10年前の恭兄

ツナ達がアジトに帰り、残っているのは、ソラ、正一、スパナ、ミニモスカだけだった。

「それで?僕に用って何?ソラちゃん」

「正兄、パパから何か預かってない?」

「えっ…」

「だぶんパパの事だから、正兄がボンゴレにすぐに入れるように何か渡してると思うんだけど。」

「………あっ!」
ソラにそう言われて少し考え込んだ後、何かを思い出し、右ポケットから封筒を取り出した正一

「それは?」

「なんで忘れてたんだ!…コレ、この計画の事で綱吉君と最後の打ち合わせをしてた時に渡された手紙だよ。君に託すように言われてたんだ。」
そう言いながら、ソラに封筒を差し出した正一

黙って受け取ったソラは、封筒から手紙を取り出して読み始めた。

「正一、パパって?」

「あっ…スパナなら大丈夫か。ソラちゃんのお父さんは、この時代の綱吉君なんだよ。」

「えっ…」驚いて、口に銜えていた棒キャンディーを床に落としてしまったスパナ

「ス…スパナ、大丈夫かい?」

「あ…うん。けど、驚いた…姫、ボンゴレの娘だったのか。」
そう言いながら、手紙を読んでるソラに視線を向けたスパナ


少しして読み終わったソラは、手紙を封筒に仕舞った。

「何が書かれていたんだい?」ソラに聞く正一

「正兄がボンゴレにすぐ入れるように、ある書類を用意してあるから、ボンゴレ地下アジトにあるパパの部屋に取りに行けだって。」

「ホントにあったんだ…綱吉君、準備良いな…」

「正兄はこれで解決だけど……」
スパナに視線を向けたソラ

「ん?」

「問題はスパナさんだよ。こっちは全然用意されてないから、少し手間が要る。今、ボンゴレが敵対しているミルフィオーレの人だしね。」

「あっ…確かに。スパナが味方になる事は、僕にとっても予想外の出来事だったしね。」

「う〜ん……なんとか穏便に済むようにはするけど……(あの上層部の人達にどう説明しよう…?)」
手を組んで考え込み始めたソラ

「ぼ、僕で手伝える事があったら何でも言ってね?力になるから。」

「たぶんスパナさんの件で、いくつか聞くかもしれないからその時はお願い。」
組んでいた手をほどき、正一を見上げたソラ

「解ったよ。ところで僕からも1つ良いかい?」

「何?」

「ソラちゃん、綱吉君達に…言ってないのかい?君の事。」
ソラの視線に合わせるためにしゃがんでから、問いかけた正一

「言ってない。私がパパの娘だって事や、大空属性の炎も使える事とか、全部…」
正一の問いに答えるソラ

「言うつもりは……ないのかい?」

「ない。」即答するソラ

「どうしても?」

「必要ない。ただでさえ、これからの戦いの事とかで頭がいっぱいなのに、そこに私の正体まで言ったら、余計に混乱するよ。
だから正兄も言っちゃダメだよ?」

「で、でもっ…」ソラの身を案ずる正一

「スパナさんもすみませんが、黙ってて貰えますか?」
正一の横に立ったまま居るスパナにそう言う。

「………解った。そのかわり、敬語を外してくれ。」
少し間を置いてから答えたスパナ

「敬語をですか?でも、私年下ですよ?」

「別に気にしない。ウチが良いって言ってるんだから外してくれ。」

「………解った。これで良い?」

「うん。」満足そうな表情のスパナ

「スパナ!!なんで了承するんだ!?ソラちゃんも、本当にこれで良いのかい!?綱吉君達に何も言わなくてっ…」

「うん…言わない。正兄、お願いっ…黙ってて?」

ソラに強く言われ、口を噤んでしまった正一

「ハァ〜…解った。」
ソラの頑な姿勢に何も言えなくなり、諦めた正一

「ありがとう、2人とも。あともう1つ聞いて良い?」

「何だい?」ソラの問いに応じる正一

「パパ達が10年前に帰ってる間、この装置の中に居るみんなは出て来れるの?」

「!!…ごめんっ…それは出来ないんだ…」

「そっか…」それを聞いて少し落ち込んだソラ

「ゴ…ゴメン!ホントにゴメン!!せめて君のお母さんだけでも出せれたら良かったんだけどっ…」
ソラが落ち込んでるのを見て、謝っていた正一

「別に謝らなくてもいいよ。なんとなく無理かもしれないとも思ってたし。」
何でもないように平然としながら、丸い装置の方へ視線を向けたソラ

何でもないように言ったソラだが、そんな訳ないのだ。
いくらしっかりしていても、ソラはまだ6歳……まだまだ親に甘えたい盛りの子だ。
ソラの事だから、10年前の京子の事を母親と思っていない訳ではないだろうが、
それでも、自分の事を知っているこの時代の京子に会いたがっているはずだ。
それが解っているからこそ、正一はソラの事を心配していた。

スパナも正一の言葉を聞いて、丸い装置の中にソラの母親も居るのを知り、心配する。

「ホ…ホントに平気だよ?だからそんなに心配しないでよ!」
自分の事を心配そうに見てる2人に気付いてそう言ったソラ

「ソラちゃん…」

「姫…」

「あっ、それなんだけど…『姫』じゃなくて、『ソラ』って呼んでくれていいよ?『姫』は偽名だし。」

「そうか?だが、出来ればこのままが良い。あんた、実際姫だし。『ボンゴレの姫君』だろ?」

「そうだけど…」

「ダメか?」

「いや、別にダメじゃないけど…」

「じゃあこのままが良い。」

スパナはどうやっても「姫」のままが良いようだった。

「う〜ん…そこまで言うなら……その名で呼ばれるのが嫌な訳じゃないし。」

「良いのかい?」

「敵にバレなきゃ大丈夫でしょ。」

「君がそう言うなら、僕は何も言わないけど…」

「さて、私もそろそろアジトに戻るよ。やらなくちゃいけない事があるし。」

「あっ!待って!!」

「?」

正一はソラの両肩に手を置いた。

「どうしたの?正兄」

「ソラちゃん、明日……明日綱吉君達が10年前の世界に1度戻る時、君も一緒に行って欲しいんだ!」

「え!?」驚くソラ

「驚かせてゴメン。でも、これは君のためにも必要な事なんだ。」

「で…でもっ…10年前は私…」

「解ってる。君は10年前はまだ生まれていない…だから入れ替わりが起きない。でも、決して不可能じゃないんだ。
僕は綱吉君に頼まれていろいろ調べたんだ。どうやったらソラちゃんも10年前に行く事が出来るかをね…」

「えっ…パパに頼まれたの?」

「うん。綱吉君がね、もしこの作戦に成功した時、アルコバレーノの7つの印を貰いに1度過去へ戻る時に、
ソラちゃんも一緒に行かせられないか?って、僕に聞いてきたんだ。」

正一は思い出していた。
この時代のツナがソラを過去に行かせたいと言った時の事を……


ーー回想ーー

『ソラちゃんを過去に?』

『ああ。なんとかソラを10年前に行かせる方法はないかな…?』

『で…でも綱吉君、ソラちゃんは…』

『解ってる!…10年前はソラはまだ生まれていない…だから入れ替わりも起きない事も解ってる。』

『なら、どうしてっ…』そこまで解っていて、なぜソラを過去に行かせるのか解らない正一

『………正一君、ソラが俺の娘だって事は知ってるよね?』

『う…うん。』

『俺の中にはボンゴレの血が流れてる。それはもちろん、娘であるソラにも受け継がれてる。…俺の娘だから……ボンゴレの血を引く、
俺の娘だからっ……ソラはいろんなファミリーから狙われてる。』
悲しそうな表情で言うツナ

黙って聞く正一

『あの子は…なぜかは解らないが、誰からも教わる事なく、人の気配を感じ取る事が出来る。そのせいで、夜中に襲撃を仕掛けてきた
敵にも気付く事が出来る。ここ最近の夜襲は俺よりソラを狙う奴の方が多い。だからその時は、ソラは眠れない夜を過ごしてる。
どんなに傍に誰かが守っていようが…俺の時でさえ、すぐには眠りに落ちない。いつ敵が自分を狙うか解らないから、その時は
常に神経を張り詰めてるんだ。いつ襲撃されても大丈夫なように…』

『そんなっ…』

『だからっ…だからせめて少しの間だけも、誰も狙って来ない、安全な場所で休ませてあげたいんだ!!なんとか…なんとかならないかな!?正一君!』
ボスとしての顔ではなく、父親の顔で正一に向かって声を張り上げていたツナ

ーー回想終了ーー


「あの時の綱吉君、とても悔しそうにしてた。今の現況じゃ、君が安らぎを得られる所がないってね。」

「そうだったんだ……パパがそんな事を…」

「それにね、君はミルフィオーレとの戦いが始まってからこの戦いまで、戦い続けていたし、この基地での戦いでも死ぬ気の炎を
いっぱい使っていたはずだ。だからその分の疲れも癒してくるんだ。」

「で…でもっ…あっちにはっ…」

「酷な事を言ってるのは解ってるつもりだよ。でも、ソラちゃんの体は心身ともにボロボロになりかけてるはずだ。
君はまだ小さいし、ずっと戦いの日々だったんだから、疲れていてもおかしくないんだ。それに……白蘭さんとの
戦いに備えて、君もしっかり休息を取って、万全な状態で居て欲しいんだ。」

「え…?」

「綱吉君は関係のない仲間を巻き込む事だけでなく、君を戦わせる事にも、最後まで躊躇していたよ。でも、もしも10年前から来た
綱吉君達だけでは白蘭さんに対抗出来なくなった時は、君の力が必要になるって言ってた…」

「それって…」

「僕は君の実力がどこまであるのかは知らない。だけど、綱吉君が言ってた…君が大空の炎を使った時は、自分よりもずっと強いって……
君が自分の力を怖がっている事は、綱吉君から聞いて知ってるよ。出来れば、その力を使わせる事なく、白蘭さんとの戦いに勝利出来る事を祈ってたし、
何度もソラちゃんに対して謝っていた。その力をあまり使いたがらない事を自分が一番良く知っていたのに、それに頼る事になるかもしれない事に……」

それを聞いて顔を俯かせ、両手を強く握り締めたソラ

(姫って…ボンゴレより強いのか…)
2人の会話を黙って聞いていたスパナが心の中で呟いていた。

「ソラちゃん、僕も出来る限り、君がその力を使わなくて済むよう、全力を尽くす!だからっ…」

「………わかった。」強く握っていた両手を緩めたソラ

「ありがとう。それと…ゴメン。」

「どうして謝るの?」俯かせていた顔を上げて、正一を見るソラ

「大人の僕らがまだ子供の君を頼ってしまっているからだよ。」

「………別にいいよ。だってこの力は、みんなを守るために使ってるんだもん。だから謝らなくて良いよ、正兄」

「でもっ…」

「確かに怖いよ、この力は。下手をすれば、壊しちゃダメなものまで壊してしまうからね。…でも、今はリボ兄との修行のおかげで
上手く制御出来てる…だから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、正兄」
正一の言いたい事が解り、言葉を遮ってそう言いながら、満面の笑顔を見せたソラ

「ソラちゃん…」

「…正兄、私はどうやったらみんなと一緒に過去に行けるの?」

「ああ、うん…こっちからも装置を介してしなくちゃいけない事があるけど、そんな難しい事じゃない。過去に行く時、
君は10年前の両親のどちらかと手を繋げば良いんだ。」

「…………それだけで良いの?」

「うん。君と繋がりの強い両親のどちらかと手を繋ぐだけで過去に行けるんだ。まぁ、一番安全なのは、母親の方だけど。」

「どうして?」

「人間誰だって、初めは母親のお腹の中で育つんだよ?」

「あ…」

「解ったみたいだね?そう、お腹の中に居る時から繋がってるのが母親だけだからだ。お腹の中で育ってる時は
母親と一心同体だと言っても良い。だから、1番自分と繋がりの強い母親と手を繋いだ方がより確実なんだ。」

「ママと一心同体…」呟くソラ

「明日、僕が理由を誤魔化してさりげなく言うから、ソラちゃんはそれに従ってくれれば良いよ。」

「ありがとう。正兄、誰がママなのか知ってるんだね?」

「うん、綱吉君が教えてくれたからね。」

「白蘭はその事は?」

「言ってないから知らないと思う。たぶんだけど…」

「そっか。………ねぇ、正兄」

「ん?」

「白蘭は……私の何を欲してるの?」

「!…それが…解らないんだ。」

「解らない?」

「うん。ボンゴレの血を狙うなら、綱吉君だって持ってるから、それ以外の何かだとは思うんだけど……」

「私の情報はあまり知られてないはずだけど……もしかしたら白蘭は何かを掴んでるのかもしれないね…」

「その可能性は十分にある。出来れば、何も掴んでいない事を祈りたいが……あの白蘭さんの事だ。
絶対に何かを掴んでる気がしてならない。」

「そっか。」

「ゴメン……僕なりに調べてはいたんだけど…」

「気にしないで。あっ、そうだ。向こうに行ってる間、こっちはどのくらいの時間が経つ?」

「ああ、それは心配しなくて良いよ。その辺はちゃんとこっちで調整するから、そんなに時間は経たないよ。」

「ホント?」

「うん。」

「そっか。それじゃ、また明日ね?」

「うん。ミルフィオーレの残党はなんとかしておいたけど、一応気をつけて帰ってね?」

「姫、こっちは任せて、しっかり休め。」

ミニモスカも頭を頷かせて、「しっかり休め」と言っているようだった。

「うん。それじゃあね。正兄、スパナさん、ミニモスカ」

ソラはフードを被ってからこの場を去った。


ーーボンゴレアジトーー地下5階ーー作戦室ーー

アジトに戻ったソラは作戦室に居るジャンニーニの所へ向かった。
作戦室には、ジャンニーニだけでなく、フゥ太も居た。

「ただいま、ジャンニーニさん、フゥ太兄」

「ソラさん!!」
「ソラ!!」
ジャンニーニとフゥ太はすぐにソラに駆け寄った。

「おかえりなさいませ!!ご無事で何よりですよ〜!!」

「おかえり!!」

「外の状況はどこも変わりない?」

「はい!大丈夫でございます!!」

「リボ兄は?」フゥ太に聞くソラ

「ツナ兄達と一緒に了平兄にこの時代の事を説明してるよ。」

「そっか。説明、大変そう……了兄、二転三転する話は二転までが限界だって前に言ってたし。」

「確かに……」

「まぁ、時間かけて話せば理解出来るから大丈夫だと思うけどね。」

「そうだね。」フゥ太もそう思うのか、同意していた。

「私、これから恭兄のアジトの方に行ってくるね?哲兄に聞きたい事があるし。」

「えっ…京子姉達の所には行かないの?」

「あ…あとで良いよ。今は他にやらなくちゃいけない事があるし。それじゃ、行ってくるね。」

ジャンニーニとフゥ太にそう言うと、すぐに作戦室を出て行き、そのまま雲雀のアジトへ向かったソラだった。

「………ジャンニーニ、ソラ…何か様子が変じゃなかった?」

「はい、私もそう思います。ソラさん…京子さんの所へ行くのを避けている感じでしたね。」

「うん……僕達で力になれたら良いけど……きっと僕らじゃ無理だね。たぶん、この時代の京子姉じゃないと無理なのかもしれない…」

「えっ…」

「そろそろ限界だと思うんだ。いくら10年前のツナ兄や京子姉が傍に居ても、ソラの事を知らない2人だ。だからソラはそんな2人に遠慮してしまってる。
それに…甘えるのが下手なソラを上手く甘えさせる事が出来るのは……この時代の京子姉だけだから…」

ソラが出て行った入口の方に視線を向けたまま、2人の間でこのような会話が繰り広げられていた。

ーー雲雀のアジトーー

(哲兄、どこに居るのかな…?)

ソラは草壁を探しながら、歩いていた。

「ん?この気配は…」

ソラは気配を感じた和室へ移動し、障子を開けた。

そこには、学ランではなく、和服姿の雲雀が座布団の上で胡坐を組んで座っており、向かい側に正座している草壁の姿があった。

「あっ、ソラさん」ソラに気付いた草壁

「………出直す。」取り込み中だろうと思い、そのまま2人に背を向けて去ろうとしたソラ

「ま、待って下さい!ソラさん!!」慌てて呼び止める草壁

「待ちなよ。」静かな声でソラを呼び止めた雲雀

雲雀に呼び止められるとは思ってなかったソラが驚きながらも、立ち止まって振り返った。

「ちょうど良かった。副委員長に今から君を呼びに行かせようと思っていた所だったんだ。」

「私をですか?」

「うん。」

「ソラさん、こちらへ…」

草壁の隣に移動し、用意してくれた座布団の上で正座したソラ

草壁は湯呑に緑茶を注ぎ、ソラの前に差し出した。

「ありがとう、哲兄」

「副委員長から聞いたよ。君、沢田綱吉の1人娘なんだってね?」

「!?…哲兄…」ジト目で草壁を見るソラ

「す、すみませんっ!!」
ソラに向かって土下座した草壁

「ハァ………哲兄、どこまで話したの?」

「沢田さんの1人娘だという事と、恭さんがあなたを大事にしているという事だけです。」

「そう………確かに私は沢田綱吉の1人娘、沢田ソラです。」

「僕の事は知ってるみたいだけど…一応言っておくよ。並盛中風紀委員長、雲雀恭弥」

「それで……何ですか?もし戦えというお話であれば、お断りさせて頂きます。」

「ワォ…確かに君と戦ってみたい気持ちはあるね。でも違う。」

「じゃあ何ですか?」

「この時代の僕は、いったい君のどこが気にいったのかな?…っと思ってね。」

「へ?」予想とは違う言葉を聞き、呆然としたソラ

「ん?なんだい?僕がこんな事言うのが、そんなに驚く事かい?」

「そりゃまぁ……昔の雲雀さんの事はみんなから聞いてましたから……今もだけど、昔はもっと群れを嫌っていたみたいですし、
他人に興味を持つ事は滅多になかったと聞いてます。」

「その呼び方、気に入らないね…」不満を言う雲雀

「え?」きょとんとするソラ

「この時代の僕と同じ呼び方で良いよ。」

「え!?でもっ…」

「僕は全然気にしない。君にそう呼ばれるの、嫌じゃないし。」

「………まだ会ったばかりなのに?急に自分の知らない人が親しそうな呼び方をされたら嫌じゃありません?」
雲雀が今言った言葉が信じられないとでもういうような表情をしていたソラ

「うん、確かに普通は嫌だね。でも君は特別だよ。君の事は、今副委員長から聞いた話と、
あとは…この時代の僕からの手紙でだいたい把握してるしね。」
そう言いながら、手紙が入っていると思われる封筒をソラに見せた雲雀

「えっ!?手紙なんか残してたんですか!?」
驚きを隠せず、思わず叫んでしまったソラ

「うん。副委員長から渡されて読んでみたけど…確かにこの手紙の筆跡は僕のだったよ。」

「何が書いてあったか聞いても?」

「そうだね……例えば、君が物凄く強い事。」

「!?」

「でも、戦いを挑むなとも書かれてたよ、残念な事に。その理由は一切書かれていないから、納得いかないんだけどね。」

それを聞いて、顔を俯かせてしまったソラ

「君の過去に何があったのか、僕は知らないけれど……これだけははっきり言わせてもらうよ。」

「?」俯かせていた顔を上げたソラ

「君を守る。」

「!?」目を見開くソラ

「もし、この時代の僕からの手紙の通り、君が本気を出せば、この時代の僕より強いとしても、僕は君を守る。」
決意の籠った瞳には、ソラの姿が映し出されていた雲雀

「どうして…?この時代の恭兄に…言われたから?」

「違うよ。確かに手紙には君を守れって書いてあったけど関係ない。僕は、僕の意志で君を守りたいと思ったんだ。
なぜ、まだ会ったばかりの君を守りたいと思ってしまったのかは解らないけどね。」
ソラを優しい瞳で見つめる雲雀

雲雀はそう言うが、その言葉が信じられないソラ

その様子を見て何を思ったのか、雲雀はソラを手招きした。

雲雀の意図が読めなかったが、素直に雲雀の傍まで来たソラ

自分の目の前まで来たソラの両脇の下に手を入れて持ち上げ、自分の足の上に座らせた雲雀

10年前から来た雲雀がそんな行動を取るとはまったく思っていなかったので、驚いて固まってしまったソラ

「もう1度言うよ?僕は君を守る。今決めたばかりだけど、必ず君を守る。…約束するよ。」
そう言いながら、ソラの頭を撫でる雲雀

雲雀が自分に触れてきた事で、やっと雲雀の言葉が信じられたソラ

「私が、本当に恭兄よりずっと強くても?」

「うん。」

「守る必要がないくらい、強くても?」

「うん、守ってあげる。少なくとも、あの草食動物達には、まだ言ってないんだろ?自分が沢田綱吉の娘だって…」

黙ったまま頷くソラ

「なら、僕がその分守ってあげる。君がそれを望むなら…」
優しい笑みをソラに向けながら、そう言った雲雀

「!!………その言葉…信じても良いの…?」雲雀を見上げるソラ

「うん、良いよ。どんなに強くても、君が望む限り、君を守ってあげる。……副委員長…君、証人ね。」

「へい!!恭さん!!」

『ソラ、僕は君を守る。君が僕より強くても、僕は君が望む限り守り続けるよ。だから、いつでも僕を頼りなよ。
どんなに強くなったって、君は君だから。それに…君はまだまだ子供なんだから、僕に守らせてよ?
僕だけじゃない…綱吉や他の守護者もきっとそう言うよ?だから…今は大人しく守られてなよ、ソラ』
ずっと前にこの時代の雲雀に言われた言葉が頭の中でフラッシュバックしたソラ

「恭兄…」

「その呼び方、良いね…気に入った。あと、敬語なしね。」

「………うん。」そのまま雲雀に寄り掛かったソラ

そんなソラを邪険に扱う事なく、むしろソラを優しく包み込んでいた雲雀だった。

「それにしても、本当に驚かされたよ。あの草食動物に子供が出来てるなんて……それに似てないから余計にね。」
ソラの頭を撫でていた手を離しながら、ソラをマジマジと見つめていた雲雀

「確かに私はパパには似てないけど…パパの子供なのは本当だよ?」

「そうかい。そういえば…君、こっちに何か用があって来たんだよね?」

「あっ…忘れる所だった。哲兄に用事があって来たんだよ。」

「私にですか?」

「うん。哲兄、どうやってアジトに潜入したの?あと、その間に起きた事教えて?哲兄があのアジトに居る間に見た事全部だよ?」

「解りました。」

草壁はソラに話した。
クロームの幻覚を使って、ミルフィオーレ隊員に成り済まして潜入した事。
雲雀は単独で行動し、草壁、クローム、ランボ、イーピンの4人で行動を共にし、
獄寺、了平を救出した後、雲雀と合流したが、その時には既に入れ替わっており、
そのまま幻騎士との戦いに突入した事。
その後、雲雀が匣を使って、雲ハリネズミを出したが、雲雀を自分の針で刺してしまった事で
暴走を起こしてしまい、やむを得ず、避難していた事。
その後、壁に追い詰められ、身動きが取れなくなり、眠らされた事。
そして、次に目覚めた時には、カプセルの中に居た事。

「あとはソラさんも知ってる通りです。」

「なるほどね…幻覚を使って潜入してたのか。」

「あとで報告書にまとめてそちらに持っていきましょうか?」

「ううん、いいよ。報告書は私がまとめるから。」

「そうですか?私で手伝える事があれば、いつでも呼んで下さい。力になります。」

「ありがとう。」

「ねぇ、君の父親は解ったけど…母親って誰?」

「恭兄は誰だと思うの?」

「質問を質問で返さないでよ。そうだね……君、笹川了平の妹に似てないかい?」
文句を言いながらも、しっかり応える雲雀

「いきなり当たりを引いちゃった…」

「ワォ…当たりなのかい?」

「うん。そんなに似てる?」

「うん、とっても。あの草食動物の娘っていうより、よっぼど納得出来るよ。」

「えぇ〜…」どこか不満そうなソラ

「……君も今似てないって言ったじゃないか。」

「確かにそうだけど……」

「どこが似てるの?僕には解らないよ。」

「みんなそう言うんだよね……事実だけど。」

「仕方ありませんよ。普段の沢田さんとソラさんでは、誰もどこが似てるのかなんて解りませんし。」

「哲兄…」

「あなた方親子は超モードになった時、初めて2人が似てるって解るんですから。」

「へぇ……それは見てみたいね。」

「無理。」

「なんで?」

「あまり死ぬ気化しないようにしてるから。」

「ふぅ〜ん……」
ソラがそれを聞いて欲しくなさそうにしてたので、それ以上は聞かなかった雲雀

雲雀の足の上に座っていたソラは立ち上がった。

「もう行くのかい?」

「うん。これから報告書書かないといけないから。」

「そう。」

「それじゃ、またね。」
雲雀と草壁にそう言って、和室を出ていったソラ

「…ねぇ、副委員長」

「何でしょう?」

「手紙に書いてあったんだけど……あの子の力、半分は望んで得たものじゃないってホントなのかい?」

「!…そのような事まで書かれていたんですか…ええ、そうです。ソラさんが強いのは何も、力が強いからだけではありませんが、
半分は努力によって得た力…もう半分は望んでなかった力です。その望んでなかった力は、守る力にも、破壊の力にもなりえるんです。
ソラさんはもちろん、大切な人達を守るためにその力を使います。ですが、自分が使い方を間違えれば、いつでも破壊の力に変わるそれを、
ソラさんはずっと怖がっているんです。」

「その事、今居る草食動物達は知ってるの?」

「おそらく知らないでしょう。自分の事をまったく話してませんし…」

「そう…」

ソラが出て行った後、雲雀と草壁の間でこのような会話が繰り広げられていた。


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今回は完全オリジナルです!
正一とスパナとの会話……っと言っても、ほとんど正一との会話でしたが。
そして、10年前の雲雀との会話も入れました!!
10年後の雲雀がソラに優しかったように、10年前の雲雀もソラには優しい事にしました。
ツナ達より打ち解けるの早っと思ってる方もいらっしゃるかもしれませんね。
でもそこはツッコまないで下さい。
それでは標的51へお進み下さい。

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