心配する未来の大平に対して、勇平の事は自分に任せて欲しいというみらい
『まったく……ほんとにみらいには頭が上がらないですね。今回も勇平の事、よろしくお願いします。』
「急に改まった言い方しないでよ、大平さん」
『いや、ほんとに勇平の事に関してはみらいに頼ってばかりだと思っているからね…』
「そんな事気にしなくて良いよ。それに…勇平とはいとこ同士だし。」
いとこ同士だからそんな気遣いは要らないと言うみらい
『そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたいよ。みらい』
「どういたしまして。」
「なんか…18年後の大平、妙に礼儀正しいな。」
『あはははっ…こっちの兄さんにもよくそう言われます。いつの間にかこの言葉遣いが癖になってしまいまして…』
「へぇ〜、そうなんだ。大平ちゃん、もてるでしょ?」
『確かに…学生時代はもてていましたね。バレンタインの時などには特に大変でしたよ…』
学生の頃の事を思い出しながら呟く。
「大平さん、お人好しだもんね。」
『み、みらい、余計な事を言わないで下さい。』
『あはははっ……』
部屋中に笑い声が響き渡る。
『それで…未来の世界へは帰って来れるのですか?』
本題に戻す未来の大平
「今、江地さんがタイムマシンを作っています。だから少し時間が掛かるけど、大丈夫です。」
『えっ?江地さんに?』
「はい。実は…」
みらいは大人の大平に自分がタイムスリップをしてしまった時の事とこっちへ来てからの話をした後、
勇平がこっちへ来た時の事もついでに話した。
「……っというわけなんです。」
『なるほど。つまり、みらいは江地さんが起こしたタイムスリップによって巻き込まれ、そして過去の世界に居るという事ですね?』
「はい、そうです。」
『という事は…みらいが江地さんのタイムスリップに巻き込まれていなければ、みらいは過去の世界へ来る事は無かったという事ですね?』
「はい、そうです。」
『みらいが飛ばされていなければ、勇平は独りだったわけですか…』
「……ある意味、勇平にとっては幸運な方ですね。」
『そう…ですね。』
「ところで…大平さん、お聞きして良いですか?」
『なんですか?』
「その……家の様子は……どうでした?」
『その事ですか。実は先程まで水木家に行っていたんですよ。』
「そ、それで…どうだったんですか?」
『どうもこうもありませんよっ!まったくっ…お2人とも、ずっと寝ないで起きていたみたいで睡眠をまったく取っていなかったらしいんです。』
「……ええーっ!?そ、それほんとなんですかっ!?」
『はい。その証拠にお2人とも目の下にクマを作っていました。』
「まさかとは思ってたけど…ここまでとは…あは、あはははっ……」
「目の下にクマって……」
「未来のなつみちゃん…みらいちゃんの事を凄く心配しているはずだものね。」
「そうみたいだね。みらいちゃんの事になるとってところ、ここに居るなつみと同じだね。」
「そ、そうかな?」
「そうなんじゃねーの?おめー、赤ん坊のみらいがこっちに来てた時、すんげぇ母性本能発揮してたぜ?」
なつみの事を良く知る者からすれば、その様子は簡単に予想出来る事だと言う。
『兄さんは、どうやら君になんとか通信を取ろうとして、一睡もしていないそうです。』
「通信を?そうだ、大平さん、このブローチの使い方知りません?」
『すみません。残念ですが、僕はそのブローチの使い方を知らないんです。
兄さん以外にブローチの使い方を知っているのは…たぶん義姉さんだけだと思います。』
「そうなんですか?」
『ええ。元々、みらいが身につけているブローチは兄さんの個人の研究で開発した物らしいですから。』
「つまり…身内である私とママ以外にはこのブローチの性能、および使い方を絶対に自分からは教えたりはしないって事?」
『はい、そうです。』
「なんじゃそりゃ〜っ!!」
「へぇ〜、みらいのブローチって、なつみの未来の旦那が作った物だったのね。」
「でも…なんで未来コンツェルンと同じマークなんだろう?」
「さぁ?あとで聞けば?」
なつみ達はみらいのブローチに描かれているマークに?を浮かべていた。
『まぁまぁ、落ち着いて下さい。』
「それで?ママの方は?ママはパパ以上だったんでしょ?」
『はい。義姉さんの方ですが、ずっと君の事が心配で不安で、とても寝ていられるという状態じゃありませんでした。』
「やっぱり…んで?そんな状態のママをパパはほったらかしにしてるの?」
『まさかっ!兄さんが義姉さんの事をほったらかしにするなんて、想像出来ませんよ!!大丈夫です。
ちゃんと兄さんは、義姉さんの事も気に掛けながら、作業を行っていますから。』
「だよね…パパがママをほったらかしにするなんて想像出来ない。」
『兄さんに限って、絶対にそんな事ありえませんよ。みらいが一番良く知っているじゃないですか。』
「それはそうだけど…ほら、パパってときどき、研究に熱中すると周りの事に全く気づかなくて、
周りに気を配れなくなってそのまま自分の世界に入っちゃう事が良くあるじゃん。」
『た、確かに……しかし、兄さんは義姉さんには弱いですからね。もちろん、娘である君にも弱いみたいですけど。』
「そういう大平さんだって、ジュリエッタさんに弱いでしょ?」
『うっ…みらい、あんまりそこを突っ込まないで下さい。』
「とりあえず…パパやママの事、お願いしますね?大平さん」
『はい、解っています。ちゃんと栄養のある食事を食べさせますから。』
「よろしくお願いします。」
『こちらこそ、何かといろいろ大変な事があるかもしれないけれど、勇平の事をよろしくお願いします。』
「相変わらずだね、いつもの事なのに…」
『いつもの事でも、こういう時は誠意を持って言わないと…』
「あはは…大平さんらしい。」
『兄さんも、それから、他にそこにいる方々、勇平とみらいの事をよろしくお願いします。』
「ああ。安心しろ、大平」
『兄さん、みらいの事はともかく、勇平には覚悟しておいて下さいね?僕の時以上に面倒を見るのが大変ですから。』
「そ、そんなに大変なのか?」
『ええ。兄さんは赤ちゃんの時のみらいを知っているんですよね?』
「あ、ああ。」
「やっぱり。大平さんも6年前の事を知っていたんだね。」
『え、ええ。兄さんに口止めされてしまいましてね…』
「ふぅ〜ん…」
『……お、怒らないのですか?』
「…怒る気になれない、同じバターンを江地さんの時に済んでるし。」
『そ…そうですか。』
「んで?赤ん坊の時のみらいがなんだって?」
本題へと軌道修正させる大介
『あっ、すみません。本題に戻します。赤ちゃんの時のみらい、凄く元気が良くて、好奇心旺盛で、
ちょっと目を離した隙に何かをやってしまいそうな、いわゆるトラブルメーカー的存在だったでしょ?』
「あ、ああ。確かに…」
「あの時は確かにみらいが巻き起こすトラブルばかり起こっていたわね・・・こっちは大変だったわよ・・・。」
「そういえばそうかも……」
未来の大平に言われて赤ちゃんのみらいがこっちへ来ていた当時の事を振り返る。
『やっぱりそうでしたか。僕も赤ちゃんの時のみらいを預かっていた時は大変でしたよ。
なにぜ勇平より元気があって、よく動き回っていましたから……』
「そうなのか?勇平よりもなのかよ?」
『ええ。勇平は赤ちゃんの時から気弱で、泣き虫でしたから、泣き止ませた後はすぐに眠っちゃっていたんです。
泣いている時以外は少し動いたりはしていましたが、それ以外はおとなしかったので。』
「へぇ〜…そうなんだ〜。」
「確かに勇平君って、気弱でおとなしいよね。」
「た、確かに…」
『っと言っても、泣いてばかりでしたから、泣く、寝るの繰り返しが何度か続いていましたけどね。』
「そ、そうなんだ・・・大変だったね…大平ちゃん」
『あはははっ……さて、本題に戻しまして…赤ちゃんの時のみらいの面倒を見ていた時は何かと大変だったはずです。
しかし、そこにいる勇平もそれぐらい大変ですよ。いや、その赤ちゃんの時のみらいよりも数倍大変だと思います。』
「赤ちゃんの時のみらいちゃんよりも…数倍なんですか?」
『ええ。勇平は精神障害を抱えている分、面倒を見るのも結構大変なんです。
それに…勇平はみらいと違って、兄さん達が解りませんしね。』
「そっか。解った、任せろ!」
『ありがとうございます。』
兄である大介の頼もしい声を聞いて嬉しそうな未来の大平
『みらい、そろそろ電波状況が悪くなり始めてるよ。』
ノートパソコンの画面上の下の方の隅っこにみらい専属ネットナビゲーターが現われて忠告した。
「大平さん、電波状況が悪くなるみたいですので、これ以上の交信は不可能です。」
『そうですか。もし、また交信出来そうな時には回線を繋ぎますが、良いですか?』
「はい、構いません。」
『じゃあそろそろ通信回線を切ります。でもその前に…』
「何ですか?」
『みらい。勇平が起きたら、伝言をしておいて欲しいのですが。』
「だったら、今から勇平に向けてのメッセージを言って下さい。録音しますから。」
『解りました。』
「ちょっと準備しますから、待っててください。聞いたとおり、今から録音の準備をお願いするよ。」
『了解!大至急録音の準備をするねっ!』
そして少しの間画面上の下の方の隅っこが準備中の表示が現れた。
準備が終わり…
『みらい、準備完了!いつでもいいよ!』
「OK!大平さん、伝言を。」みらいは録音を「ON」にした。
『勇平、パパがわかるか?今、勇平は過去の世界にいるから、直接会う事は出来ない。でも、パパはいつでもお前の事を見守ってる。
みらいの話によれば、江地さんが今、タイムマシンに改良・修理…つまり、パパ達が居る元の世界に戻るための準備をしてくれているそうだ。
心細いだろうが、みらいとしばらくの間頑張ってくれ。みらいの言う事をちゃんと聞くんだぞ?勇平』
そこでみらいは録音を「OFF」にした。
「これでいいですか?」
『はい。敬語無しはやはり難しいですね…』
「大平さん…勇平にしか敬語無しを使っていないからね。」
『あはははっ…それではそろそろ切ります。伝言の方、よろしくお願いします。』
「はい。」
『それじゃ…』
その声を最後に通信が切れてしまった。
『通信回線切断したよ。』
「録音した伝言の方は大丈夫?」
『うん、大丈夫だよ。保存しておくね。』
「うん、お願いね。未来」
「みく?」
「みらいちゃん、『みく』って誰の事?」
「えっ?あっ、そういえばネットナビゲーターの名前、まだ言ってなかったっけ。」
そこでみらいはまだみんなに今画面に映ってるネットナビゲーターの名前を教えていなかった事を思い出す。
「名前なんかがあんのかよ?」
「うん、あるよ。私の専属ネットナビゲーターの名前は『未来』っていう字で『みく』と読むんです。」
「へぇ〜、みらいちゃんが名付けたの?」
「はい。ユーザーが名前を名付けてあげなきゃいけませんから。」
「そうなんだ。」
「でも『みく』って、『みらい』と読む以外の他の読み方よね?」
「はい。『みき』とも読むみたいだけど…『みく』にしました。」
「そうなんだ。」
「この名前、なんかすっごく気に入っちゃったみたいなんです。」
「そりゃあ名付けてもらえれば、誰だって喜ぶわよ。」
「まぁ…そうなんだけど、そうじゃないネットナビゲーターもいるみたいなんですよね。」
「マジ?」
「うん。人間でもよくいるでしょ?自分の名前が嫌いな子。」
「確かに……」
「だから、ネットナビゲーターといっても、ただのコンピューターじゃないんだ。ちゃんと意志を持ってるし。
それに、ネットナビゲーターは、最初から普通に仕事をしてくれるわけじゃないんです。
人間と同じように、ネットナビゲーターも最初は人間の赤ちゃんと同じ、生まれたばかりの赤ちゃん級から始まるんです。
ユーザーの育て方によって、成長はさまざまで、間違った育て方をすると、悪事を働くウィルスネットナビゲーターになってしまうんです。」
「そ、そうなのか。けど…ネットナビゲーターって子供から大人まで持ってるんだろ?大丈夫なのか?」
「あっ、ネットナビゲーターはまだお試し期間中で、一般にはまだ発表されていないんです。だから、今は少人数の方だけしか持っていません。
お試し期間は4年。再来年にどうするかの結果が出るんです。」
「えっ?一般にはまだ発表されてないの?じゃあなんであんたがそのネットナビゲーターってのを持ってんのよ!?」
誰もが思った疑問を代表していづみがぶつける。
「えっと…それは…そのネットナビゲーターを開発したのがうちのパパの会社でね。
それで、私もそのお試し期間用に使われるネットナビゲーターのお世話を頼まれちゃったんだ。」
「まぁ…みらいちゃんのお父さんに?」呟くるり子
「はい。」
「でも普通ガキにそんな事頼むか?」
もっともな疑問をいづみがまたまたぶつけてきた。
「そんなこと私に言われても…困るんですけど。いづみさん」
その時、また何かの電子音が鳴り始めた。
「こ、今度は何!?」
「……何の音だろ?」
「あんたのノートパソコンからの音じゃないの!?」
「う、うん。この音、知りません。でも…どこかで聞いた事のある音のような気がするような、しないような…」
知らない音のはずなのに、なぜか懐かしい音だと思ってしまったみらい
「…な、なぁ、なつみ。なんか……この音、どっかで聞いた事ねぇか?」
「大介もそう思う?この音…懐かしい……」
「そういわれてみれば聞いた事のある音ね。」
「懐かしい音…っか。う〜ん……はっ…この音の鳴り方はっ!?もしかして…」
「懐かしい音ね〜…ん?懐かしい?……はっ…この音の鳴り方!?もしかして…」
大介となつみはこの音が懐かしいと感じ、何の音なのか思い出す。
「「未来からの通信だっ!!」」
大介となつみが声を揃えて同時に言う。
「思い出したっ!2年前にみらいが来た時のコンパクトと同じ鳴り方よっ!」
「そういえばそうかも!」
「そうよ、2年前、みらいちゃんが来てた時によく鳴ってたコンパクトの音だわっ!」
なつみの言葉を聞いて、タマエ達も思い出す。
「みらいちゃんっ!」
みらいに声を掛けたなつみ
「な、何?」
「みらい、お前のブローチからだよっ!この音はっ!!」
「えっ?」
「未来からの通信よ、みらいちゃん」
みらいは大介となつみの言葉を聞いた後、服に身につけていたブローチを外して、ブローチを見つめた。
「おいっ、ブローチの真ん中が光ってんぞ!?」
ブローチの真ん中が光っているのに気づく大介
「ほんとだ…」呟くなつみ
「ブローチの真ん中が…光ってる?……もしかしてっ…」
みらいはブローチの真ん中の光っている所に触れた。
すると、今まで点灯していた光が消え……
『もしもしっ…もしもしっ…聞こえるかっ!?聞こえたら返事をしてくれっ!!』
ブローチから男の声が聞こえてきた。
「その声は…パパッ!?」
『その声は…みらいなんだな!?』
「うんっ、そうだよ。パパ」
『無事なんだな!?』
「うん、大丈夫だよ。」
ブローチから聞こえた男の声の持ち主はみらいの父親であり、未来の大介であった。
『そうか…無事で何よりだ。それで…今どこにいるんだ?みらい』
娘のみらいの無事を知ってほっとするが、すぐに今の状況を聞く大介
「えっと…あのね、みらいが今居る場所は、西暦1995年…18年前の過去の世界に居るんだ。」
『なんだってっ!?18年前の過去だと!?本当なのかっ!?』
「う、うん。」
『ま、まさかとは思っていたが、そんなに前の過去まで飛ばされてしまっていたのか。』
自分が予想していたより昔に飛ばされている事を知り、驚く未来の大介
「ところでパパ、ママは?」
『ああ、ママならさっき寝ちまったぞ。』
「そうなんだ。ねぇ、パパ」
『なんだ?みらい』
「なんで…ちゃんと寝ないのさ?」
『…みらい、お前よく解ったな、パパ達がずっと寝てないで起きていたと…』
「見なくてもパパ達の普段からの行動を見てれば解る。」
『…みらい、そういう所…パパに似たな。』
「似てて当たり前じゃん、私はパパの子供なんだから〜。」
何を当たり前の事言ってるの?っと言うように呆れていたみらい
『そうだったな。それで…今過去のどこにいるんだ?』
「過去の水木家。」
『へっ!?い、今…なんて言った?』
「……過去の水木家!!」
息を軽く吸い込んでから大声でもう一度言い放った。
『み、みらい、耳が痛い、普通に話してくれ。』
「パパが悪いんじゃん。」
『…はいそうでした、パパが悪うございました。そんで、今水木家にいるんだったな?』
「うん。」
『そこには他に誰かいるのか?』
「うん、いるよ。」
『っという事はだ、西暦1995年頃といえば、なつみやいづみ叔母さんの他にママの家族がいたはず。居るのか?』
「うん、いるよ。浩三郎さんはお仕事で居ないけど。」
『そうか。』
「それと、他にもいるよ。」
『へっ?…だ、誰がいるんだ?』
「えっとね…あっ」
みらいが言い掛けようとした時、突然上の方から手が来て、
みらいが持っているブローチを誰かが取り上げた。
『みらい?もしもーし?』
「おいっ!」
『…誰だい?』
「俺は山口大介だ。」
『……それで…何かな?大介君』
過去の自分と解り、けれど冷静に応じる未来の大介
「大介で良い。俺の他には森タマエと立花えり子の二人と…みらいと同じように未来の世界から来た山口勇平が居る。」
未来の自分とは気付かずに話す大介
『えっ……勇平もそっちにいるのか?』
「ああ。」
『勇平まで飛ばされてしまっていたのか。』
「大介お兄ちゃん、返してよ〜」
取り上げられたブローチを返して欲しいみらい
「なぁ、なんで通信が来るのがおせーんだよ!?」
『なんでって言われてもな〜…そう簡単に通信が出来るわけがないだろ?』
「確かにそうだけどよ、それでも通信してくんの、おせーっ!!」
『……それは否定しないでおこう。』
「んな冷静に言うなーっ!!」
「…大介お兄ちゃん?(パパと過去のパパが言い争ってる…)」
ブローチを取り戻そうとしていたみらいは大介の怒鳴り声に少し驚いた。
「ちょ、ちょっと大介っ!落ち着きなよっ!」
「うるせーっ!今話し中だっ!」
なつみの停止の声を振り切った大介
「だ、大介?」
「や、山口君?」
そんな大介に困惑するタマエ達。
『いや、本当に否定出来ない事だ。確かに…みらいの今の状況に早く気づいていれば、もっと早く通信出来ていたかもしれないからね。
だが、平日で、私やなつみは仕事で夜まで居なかった為、みらいが過去の世界へ飛ばされてしまっていた事は知らなかったんだ。』
「なんでそんなに落ち着いて言うんだよ!?」
『…こういう時だからこそ、落ち着いていなければいけないのではないかな?大介』
「おいっ、あんた、みらいが心配じゃねーのかよ!?」
『心配に決まっているだろーがっ!!どこの世界に子供を心配しない親がいる!?』
過去の自分の言葉にブチギレた未来の大介
「あまりにも落ち着き過ぎだってんだっ!」
「ちょ、ちょっと大介っ!!せっかく通信が来たのに、口論してたらすぐに切れちゃうじゃないのよっ!」
「そうよ、大介っ!ちょっと落ち着きなさいよっ!」
本格的な口論が始まってしまって慌てて止めようとしたが、その声を無視して、いまだに言い争っている2人であった。
『冷静に状況を把握しておかないといけないし…それに…』
「それに何だよ!?」
『……み、みらいなら大丈夫だと…信じているからな……』
「パパ……」
みらいには、未来の大介が今の言葉を照れながら言っているだろう事は顔を見ずとも
声ですぐ解り、その様子も頭の中浮かんできて嬉しそうにしていた。
「でもまだこんなに小せぇじゃねーか!それでも大丈夫だと信じられるのかよ!?」
『当たり前だ!子供を信じてやる事も、親としては大事な事だからな。』
「くっ…」そう言われてしまえば返す言葉がない大介
「大介…」
「はぁ…(パパ同士で口論なんかしないでよ…頭が混乱しそうだよ…)」
やっと口論が終わった事にほっとしながらも、心の中で愚痴るみらい
『もう良いだろ?山口大介。みらいに代わってくれ。』
落ち着きを取り戻した未来の大介がみらいに変わるように言う。
「大介お兄ちゃん、ブローチ…返してくれる?」
大介は黙ってみらいにブローチを返した。
『さて、本題に戻ろう。これからの事だが…』
「パパ、タイムマシンなら江地さんが今、改良・修理をしてるから大丈夫だよ。」
未来の大介が言わんとしている事が解っていたので江地の事を伝える。
『江地さんもそっちに来てるのか!?』
「うん。実は…」
みらいはこれまでの経緯を未来の大介に話した。
『なんだってっ!?お前、江地さんのタイムスリップに巻き込まれて飛ばされて来てしまったのか!?』
自然に起きたタイムスリップではなく、江地の実験に巻き込まれて過去へ飛ばされた事を知った未来の大介
「うん。勇平は違うけどね。」
『何考えてんだ…あのおっさんは…それで…勇平は違うと言っていたが、勇平は別のタイムスリップで飛ばされてしまったのか?』
「うん、そうみたいだよ。勇平は夢が丘公園でタイムスリップに遭ったらしいよ。」
『そうか…』
「それでね、パパ」
『なんだ?』
「勇平…そのタイムスリップの影響で、タイムトラベル副作用が起きちゃったみたいなんだ。」
『なんだってっ!?ま、まさか、赤ん坊になるとかじゃないだろうな?』
「違うよ。パパも知ってたよね?勇平が精神障害を抱えている事。」
『ああ、知ってるさ…って、まさか!?』
「そのまさかだよ。勇平の精神年齢…下がっちゃったみたい。」
『…お前は大丈夫なのか?みらい』
「うん、私は大丈夫だよ。」
『そうか。まぁ…タイムトラベル副作用は元の時代に戻れば戻るだろうから、その心配はないが…』
「それはそうなんだけどね…」
『問題はそこだな。そっちにいる間は、4歳よりも下っという事になる。』
「うん…」
『…みらい、勇平は今以上の泣き虫に戻るぞ。』
「うん、覚えてるよ。家で預かってた時も泣いてたもんね…その時は寝不足だったのを良く覚えてる。」
『お、覚えてるいるのか?そんな小さい時の事を…』
「うん、嫌でも覚えてると思うよ?誰でも。」
『…そうかもな。』
「そうだよ。」
『だが、いくら外見が6歳とはいえ、精神年齢が4歳以下だからな〜…勇平は「山口太郎左衛門商店」に泊まってんのか?』
「ううん、さっき正式にお願いしたばかりだよ。」
『そっか。そういえばみらい、みらいの専属ネットナビゲーター・・・「未来」の方は大丈夫か?』
「うん、大丈夫。雷の影響はないよ。一応念の為にワクチンプログラムを起動させてあるから、悪いウィルスは来ないようにしてあるよ。」
『そうか。良い判断だな、みらい』
「ありがとう、パパ」
『それで…江地さんのタイムマシンが改良・修理を終えた後に、こちらに帰って来れるという事だな?』
「うん。」
『そうか。しかし江地さんもまた凄い事を考え始めたな〜』
「パパもそう思う?」
『ああ、不可能ではないが…成功率は低い事は確かだ。』
「でも運良くこの先の未来の世界に飛ばされてたら、すぐに帰れたかもしれないね。」
『それもそうだな。まあ成功確率が低いから、そう簡単にはいかないがな。』
「そうだね。」
『まあとにかく…みらい、勇平の事で自分が体調を崩したりすることのないよう気をつけろよ?ママが凄く心配しちまうから…』
「うん、解ってる。」
『ならいいが。しかし、勇平はある意味幸運だな。みらいと同じ時代に飛ばされていなかったら、
今頃勇平の方はどうなっていたか。精神の状態が悪化する可能性もあったしな。』
「ほんとだね…勇平、運が良すぎ。」
『まあ…勇平にはみらいがついているから、とりあえずは大丈夫だろう。』
「うん、任せといて。」
『頼むぞ、みらい』
「うん。」
「…なあ、みらい。」
「ん?何?大介お兄ちゃん」
「お前は…寂しくねーのかよ?」
「なんで?」
「なんでってお前…」
「全然寂しくないよ。」
『みらいはいつもそうだな。強がってたりしないか?』
「ううん、全然強がってないよ。」
『そっか。』
「あっ…」
「おいっ!なんでそこで納得しちまうんだよっ!?」
再びみらいから奪ったブローチを持って言い放った。
『みらいがそう言っているからだよ。』
「なんで今の言葉だけで納得するんだよ!?」
『…みらいとは心の絆で繋がっていると思っているからな…だから、なんとなくだけれど…
どんなに離れていても、みらいの事が手に取るように解るんだ。』
「くっ…」
『…幼い時の記憶でも見たか?大介』
「なっ!?」
『幼い時に自分を置いていってしまった実の母親の事があるから、そんなに怒っているのか?』
「な、なんであんたがそんな事知ってんだよ!?」
『……』
「なあ、なんで知ってんだよ!?答えろよ!!」
「大介、ちょっと落ち着いてよっ!」
『…みらいの事でそんなに必死になるのは、自分の幼い時の経験があるからだろ?大介』
「質問に答えろよ…なんであんたが俺の過去の事を知ってんだよ!?」
「落ち着きなさいよ、大介!」
「大介っ!」
「……(ピキッ)」
みらいはしばらくその様子を見ていたが、ふたりのパパが口論している事に腹が立って来て、ついに切れた。
みらいの大声にみんなが驚き、そして静かになった。
「み、みらいちゃん?」
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…大介お兄ちゃん、ブローチ返して!」
「あ…ああ。」ブローチをみらいに返す大介
「パパ、何考えてるのさ!?こんな時に口論なんかしてっ!!」
『……』
「そんなの…いつものパパらしくないよっ!パパが落ち着かないのは良く解ってる。
でも、だからって口論を起こしちゃダメだよっ!」
『…悪い。』
「…ごめん、パパと2人だけでお話をしたいから移動するね。」
「あ、ああ。」
「大介お兄ちゃん、ごめんね。」
みらいは今居る部屋から静かな場所へ移動していった。
「パパ、あんまり過去の自分をいじめちゃダメだよ。」
『…すまん。』
「私の事なら本当に大丈夫だから。」
『みらい…』
「だってここには過去のパパやママ、それに他のみんなが居るんだもん。全然寂しくないよ!!」
『…ごめんな、みらい』
「パパ?」
『この頃…ずっと残業で遅くなって、一緒に晩御飯を食べる事が出来なくて・・・・』
「ううん、仕方ないよ。パパは家族のためにお仕事してるんだもん。ママもね。」
『…みらい、こっちに帰ってきたら…家族揃ってどこか遊びに行こうな、休暇・・・ちゃんと取るから。』
「えっ…でも…今忙しいんでしょ?」
『なに、少しくらい休んでしまっても大丈夫さ、約束する。』
「…うん、解った。約束だよ、パパ」
『ああ、約束だ。』
「うん。」
『ん?電波状況が悪くなってきたな・・・』
「……パパ」
『なんだ?みらい』
「…この後…食事を取ったら…ママと一緒に…大平さんの所へ行って。」
『えっ?』
「…大平さんに…話を聞いて。『みらいが大平の所へ行けって言ってたから来た』って言えば解るから。」
『…解った。』
「そろそろ切れるね。」
『ああ…みらい、どんなに離れていても、パパとママはお前の事をずっと見守っているからな。』
「うん。パパ、一つだけ約束して?」
『なんだ?』
「みらいがそっちへ帰って来れるまでの間、ママをちゃんと支えてあげて。
みらいがいない今、ママに必要なのは・・・パパだけだから。」
『ああ…解った、約束するよ。』
「うん、ありがとう。パパ」
そこで通信が切れた。
「大平さん……もう、隠さなくていいよ。これが…どういう事かは…解ってる。でも…もう隠し切れないから……
この事を知って、パパやママがどんな反応を示しても…その覚悟は…出来てる。
だから、パパ達に…Zポイントの事…教えてあげて。」
元の世界に居る大平に向けて小さな声で呟くみらいであった。
みらいはしばらくそこを動かずにブローチを握っていた。
勇平の父親である大平と、みらいの父親である大介
2人からそれぞれ別の方法で過去に居るみらいの元へ通信が届いた。
未来の大平は自分の息子の無事を知り、みらいちゃんに伝言を託し、
未来の大介は自分の娘の無事を知り安堵するも、すぐに状況を確認していた。
ところが、途中でみらいのパパ(大介)と大介がみらいの事で口論を起こした。
さらに、みらいのパパは今まで幼い時の記憶を封印していた大介に
幼い時の話を切り出して怒らせてしまった。
さて、これからの通信の間でこの2人は和解し合う事が出来るのだろうか?
そして、みらいが最後に呟いた言葉…これは一体どういう意味なのか!?
とうとう過去の世界への通信が起き、未来の大平と大介が登場ですっ!
未来の世界の方では、みらいが過去へ行った事がある事を知っている事にして、誰かさんが江地さんを問い詰めて、
みらいが過去へ行っていた事を聞き出したという設定にしてあります。
(その誰かさんとは…たぶん、時期を見て明らかにするかもしれませんので、それまでは皆さんで誰が江地さんに問い詰めたかを想像してみて下さい。)
一度やってみたかったんですよね、同一人物同士を口論させるの。
だっておもしろいじゃないですか、同一人物同士の口論。
現実じゃあ絶対にありえない事ですしね。
そして、大平が現われてしまったわけですから、当然黙っててもいずれみらいのパパの正体がばれてしまうだろうなとは思いましたが、
みらいちゃんのパパが大介である事をあえて明かしませんでした。
これからどうなるかはこれから先の話をお読みなって下さい。
それでは第12話へお進みください。