大介達がそれぞれ家に帰った後、山口太郎左衛門商店では……
「「ただいまー」」
「あっ、大介さん、大平お帰りなさい。」
今、2人に声を掛けたのは大介の義母であり、大平の母親である山口佐和子
「ただいま。遅くなってゴメン。」
「大介さん、ちょっと…ついてきてもらえないかしら?」
「?…別に構わねぇけど…どうかしたのか?」
「ついて来れば解ると思います。さ、ついてきて下さい。」
とりあえず大介と大平は佐和子についていった。
ある部屋の前に着き…
「大介さん、ここを開けて部屋の中を見て下さい。そ〜っと静かにお願いしますね。」
「?…なんで静かになんだよ?」
「部屋の中を見れば解ります。」
大介はそう言われ、疑問を抱きながらもその部屋をそ〜っと開けた。
そして部屋を見回し、ある所に注目すると…そこのには大平と同じぐらいの男の子が布団で眠っていた。
「…誰だよ?あいつ。」
寝てる男の子を指差しながら佐和子に聞く大介
「それが…解らないんです。」
「はぁ?解らない??」
「はい。ですが…あの子、大介さんの知ってる人に似ているんです。その子の顔を見てみて下さい。」
大介は寝ている男の子に近づき、顔を覗くと…
「ああっ!!マ、マリオ!?」
大介はその男の子の顔を見て驚く。
そう、その男の子はイタリア人で大介と同い年のマリオ・ヴィットーリとそっくりだったのである。
「な、なんでマリオがここにいるんだよっ!?」
「大介さん、その子…あなたの知っているイタリア人のお友達ではないと思いますよ?」
「なんでそう言い切れるんだよ?」
「実は…」
佐和子は事のあらましを説明し始めた。
ーー回想ーー
時刻は午後3時30分頃、山口太郎左衛門商店では…
外ではこれから嵐でも来るかのように雷が鳴っていた。
『あら?急に天気が悪くなっていますね、大介さんと大平…大丈夫かしら?』
山口太郎左衛門商店内にあるお庭が見える廊下にいた佐和子が空を見上げながら呟く。
その時、突然雷が激しく鳴りだした。
そして、その激しく鳴っている雷が山口太郎左衛門商店の庭の地面に向かって落ちてきた。
雷が落ち、雷の光が地面に集中している時、中からある影が見え始め、佐和子はそれを見ていた。
だんだん影から姿が見え始めてきた。
『小さな子供?』
そして完全に姿が出現した後、その雷の光は役目を果たしたかのように消えた。
佐和子はその後すぐにその小さな男の子に近寄って抱き起こす。
『う、う〜ん…』
その男の子が目を覚ました。
その男の子は背中にリュックを背負っており、イタリア人ぽかった。
『大丈夫?』
声を掛ける佐和子
『…ここは?』
目を覚ました男の子は周りを見回す。
『山口太郎左衛門商店のお庭よ。』
『えっ!?うそっ!?僕、さっきまで夢が丘公園に居たはずなのに…それに…ここ、本当に山口太郎左衛門商店?』
佐和子の言葉を聞いて一気に目が覚めた。
『あなたは今空から雷が落ちて、あなたはその雷から現われましたけど…』
『雷…あっ、あの時のっ!じゃあ、僕はどうなったの?ここ、ホントに山口太郎左衛門商店なの?』
『ええ。』
『…う、ひっくっ…ひっくっ…うわぁーん!パパ〜!ママ〜!」
混乱しているからなのか、突然泣き出した。
佐和子はその男の子を泣き止ませようとしたが、全然泣き止む様子はなく、
ただその場でその男の子を抱きしめて、その男の子が泣き止むのを待っていた。
そして、少し時間が経ち、その男の子は泣き疲れたのか、いつの間にか眠ってしまった。
『寝ちゃったのね。とりあえずこの子を家で休ませましょ。』
男の子を抱き上げてある部屋まで運んで寝かせにいく佐和子だった。
ーー回想終了ーー
「…っというわけで、とりあえず寝かせているんですけど…それからまだ起きていないので何も解らないんです。」
「ふ〜ん、そうだったのか…」
「大介さんは何か心当たりはありませんか?」
「…あいつ、もしかしたら…未来の世界から飛ばされてきたのかもしれねぇ。」
少し考え込む素振りをしていたが、すぐに結論が出たらしい大介
「未来の世界から…ですか?」
「ああ、さっきの話を聞く限り、雷から現われたって視点で未来の世界からって考えてもおかしくねぇしな。」
「それじゃあどうしましょうか?あの子の事…」
「その事なんだけどさ、明日…なつみん家へ連れて行く。」
「水木さんのお宅に?」
「ああ、実は…なつみん家に未来の世界から飛ばされてきた奴がいてさ、あいつならこいつの事…知ってるかもしれねぇ。」
なつみの家に居るみらいならこの少年の事を知っているかもしれないと思った大介
「水木さんのお宅に未来の世界から飛ばされてきた人が居るんですか?」
「ああ、義母さんも知ってる奴だぜ。」
「えっ…じゃあもしかしてその飛ばされてきた子は…」
すぐにピンッと来た佐和子
「ああ、2年前に未来の世界へ帰っていったみらいだ。」
「みらいちゃんも飛ばされてきたんですか?」
「ああ、今回は2007年じゃなくて、2013年の未来の世界から来たみらいだけどな。」
「2013年から…ですか?じゃあ…みらいちゃんは今…」
「小学1年らしいぜ。」
「まあ。じゃあ大平より年上ね、今は。」
「ああ、そうだな。あと…2年前にみらいを未来の世界へ連れて帰っていった張本人の江地のおっさんも来てるんだ。」
「まあ。それで…みらいちゃんはちゃんと未来の世界へ帰れるんですか?」
「ああ、少し時間が掛かるみてぇだけど…ちゃんと未来の世界へ帰れるってさ。」
「あの子もみらいちゃんと同じように、未来の世界から飛ばされてきたのかしら?」
「それは俺も解らねぇ…少なくとも…マリオじゃねぇって事くらいしか…とりあえず今晩は家に泊めて、
明日学校が終わったら、なつみん家に行くからそれまで頼むよ。」
「解りました。お食事はどうしますか?あの子が起きてからにしますか?」
「ああ、俺達は別に構わねぇぜ。なっ?大平」
「うんっ」
「じゃああの子が起きたら、お食事にしますからそれまで待っていて下さいね。」
「ああ、行くぞ。大平」
大介と大平は奥の大介の部屋へ行った。
一方水木家の方では夕食の時間になってみんなで食事をしていた。
「さあ、食事にしましょうか。みらいちゃん、遠慮せずにどんどん食べてね。」
「はい。それじゃあいただきます。」
みらいは両手を合わせて言い、御飯を食べ始めた。
その後なつみ達も……「「いただきます。」」と一斉に言って食べ始めた。
「みらいちゃん、さっきなつみから聞いたんだけれど、お料理を作る事が出来るんですってね。」
「あっうん、出来るよ。」
「凄いな、みらいちゃん」
「そ、そんな事ないよ。それにお料理作れるようにしとかないと、御飯が食べられないもん。」
るり子や浩三郎に褒められて少し照れていたが、謙虚な態度で応じていたみらい
「そういえば未来のなつみは仕事をしてるみたいだな。いつからやってんの?」
いづみがふと思い出し、みらいに聞く。
「んっと…私が幼稚園に入る年になってからまたお仕事を始めた。」
「また?」
「うん、私が生まれる前にもお仕事してたって言ってたから。」
「…未来の私…そんなに忙しいお仕事してるの?」
「そうなんじゃない?よく休日にも仕事場の上司から呼ばれてるみたいだし。」
「そうなんだ…」
「じゃあ残業で遅くなる事もあるの?」
「うん、たまにね。でも、ママは残業はなるべく避けて帰って来てるみたいだよ?パパがそう言ってた。」
「あら、そうなの?」
「うん。」
水木家では穏やかな会話が流れていた。
山口太郎左衛門商店の方では…
時刻は8時を回っており、いまだに少年は目を覚まさない状態だったので、
仕方なく結局大介達は先に晩御飯を食べていた。
「結局、待っても起きてこなかったな、あいつ」
「そうね、でもいつ起きるか解らないわ。念の為おにぎりを作っておく事にするわ。」
いつ起きてきても大丈夫なようにおにぎりを用意しておくと言う佐和子
「あいつ…いくつなんだろうな?」
「さぁ、いくつなんでしょうね?」
「大平、お前はどう思う?」
「えっ?どう思うって…さっきの部屋で寝てた男の子の事?」
「ああ、そうだ。」
「う〜ん…よくわかんない。」
「ありゃりゃ…まあ無理もねぇか。」
山口家でも正体不明の少年の心配をしながらも、穏やかな会話が流れていた。
水木家の方に戻って……
「みらいちゃん、お風呂沸いてるから入ってきたらどうかしら。」
「あっ、はい。じゃあお風呂に入ってきます。」
るり子の言葉通り、お風呂に入ることにするみらい
「…なつみと一緒に入ってきたら?」
「えっ?い、いえ、今お勉強中でしょ?だから1人で入りますからっ」
なつみと入るのを断り、みらいは風呂場へ逃げるように出て行った。
「あら、意外な反応ね。」と呟くるり子であった。
風呂場へ向かっている途中…
「あれ?みらいちゃん、お風呂入るの?」
「えっ?あっ、うん。るり子さんに入ってきたらって言われたから。」
なつみの声が聞こえ、振り返って応じたみらい
「そうなんだ。…ねぇ、みらいちゃん」
「何?」
「一緒にお風呂に入ってもいい?」
「えっ?お勉強は?」
「今終わった。それにみらいちゃんと久しぶりに入りたいし。」
「…なつみお姉ちゃんがそういうなら別に構わないけど…」
特に断る理由もなかったのであっさり了承するみらい
「あっ、そう?じゃあ先に入ってて、すぐに行くから。」
「うん、解った。」
お風呂場にて……
みらいは言われた通り、先に風呂に入っていた。
「…未来の世界とあまり変わってないな、このお風呂。」
そう呟きながら、みらいはなつみが入ってくるのを待っていた。
少し経ってなつみが風呂に入ってきた。
「ちょうど良いお湯加減だね。」
「うん、そうだね。」
「それにしても…まさかこんな形で再会して、またみらいちゃんと一緒にお風呂に入れるなんて思わなかったよ。」
「…私は全然当時の事は覚えていないけどね。」
「覚えてなくても仕方ないよ。だってみらいちゃん、あの時まだ赤ちゃんだったんだもん。」
「まぁ…そうだけどね。なんか微妙に気になるんだよね。」
「…ねぇ、みらいちゃん」
「何?」
「未来の世界にいる私とここにいる私…全然変わってない?」
「えっ…どうして?」
「だってみらいちゃん、すぐに私が自分のママだって事に気がついたんでしょ?」
「ああ、それでか。そんな事ないよ、ちゃんと変わってるよ。…私がまだ赤ちゃんだった時からね、なぜかパパが豆まきの時に
鬼の仮面をしてても怖がらず、パパだって解っていたり、他にもいろんな面ですぐに誰かが解っていたみたいなんだ。
ママが前にそう言ってた。今の私から見れば、なんとなく誰かが自然に解る、当たり前のように解っちゃうんだよね。」
なつみがいきなり未来の自分の事を聞いてきた理由が解り、なつみの疑問に答えたみらい
「へぇ…そうなんだ。そういえば確かにあの時のみらいちゃんってそんな感じだったなぁ…あっ!ねぇ、みらいちゃん」
「ん?何?」
「今…雷とか怖い?」
「全然。」
「やっぱりね。」
「なんで?」
「みらいちゃん、赤ちゃんの時雷を怖がらなかったんだよ。だぶんタイムスリップをした影響で怖くないのかもね。」
「怖いというより…なんか懐かしい気分だった。たぶんここ…過去の世界の事を懐かしく感じてたんだろうね。」
「そうかもしれないね。」
それから少し時間が経ち、お風呂から出て、体を拭いて、服を着た後、下の居間へ行った。
居間に行くと、そこにはるり子と浩三郎の姿が…
「あら、みらいちゃん、なつみと一緒にお風呂に入っていたのね。あんなに遠慮してたのに。」
「う、うん。」
「遠慮?ねぇママ、みらいちゃん…何を遠慮したの?」気になるなつみ
「なつみ、あなたとお風呂に入る事よ。みらいちゃんがお風呂に入る前、なつみと一緒に入ったらどうか?って聞いたのよ。
そしたらね、あなたのお勉強の邪魔になるからって遠慮してたのよ。」
「そうだったんだ。ねぇみらいちゃ〜ん、私達に遠慮しなくて良いって言ったよね?」
「う、うん。でも…やっぱり遠慮しちゃうかな。」
「……みらいちゃん、今夜一緒に寝よう。」
「えっ!?なんでそうなるの!?」
「遠慮した罰。」
「…解った。」
なつみにそう言われてしまえば、返す言葉はなく観念したみらい
「うふふ、じゃあ今夜はなつみの部屋で一緒に寝るのね。」
「うん。」
「あっ…なつみ、明日も学校だからもう寝たら?」
「それもそうだね。みらいちゃん、2階の私の部屋に行こう?」
「うん、るり子さん、浩三郎さん、おやすみなさい。」
「ええ、おやすみ、みらいちゃん」
「ああ、おやすみ、みらいちゃん」
「じゃあパパ、ママ、おやすみ。」
「「おやすみ。」」
その後、なつみとみらいは2階のなつみの部屋に行った。
「ここが私の部屋だよ。」
(未来の世界とあんまり変わらないな。)
部屋を見回しながら、心の中でそう思ったみらい
「みらいちゃん、こっちにおいで。」
「あっ、うん。」
「じゃ、もう寝ようか?」
「そうだね。おやすみなさい。」
「おやすみ、みらいちゃん。」と言った後、なつみとみらいはベットの上で仲良く眠った。
山口太郎左衛門商店の方では…
すでに10時を回っており、大介達は寝静まっていた。
ここはある部屋…少年が眠っている部屋である。
「うっ…う〜ん…」と言いながら少年は夢の中で魘されていた。
ーー少年の夢の中ーー
『こっちくんなよっ!』
『ハーフはあっち行けよ!』
『お前が入る隙間なんてねぇんだよ!』
『なんで?どうしてハーフはいけないの!?』
『当たり前だろっ!?確かお前、日本人とイタリア人の間に生まれたハーフなんだよな?』
『そ、そうだけど…』
『そんなハーフが受け入れられるかっ!お前は俺達とは違うんだっ!』
『『そうだ、そうだ!』』少年の周りに居た男の子全員が口を揃えて言う。
『どっかの仲間に入れて欲しければイタリアに行けばいいだろっ!?』
『ど、どうして…ハーフは…どうしていけないの!?ひっくっ…ひっくっ…』
『あ〜あ、お前ホントにそれでも男かよ?』
『や〜い、泣き虫〜。』
『俺達はな、弱虫はぜってーに仲間には入れねぇんだ。だからどちらにしろお前は仲間はずれなんだよっ!』
『『そうだっ、そうだっ!お前なんかイタリアに行っちまえっ!!』』
『…ひっくっ…ひっくっ…パパ……ママ……うわぁーん!』
ーー少年が夢から覚めたーー
少年はガバッっと起きた。
「はぁ…はぁ…はぁ…今のは…あの時のっ……」
肩で息をしながら、今の夢の事を思い出す。
「大丈夫ですか?」
「うわっ!?」自分以外の声が聞こえ驚いてしまった。
「驚かせてしまってごめんなさいね。随分魘されていたようですけど…大丈夫ですか?」
「えっ…あっ、うん…大丈夫…。」
「くすっ、おなか空いてません?」
「あっ…」少年は初めておなかが空いている事に気づいた。
「はい、おにぎりで申し訳ないけど…」
佐和子が少年にお皿に乗ったおにぎりを差し出す。
「あ、ありがとう……い、いただきます。」
佐和子からおにぎりを受け取り、食べ始めた少年
「あなた、お昼に私と会ったのを覚えていますか?」
「お昼?……あっ!」
「あの時、泣き疲れて眠ってしまったので、ここへ運んだんです。」
「ご、ごめんなさいっ…」
「いいえ、いいのよ。ところで…お名前を聞かせてくれないかしら?」
「な、名前?」
「ええ。」
「ぼ、僕の名前は勇平、山口勇平。」
「えっ!?あなた…山口勇平っていうの?」
「う、うん。ここは…山口太郎左衛門商店の中…だよね?」
「ええ、そうですよ。」
「……ここ、どこなんだろう…あの時、夢が丘公園に居たはずなのに、いつの間にか山口太郎左衛門商店に来ていた……
でもここ、僕の知っている所で知らない所な気がする…うっ…ひっくっ…ひっくっ…」
その勇平という少年は今の状況をだいたい理解した途端、不安な気持ちが膨れ上がり、泣き出しそうになってしまう。
「…落ち着いて。さあ今夜はもう遅いからここで寝てて頂戴。」
「ひっくっ…ひっくっ…うん。」
不安な気持ちを抱えながらも、眠気の方が勝っていたからか、少し経った後に再び静かな寝息を立てて眠ってしまった。
佐和子はその様子を見た後、ゆっくり部屋から出て行った。
この少年の名前は「山口 勇平」……彼は一体どうやって過去へ来たのだろう?
…いや、来てしまったのだろうか?それはまだ誰にも解らない。
そして、この少年はみらいちゃんの知っている子なのか…みらいちゃんと何か関係のある子なのか…
それはまだ、誰も全く知らない。この少年は一体どうなってしまうのだろうか?