古傷の痛みと記憶

ーー夜ーー沢田家ーーツナの部屋ーー

お風呂から上がり、今はパジャマ姿のツナがベッドに寝転がった。

「はぁ〜…疲れた…結局1日に2つも試練を受けさせられるなんて聞いてないよ。獄寺君も立ち会えなかったって凹んでるし。」
獄寺と電話してた時の事を思い出すツナ

「獄寺君を宥めるの大変だったよ。せめて予告くらいして欲しいな…はぁ、疲れた…」
げんなりした表情でそう愚痴っていたツナ

「予告なんかしてたら試練にならないよ。」
ツナの横に座っていたソラが寝転がったツナを覗きこみながら言う。

「ソラの言う通りだぞ。それに、これくらいで疲れてたんじゃ、これからの試練を乗り越えられねぇぞ。
残ってるアルコバレーノは、スカルなんかよりよっぽど強敵だ。覚悟しておけよ。」
ハンモックの上で寝転がっていたリボーンが起き上がってツナにそう言った。

「そんなー!?」叫ぶツナ

「まっ…死ぬ気でやるしかねぇな。」
再び寝転がり、すぐに眠ったリボーン

「もう寝た!?人事だと思ってっ…」
すぐに眠ったリボーンにツッコミを入れたツナ

(今日1日でコロ兄とスカルの試練はクリア。明日は…誰なんだろう…?バイパーか、風(フォン)のどちらかだとは思うけど……)
2つの試練の事を思い出しながら、次の試練は誰か思考していたソラ

「はぁ〜……他のアルコバレーノの試練っていったい何なんだろう…?」
ため息をつくツナ

「大丈夫?」

「あ、うん…大丈夫だよ!心配してくれてありがとう、ソラちゃん」
そう言いながら、ソラの頭を撫でるツナ

撫で心地が良いからか、ソラは大人しく撫でられていた。

「そろそろ俺達も寝よっか?」

「うん。」


真夜中、ソラはツナと一緒に寝ているのに魘されていた。

「ん…?……!!…ソ、ソラちゃん!?」
自分が抱きしめていたソラが魘されてるのに気付いて、一気に目が覚めたツナ

「どうした?ツナ」
ツナの叫びを聞いて起きたリボーン

「リボーン!ソラちゃんがっ…」

リボーンはハンモックからベットの上に飛び降りた。

ツナの腕の中に居るソラは、ツナの服を握ったまま魘されていた。

「ソラちゃん!ソラちゃんってば!!」
魘されてるソラに呼びかけるツナ

だが、起きる様子はなく、ツナの声が聞こえてないようだった。
その間に魘されてるだけでなく、ツナの腕の中で泣きながら暴れ出し始めていた。

突然暴れ出したソラをなんとかしようと必死になっていたツナ

(ツナと一緒に寝てるのになぜ魘されているんだ!?ツナか京子と一緒なら悪い夢見ないんじゃなかったのか!?)
初めての事態にリボーンも戸惑いを隠せない。


ーーソラの夢の中ーー

薄暗い部屋の中、ソラはうつ伏せに寝かされ、上半身は服を着ておらず、手足を拘束された状態だった。
周りには5人の白衣を着た男の人達が居た。

『よし、麻酔を打て。』

5人のうちの1人がそう指示を出すと、注射器を持った人がソラの腕に麻酔を打ちこんだ。

打たれた瞬間、体が強張ったソラ

(……体中の感覚が…また、無くなっていくっ……)

『よし、そろそろ麻酔が効いてきた頃だな…始めよう。』

(!……今度は、どこを切る気なの!?)冷汗をかくソラ

小さなナイフを持った白衣の男がソラに近づき、その背中に切り傷を入れた。

(う゛あ゛あぁぁっーー!?)
麻酔を打たれているから痛くないはずなのに痛みを感じ、悲鳴を上げていたソラ

だが、その悲鳴は声の無い悲鳴だった。

ーー夢の中から現実へーー


「…ソ……んっ………ちゃんっ……ソラちゃん!!」

自分を呼ぶ声が聞こえ、目を覚ましたソラ

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…」
目を覚ましたソラは、乱れている呼吸を落ち着かせようとしていた。

「ソラちゃん、大丈夫?」
「大丈夫か?ソラ」
自分を心配そうに覗き込んでいたツナとリボーンの姿があった。

「綱吉さん…リボ兄…」

ツナは、涙を流して冷たい汗をかいていたソラの頬を優しく撫でる。
そうする事で、落ち着きを少しずつ取り戻させていた。

落ち着いてきたソラは改めてツナを見た。

ツナの着ているパジャマはボタンが1つ外れ、自分が服を掴んだままだったせいでシワが出来ていた。
自分が寝ながら暴れていた事が解ったソラ

「ご、ごめんなさいっ…」そう言いながら、ツナの服を掴んでいた手を離すソラ

「え……あっ…気にしないでよ!ボタンは母さんに言って直して貰えば良いし、シワだって洗えばすぐ元通りなんだからさ!!
それより…なんか凄く魘されてたみたいだけど、怖い夢でも見ちゃった?」

(今見た夢、あの時の……っ…)
ツナにそう聞かれ、今の夢を思い出していたが、どこかに痛みを感じたソラ

「どうしたの!?どこか痛いの!?」
ソラの様子がおかしい事に気付き、心配するツナ

ソラの様子を見て何か心当たりがあるかのようなリボーン

「リボ兄っ…」

「何だ?」

「私のっ…バックに…薬が入ってる、から…それ、取ってくれる…?無色のカプセルの方っ…」

「ああ、わかったぞ。ツナ、お前は水を持ってこい。」

「あ、うん!わかったよ!!」
寝ている他のみんなを起こさないように気をつけながらも、
急いで水を取りに1階へ向かったツナ

その間、ソラに言われた通り、床に置いてあるウェストポーチから薬を取り出していたリボーン

少しして水の入ったグラスとタオルを持って戻って来たツナ

リボーンも薬を持ってベッドの上に戻ってきた。

「ソラ、これで合ってるか?」
ソラが言った通り、無色のカプセルが入った小さなケースを見せるリボーン

「うん…」そう返事しながら体を起こしたソラ

それを見て、慌てて駆けよってソラを支えたツナ

「ソラちゃん、大丈夫?」

「うん……リボ兄、一粒頂戴。」

「ほら、口を開けろ。」

大人しくリボーンに言われた通り口を開ければ、薬を口の中に入れてくれたリボーン
すかさずツナが水の入ったグラスを近づけ、ソラに飲ませた。

「ありがとう。」
薬を飲んだソラが2人にお礼を言う。

ツナはソラをゆっくりと横たわらせた後、持ってきたタオルで汗と涙で濡れてるソラの顔を拭う。

「ソラ、背中の傷が痛むのか?」

「えっ!?背中の傷って…古傷だよね?」

「うん……たまに、痛むんだ…普段は…何ともないんだけどね…」

「この薬は何?」リボーンが持っている薬を指差しながら聞くツナ

「痛み止めの、薬だよ。少しすれば効いてくるから…」

「それ、スカルの試練の後にも飲んでただろ?」

「え!?そうなの!?」
リボーンの言葉を聞いて驚きの声を上げるツナ

「うん。いつもは、1回飲めば平気なんだけど……今回は、なんか薬が上手く効いてないみたいで……これでも傷が痛む回数は、減った方なんだよ?
傷を負ったばかりの時は、それはもうしょっちゅう痛めてたから…(夜もぐっすり眠れないくらい…)」
最後の方はツナ達が余計心配すると思い、声には出さなかった。

「ソラちゃん…」

「綱吉さんと寝てても、悪い夢見ちゃったのは…背中の傷の、痛みのせいだよ。…これだけは、どうやってもっ…痛みが治まらない限り、
悪い夢を見ちゃうんだよね……そのせいで、何度もっ…(何度もパパやママを心配させた……私のせいでよく睡眠不足なっちゃってたのに、
それでもずっと傍に居てくれた……痛みが和らいで、安心して眠れるまで、ずっと起きててくれた…)」
背中の痛みが治まってないせいで、まだ苦しそうな表情を浮かべていたソラ


「少しは効いてきたか?」
少し時間が経った後、リボーンが聞く。

「少しだけね。しばらくすれば…完全に効いてくるよ。たぶんもうしばらくは痛まないはず……
さすがに…2回も飲めば、かなり効いてきてるはずだからね。」

「そっか。じゃあそれまで俺も一緒に起きてるよ。」
そう言いながら、ツナもまたベッドに入って横になった。

「え…別に寝ててもいいよ?今日…ううん、昨日2つの試練して疲れてるでしょ?それに今日も、1つはきっと試練がある……
これはいつもの事だから、痛みが治まればすぐに寝れるよ。だから先に寝てて?」
ツナを説得して先に寝て貰おうとするソラ

「確かに疲れてるし、試練もあるだろうけど…ソラちゃんをこのままにして俺だけ先に寝るなんて出来ないよ。たとえいつもの事でもね…
ソラちゃんが何と言おうと、俺…眠るまで起きてるから。」

「でも……」渋るソラ

「ソラ、ここは素直に好意を受け取って置け。」

「リボ兄…」

「俺は起きてられねぇから、ツナに任せるぞ?」

「あ、うん。」頷くツナ

「んじゃ、俺は寝るぞ。薬は…もう必要ねぇか?」

「うん、必要ないよ。」

「わかった。戻しておくぞ。」
そう言って、ウェストポーチに薬を仕舞ったリボーン

「ありがとう…リボ兄」

「気にするな。さてと、後は任せるぞ。ツナ」

「うん。」

ツナの返事を聞いた後、ハンモックへ飛び乗り、再び眠り始めたリボーン

「ソラちゃん、背中はまだ痛む?」

「……少しだけ。」少し間を置いて答えたソラ

「ホントに?」ソラの顔を覗きこむツナ

「う゛……ごめんなさい、ホントはまだかなり痛いです。さっきよりは良くなってるけど…」
覗き込んでくるツナの視線に耐えられず、正直に答えたソラ

「やっぱり。……ねぇ、ソラちゃん」

「な…何?」

「なんでそんなに人を頼ろうとしないの?」

「そ…それはっ…」
ツナから思わず視線を逸らしてしまったソラ

しばらくの間、ツナとソラの間に沈黙が流れていたが……

ソラの様子を黙って見ていたツナがソラの頭を優しく撫で始めた。

「つな…よし…さん?」

「俺は……俺はもっとソラちゃんに頼られたい、頼られるようになりたい。だから、もっと甘えて欲しい。
今みたいに辛い時も、どうして欲しいか言ってくれれば、俺はそれに応えるし、迷惑だなんて全然思わない。だから……ね?」
そう言いながら、ソラの頭を撫で続けるツナ

(パパ……どうしてパパはこんなに私に優しくしてくれるんだろう…?今のパパは私が自分の娘だって事を知らないのに……
私の事、ほとんど話してないから、謎だらけの子供だって思ってるはず。なのに、どうして……?パパも、ママもどうしてこんな私に
ずっと優しく接してくれるんだろう……?)
ツナに頭を撫でられながら、心の中で思っていたソラ

「ソラちゃん、して欲しい事…言ってみて?」

優しい声でソラに語りかけるツナ

そんなツナの優しい声につい、無意識に声を発していた。

「今のままで良い……」小さく呟いたソラ

「え?」

「あっ……今の……聞こえちゃった……?」
無意識に声を発していた事に気付き、恐る恐るツナに聞いたソラ

「う…うん。聞こえた。今のままで良いって……」

「う゛っ…わ、忘れて!?今すぐに!!聞かなかった事にして!?」
顔を少し赤らめ、今の言葉を忘れて欲しいと必死に言うソラ

「やだ。」満面の笑顔で即答するツナ

「なっ…」即答したツナを見て呆気に取られたソラ

「だって今のソラちゃん、可愛いんだもん。今のままで良いって事は、こうやって頭を撫でて、傍に居て欲しいって事でしょ?」

「………」図星なのか、言い返す言葉がなく、顔を真っ赤にしたソラ

「ありゃっ…顔真っ赤だ。ソラちゃん、そんなお願いならいくらでも聞くよ?」

「うぅ〜…お願いだから今すぐ忘れてっ!!」

「絶対やだ。」そう言いながら、ソラを強く抱きしめたツナ

もちろん、ソラが苦しくないように、優しく。

より近くにツナを感じたソラは、もう抵抗する気力も失せてしまった。
抵抗するのをやめ、静かになったからか、ツナの心音が聞こえてきた。

ドックン、ドックン、ドックン…

ゆっくりとリズム良く、ツナの心臓の音が響く。
その音を聞いていると、まだ痛いはずの背中の痛みが不思議と和らぐ。
眠れこそはしないものの、それでも痛みが和らいでいくのを感じ、とても安心するソラ

少しずつ、本当に薬が効き始めたのか、うとうとし始め、無意識にツナの服を掴んだソラ

(あ…薬、効いてきたのかな…?)
ソラの頭を撫で続けたまま、心の中で呟いたツナ

背中の痛みが完全に治まったのか、起きる様子も、苦しんでる様子もなく、規則正しい寝息が聞こえてきた。

「寝たか?」

「リボーン、起きてたの!?」
ソラが起きてしまうといけないので小声だったが、リボーンが起きていた事に驚くツナ

「まぁな。…フっ…ソラの奴、ホントお前に懐いてんな。」

「うん…そうだね。」

「しかし…惜しかったぞ。」

「何が?」

「ソラが顔を真っ赤にしてる所を写真に収めたかった、ありゃ絶対激レアだぞ。」

「……リボーン」

「何だ?」

「たぶんソラちゃん…怒ると思うよ?」

「かもな。…んじゃ、今度こそホントに寝るぞ。ツナ、おめぇも早く寝ろよ?明日も試練が待ってんだからな。」
今度こそ本当に寝たリボーン

リボーンにそう言われ、ツナもそのままソラを抱きしめたまま再び眠りについた。


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今回は完全オリジナルです!!
ソラの過去に少し触れてみました!
ソラの消えない傷の元になった出来事を少しだけですが。
久しぶりに短い方の文章になりましたが、この辺で。
それでは標的57へお進み下さい。

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