みらいと勇平の関係を知り驚いている中、いづみが勇平に再度確認するように問いかける。
「あんた、ほんとにみらいといとこ同士なの!?」
「う、うん…」
「あんたの父親の名前は!?」
「えっと……パパの名前は、山口大平…」
いづみの質問にすぐ答える勇平
『えっ!?』
「うそっ…大平ちゃんの息子!?」驚き呟くなつみ
「マジかよ!?てことは…まさか…なあ、ちなみにお前の母親の名前は?」
大介は驚くと共に、母親が誰なのか感づいてしまった大介
「えっと……ママの名前は、ジュリエッタ・ヴィットーリ…」
『ジュリエッタ!?』
「やっぱりな…」
「へぇ…でもどうしてマリオ君の子供でもないのに、こんなにマリオ君にそっくりなのかしら?」
えり子の言う通り、大介達はなぜマリオの息子ではないのに、こんなに似ているのか疑問に思うのであった。
「マリオ?マリオ叔父さんの事?僕って…そんなにマリオ叔父さんに顔似てるの?」
「うん、良く似てるよ。」
「そうなんだ…」
「大平の子供って事は、俺の甥かよ…」
「そういえばそうなるんだったっけ?」
「頭ん中がますます混乱しそうだぜ…」
自分と勇平の関係が解り、ますます混乱する大介
「これではっきりしたわね。この子はイタリア系ハーフだって事が。」
「うん、うん。日本人とイタリア人の間に生まれたハーフか〜…ハーフなんて初めて見るよ。
聞いた話じゃほとんど外国人の顔をしたハーフの方が多いらしいよ。
特に瞳の色が日本人と同じ色になることはあまりないって聞いた事があるわ。」
いづみの言葉に同意するようにタマエも言う。
「ハーフって……そんなに珍しいの?」
「ん?まあ私にしてみれば、珍しい方なんじゃないかな。実際ハーフを見るのは初めてだし。」
「私も初めてよ。」
「私も。」
「まぁ…俺もそれは初めてだな。」
タマエを始めとし、ここにいるみんなはハーフに会うのは今回が初めてらしい。
(ハーフって…やっぱり珍しいんだ…)
勇平は心の中で思いながら、悲しい瞳をしていた。
その悲しい瞳に気づく者は残念ながら誰もいなかった。
「それにしても…あいつ、おせぇな…」
「みらいちゃんなら、帰ってくるの遅いと思うわよ。しばらく帰ってこないって言ってたから。」
「そっか。仕方ねぇ、少し待ってみっか。」
「そうだね。」
「そうしましょうか。」
「じゃあみんなに紅茶を用意するわね。」
『はい、ありがとうございます。』
「ありがとう、ママ」
「みんな、ゆっくりしていってね。」
るり子はみんなの分の紅茶を作りに台所へいった。
「ん?どうしたの?勇平君?」
勇平の様子が少し可笑しいような気がしたなつみが声を掛ける。
「えっ…な、なんでもないよ!」
「勇平君?」
「勇平?」
勇平のその様子を見て心配するなつみと大介
「ほんとに…なんでも…ないから…」
そう言いながら、体操座りになって膝に顔をうずめる勇平
その時玄関のドアがガチャッという音をたてた。
「ただいまー。」
「あっ、みらいちゃんだ。」
「けっこー早く帰ってきたみたいだな。」
そして居間にみらいが現われた。
「みらいちゃん、おかえり。」
『おかえり、みらいちゃん』
「よっ、みらい」
なつみの後に続くように他のみんなもみらいに声を掛けた。
「ただいま…ってなんでみんな居るの!?」
普通に「ただいま」っと言ってから大介達に気づくみらい
「俺はみらいに用事があって来た。」
「私に?何?」
「こいつの事を聞きに来たんだよ。」
勇平の事を親指で差しながら言う大介
「ん?…って勇平っ!?」
大介の親指の視線を辿り、勇平を見た瞬間驚いた表情になるみらい
「その声は…みらいちゃん!?」
顔を膝に埋めていた勇平がみらいの声に反応する。
「あんた、何でここにいるの!?」
「みらいちゃ〜んっ!!」
勇平は座っていたソファーから降りてみらいの方へ行き、そのまま抱きついた。
「うわっ!?ちょ、ちょっと勇平っ!?」
突然抱きつかれたにも関わらず、難なくしっかりと受け止めるみらい
「良かった…僕、独りぼっちじゃ…なくて…」
みらいにしか聞えないほどの小声で呟きながら泣く勇平
みらいはその言葉を聞き、仕方なくしばらくそのままにして、黙って勇平の頭を撫で始めた。
そこにいたみんなは唖然としていた。
それから少し経って、落ち着いてきた勇平をソファーに再び座らせた。
ちょうどその時るり子も居間に紅茶を持ってきた。
「勇平君、落ち着いた?」
「うん…」
「勇平君、どうしてこっちにいるの?」
勇平がなぜここに居るのか聞くみらい
「…よく…わかんない…昨日、僕が夢が丘公園に居た時に…急に空のお天気が悪くなったのが解って…
それで急いで家に帰ろうとした時、突然雷が鳴り出して…だんだん雷が激しくなって、その後に、僕のところに雷が落ちて…
気がついたら、山口太郎左衛門商店のお庭に居たんだ…それからはわかんない。」
「こいつ…義母さんが部屋へ運んでさ、そのままほとんど寝てたんだ。俺は今日の昼…さっき初めて話をしたんだ。」
勇平の後に付け足すように話す大介
「そうだったんだ。じゃあ…勇平君、まだ一度も家に帰っていないの?」
「うん、ずっと逃げ回ってたから。」
「また?」
「うん。」
何が「また」なのかは解らないが、2人の間ではそれだけ通じるようだった。
「勇平君、ちょっといい?」
「なに?」
「とりあえず今から出す問題に答えてみて。」
「えっ?」
「1たす1は?」
「えっと……2」
勇平は驚きつつも、みらいの出した問題を素直に答える。
「じゃあ次、2たす3は?」
「えっと……5」
「じゃあ次、3たす3は?」
「えぇっと………7?」
「じゃあ次、5たす3は?」
「えぇっと………9?」
「そこまで。」
「?」
「じゃあ勇平君。」
「なに?」
「今から自分の名前を書いてみて。」
「えっ?」
「いいから言われた通りに書く。」
みらいは鞄の中からノートと筆記用具を出して勇平に渡した。
勇平はみらいに言われた通り、自分の名前を書いた。
勇平が書いた字はひらがなで「やまぐちゆうへい」と書いてあった。
「……やっぱり。」
勇平が書いた文字を見て1人納得するみらい
「なに?」そんなみらいが気になった勇平
「なんでもない。それより勇平君、もうすぐ3時、眠いでしょ。」
勇平に答える気がないのか、話を逸らすみらい
「そういえば……」
話を逸らされた事には気付かず、みらいに言われて眠い事に気づく勇平
「そこで寝てればいいよ。私は今はどこにも行かないから。」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。はい、もう寝る。」
「うん。おやすみなさい…」
みらいがどこにも行かないと言った事に安心したのか、
勇平は言われた通りそのまま寝入った。
「はぁ〜……」
勇平が寝たのを確認した後、大きくため息をついてしまうみらい
「みらい、さっきのはなんだ?」
今まで黙って見ていた大介がみらいに話しかけてきた。
「検診。」
「検診?何の検診だよ?」
「現在の精神年齢を調べる検診を行ったんです。」
「はぁ!?」
「どういう事?みらいちゃん?」
誰もがみらいが行った「検診」に疑問を抱いていた。
「勇平…ああ見えても、精神障害を抱えているんです。」
大介達の様子を見て察し、みらいは勇平の事を話し始めた。
「精神障害?」
「はい。今検診したところによると、現在の精神年齢より下がってしまっていると思います。
たぶん…タイムトラベル副作用が原因だね。」
『タイムトラベル副作用!?』
「はい。」
「それで…勇平君は大丈夫なの?みらいちゃん」心配するなつみ
「大丈夫。向こうの世界に戻れば、タイムトラベル副作用は無くなるはずですから。」
「お前は大丈夫なのかよ?」
「はい、大丈夫です。タイムトラベル副作用は起きていませんから。」
「ねぇ、みらい」
いづみがみらいに話しかけてきた。
「何ですか?いづみさん」
「あんたとあの子…いとこ同士だっての…ほんと?」
「……勇平が言ってたんですか?それ。」
「ああ。私があの子にあんたとどういう関係かを聞いたらいとこ同士だって答えたんだ。んで?ほんとなの?」
「…本当です。勇平と私は正真正銘本当のいとこ同士です。」
「そうなのか。じゃあ大平とジュリエッタの息子だってのもほんとか?」
「そ、そんなとこまで話しちゃったんですか!?」
大介の言葉を聞いて驚くみらい
「あ、ああ。」
「…勇平の父親の名は山口大平さんで、母親の名はジュリエッタ・ヴィットーリさんです。」
「やっぱそうなのか。なんか信じらんねぇ…」
「それより…誰か勇平が居る前で、『ハーフ』・『イタリア系ハーフ』・『イタリア人』などという言葉を使ったりしました?」
話を切り替えて大介達に問うみらい
「えっ?あ、ああ…そういやぁ使ったな…」
「そういえば私も…」
「何か問題でもあるの?」
「あるっ!大有りっ!」即答するみらい
「なんでだよ?」
「勇平が精神障害を持つもととなった言葉だからです。」
『えっ……』驚く大介達
「それともう一つ。マリオさんの事、話したりしました?」
「そ、それもいけなかったのか?」
「はい、なぜかね…」
「そっか。なぁ、なんであいつ…学校へ行く以外は、外へ出たがらないんだ?
外に出ると嫌な事があるからとか、外に出るのが怖いとか言ってたんだけどさ。」
ここへ来る前の勇平の様子を思い出しながらみらいに聞く。
「……外に行けば、必ずつらい思い出を無意識に思い出しちゃう。
誰かがそばにいないとすぐ不安になって、精神が不安定になるからです。」
少し間を置いてから話し始めたみらい
「つらい…思い出?」
「差別だよ。」
『差別!?』
「そう、幼稚園時代から、同年代の男の子達にね、勇平が『ハーフ』ということだけでよく言葉の暴力があったんです。
誰も勇平を仲間に入れようとしなくてね、だから『どうしてハーフはダメなのかな?』、『どうして僕はみんなと違うの?』って
よく私に言っていました。だから私は、その度にきちんと教えていたんですけど…同年代の男の子からの差別が
一向に止まなかったのが原因で、いつの間にか勇平の心の負担になっちゃたんです。
それからだんだん精神が弱ってきてね、その『ハーフ』という言葉に大きな精神的ダメージを受けちゃって……
それ以来勇平の精神年齢はストップしたままなんです。現在、外見は6歳…でも、精神年齢は未だに止まったままなんです。」
「それで精神障害ってのを持ってんのか。」
「はい。」
「精神年齢はいくつで止まってるの?」
「現在の精神年齢は4歳。でも、今はタイムトラベル副作用で、精神年齢が2〜3歳くらいに下がってしまっているかと思われます。」
なつみの問いに少し考え込みながらもしっかりと答える。
「マジかよ?」
「はい。勇平…前に漢字で名前を書けるように教えた事を忘れていましたし、それにさっきの勇平の様子を見る限り、こっちへ来る前の勇平よりも幼く見えましたから。
ですから、おそらく2歳の頃から3歳の頃のちょうど中間あたりの精神年齢に戻っていると思うんです。」
「そっか。」
「ねぇ、みらいちゃん」
「何ですか?」
「その勇平君…なんか妙にみらいちゃんに凄くなついてるね。」
「あいつ、みらいの事…今、物凄く1番必要な存在みたいに見えるんだけど…気のせいだよな?」
「…ううん、気のせいじゃないよ。」
なつみと大介の言った事を肯定するみらい
「えっ?」
「確かに勇平は今両親よりも凄く私の存在を1番必要としている。」
「…なんでだよ?大平達はどうなってんだよ?」
親であるあの2人の事を聞く大介
「ほとんど家に居ないからです。」
「えっ?」
「大平さんは大阪支店の方へ行く事が多く、ほとんど家に帰って来れないんです。」
「ジュリエッタは?」
「ジュリエッタさんは…その、最近の大阪支店への出張の時には大平さんについて行っています。
あの通り、お2人はまだまだ若いですから…」
少し言いにくそうにしながらもしっかり答える。
「た、確かに…18年後ってまだ若いよな。」
「だからどっちかっていうと、勇平はおばあちゃんっ子なんです。」
「おばあちゃんっ子っていうと…」
「山口佐和子さんです。」
「なるほどな…っておいっ!待てよっ!俺はどうなってんだ!?『山口太郎左衛門商店』は大平が継いでんのか!?」
今の話の流れで自分が出てきていない事に気づく大介
「だ、大介お兄ちゃん、声が大きいです!『山口太郎左衛門商店』は大平さんが継いでいます。
詳しい事は知りませんが、大介お兄ちゃんは、自分から辞退したと聞かされていますけど。」
声が大きい事を指摘しながらも、質問にしっかりと答えるみらい
「……マジ?」
「はい。今も迷っているんじゃないですか?跡を継ぐか、継がないか。」
「……わかんねぇ…」
改めて考えてみると、本当に自分は跡を継ぐ気があるのか解らない。
「すぐに答えが出るわけじゃないんですし、ゆっくり答えを見つければ良いと思うよ。」
大介の様子を見て、助言する。
「……それもそうだな。」
みらいに言われて、今はこれ以上考えない事にした大介であった。
「それで…勇平の事なんですけど…」
「なんだ?」
「悪いけど、『山口太郎左衛門商店』でしばらく勇平を預かっててもらえませんか?」
「そりゃ構わねぇけど…家で預かってて大丈夫なのか?」
こっちで預かって大丈夫なのか聞く大介
「う〜ん……ちょっと大丈夫じゃないかな。」
「おいおい…なんだよ?その大丈夫じゃない事って…」
「…夜泣き。」
「はっ?」拍子抜けした声を出してしまう大介
「勇平、時々夜泣きするんだよね。」
「はぁ?夜泣き?なんでまた…」
「いくらなんでも…夜泣きはないんじゃ…だってみらいちゃんと同い年でしょ?この子。」
「外見はね。でも中身はまだまだ幼い子供。それに今回ので精神年齢が下がっちゃったから、夜泣きの確立が上がっちゃった。」
大介となつみは、勇平の年齢からして「夜泣き」はさすがに有り得ないのでは?っと言うがみらいはそれを否定した。
「なんで夜泣きすんだよ?」
「言っとくけど、本人に自覚は無し。自分が寝てる時に夜泣きをした事を知らない。」
「んで?いつも誰がその夜泣き止めてるわけ?そんな面倒なこと…」
「勇平のお父さん、お母さん、おばあちゃんの3人です。」
「つまり…交代で勇平と一緒に寝て、面倒を見てるわけだな?」
「はい、その通りです。これが始まったのは…ちょうど幼稚園に行き始めた頃です。」
「じゃあそれからもう2年も経っているの?」
「はい。最初はただの夜泣きだろうとみんな思っていたらしかったんですけどね。」
「んで?」
「家で預かった時も…夜泣きしたんだよね。それで私、妙にその夜泣きの事が気になっちゃって、それで勇平を病院へ連れていって診察してもらったら、
精神障害を持ってると言われました。だから時々夜泣きするんだって、確かに最初の頃はおそらく普通の夜泣きだったんだろうけど、
それが繰り返されているうちにいつの間にか精神障害を抱えてしまったのだろうってお医者さんが言っていました。」
「おいおい…大平はそれまで気づかなかったのかよ?」
話を聞いて大人の大平は何やってんだというように呟く大介
「無理もないよ。大平さん達の時は何も呟いていなくて、何に魘されてるのか解らなかったみたいですし、ほとんど家にいなかったんですから。」
「お前は良く解ったな。」
「夜泣きした時、勇平が言葉を呟いていたから…」
「お前はそれだけで解るのかよ?」
「だってその呟き事、幼稚園で受けた差別に関することばっかりだったんだもん。それにいつも私に呟く言葉も言っていたしね。」
「それにしたって、お前勘が良すぎねぇか?」
「うん、うん。それに医学用語を良く知ってるし。」
大介やタマエ、他のみんなもみらいの勘の良さに感心していた。
「えっと…それは知り合いに医者が居て、よく医学の話を聞かせてもらっていましたから。」
「はぁ?知り合いに?」
「はい。私の幼馴染の双子の兄弟のお父さんがお医者さんなんです。」
「へぇ…じゃあ勇平君もそこで?」
「はい。知り合いの病院の方が良いと思って、その幼馴染の双子の兄弟に頼んで、その双子の兄弟のお父さんに診察してもらえるようにお願いしたんです。」
「…んな事して大丈夫なのかよ?」
「はい、大丈夫です。その病院の副院長ですし、院長はその双子の兄弟のおじいちゃんがやっているので。」
「……お前、凄い所の子供と幼馴染なんだな。」
「そうかな?とりあえずそういう事だから、勇平の事、少し大変だけど…お願い出来ますか?大介お兄ちゃん」
「う〜ん……」
その時何かの音が鳴り出した。
一体何の音が鳴ったのだろうか?
勇平とみらいは正真正銘本当にいとこ同士だった。
そして、勇平は差別が原因で、精神障害を持つ少年だという事も。
そんな時、何かの音が鳴り始めた…
一体何の音なのであろうか?
「山口勇平」の設定ですが、精神障害を持っているって事になっていますが、
これは管理人が思いついた架空の障害ですのでご注意をっ!
それでは第11話へお進み下さい。