陽色の姫君VS魔導師の人形

「な…何が起こった!?」ラルの身を心配しながらそう言う了平

(!…ラル姉の左腕にクモが張りついてる!?)
ラルの様子を見て、左上腕部に張り付いている物に気付いたソラ

「ざっとこんなもんかな。楽しいのはこっからだけど。」
そう言いながら、雲蜈蚣のが巻きついた手足が地面に落ちて来た。

「偽物の手足!!」地面に落ちた物を見てそう言った獄寺

(そっか…『魔導師の人形(マジシャンズドール)』…その名の通り、人形を使ってる。今まで見せていた手足は人形の一部…
だからリングが見当たらなかったんだ。)
地面に落ちている、偽物の手足を見ながら納得していたソラ

「フフフっ…甘い甘いバァ〜」
楽しそうな顔で言うジンジャー

「ラルっ…」心配そうにラルを見るツナ

(あれ?……あのクモ、微かに晴の炎が………!…そうか!きっとあの時にっ…)
ラルの左上腕に張り付いているクモを見ながら何かに気付いたソラ

ラルの方は、自分に張り付いているクモが晴の炎を帯びている事には気付いたが、いつ張りついたのかが解らない様子。

「ラル姉!左腕に張り付いているそのクモはたぶん、この部屋に入ってすぐに被弾されたんだと思う!!」

「入ってすぐに?……!…そうか!あの時にっ…」
ラルは入ってすぐの時の攻撃で左上腕部が少しだけ掠ったのを思い出していた。

「おそらく、その時に被弾されたのは、活性化する前の晴のアニマル匣!!」

「ご名答!ホントに君…子供?賢過ぎるよ。フフっ…これに関して言えば、ソーサリーっていうのは嘘。」

「あなたがラル姉に被弾したのは、“晴クモ(ラーノ・チエル・セノーニョ)”の卵ですね?」
ジンジャーに向かって確信を持ってはっきりそう言ったソラ

「へぇ、良く知ってるね…その通りだよ。僕の合図で活性化して成虫となり、襲いかかってくるのさ。」
賢いソラに感心しながらも、しっかり応えるジンジャー

「何だって!?」それを聞いて驚くツナ

「くっ…」悔しそうな声を出す獄寺

「最初のクモも仕組みは同じ。そしてまだ君の体には、いくつもの“晴クモ(ラーノ・チエル・セノーニョ)”の卵が張りついているよ。」
ラルに向かってそう言ったジンジャー

「そ…そんな事が!?」信じられない表情で呟く獄寺

「ほ〜らっ」

パチンっ…

「ぐはっ…」

ジンジャーの合図でラルに張りついている卵がまた活性化して成虫になり、襲いかかった。
ラルはその攻撃で倒れた。

「ああっ…」
「ラル!」
「おのれっ…」
「くっ…」
山本、ツナ、了平、獄寺が、倒れたラルを見てそれぞれ助けに行けないのを悔しそうにしていた。
獄寺なんかは、再び右手に嵌めてるリングに炎を灯していた。

「おっと下手に動いてみなよ。次は心臓にかみつくかもよ?」

「くっそう!!」リングに灯してた炎を消して、悔しそうにしていた獄寺

(ラル姉、晴クモの攻撃を受けて弱ってるっ………もう見てられないっ!!)
左太股のガンホルダーに手を触れていたソラ

「フフフっ…楽しませてくれたお礼に教えとこうか?ラル・ミルチ」

ジンジャーの言葉を聞いて、銃に手を触れたまま、耳を傾けたソラ

「コロネロは最後に、一緒に戦っていたアルコバレーノ…バイパーを庇って死んでいったよ。」

それを聞いて、フード越しに目を見開いていたソラ

「彼は人の身代りになるのが趣味みたいだね。聞いた話じゃ、アルコバレーノが生まれたあの日もそうだったんだろ?」

「アルコバレーノが……生まれた日…」呟くツナ

「コロネロ…」
濁ったおしゃぶりを手に取って見つめながら、昔の事を思い出していたラル

「傑作だったのは、助かったバイパーも勝ち目がないと見ると、自ら命を絶って死んでいった事さ。」

「!?(パイパー…あの、ヴァリアーのマーモンが…)」
ツナはヴァリアー戦の霧の守護者戦の時の事を思い出していた。

「笑っちゃうだろ?バイパーもアホだが、コロネロという男の性分をよく現している。おせっかいの役立たずさ。」

「!!(バイパーはアホなんかじゃない!コロ兄だってっ…役立たずなんかじゃ…ない!!)」
冷静さを保ちながらも、ジンジャーの言葉に怒りを覚えたソラ

「君がその濁ったおしゃぶりを手放せないのも、奴が助け損ねたからだろ?裏目裏目のコロネロ」

(それは…違うっ…)
また昔の事を思い出していたラル

「しかし、悲惨な人生だったね。哀れなラル・ミルチ……それもこれも、アルコバレーノ一のお節介馬鹿のせいってわけだ。…裏目のコロネロのね。」

「ジンジャー・ブレッド、先程の言葉…撤回して下さい!」

ジンジャーやツナ達がその声が聞こえた方に視線を向けると……

いつの間にか、晴クモが張った晴の炎の壁を通り抜けていたソラが居た。

「なっ…!?いったい、どうやって!?」
ジンジャーはソラがこちら側に来れた事に驚いていた。

「い…いつの間にー!?」
「あいつっ…いつの間に向こうへ行ったんだよ!?」
「気付かなかったのな…」
「…どうやって通り抜けたのだ?」
ツナ、獄寺、山本、了平がそれぞれ呟いていた。

ジンジャーは自分の晴クモが張った、晴の炎の壁の方へ視線を向けながら原因を探っていた。

「!……“晴クモ(ラーノ・チエル・セノーニョ)”の数が…減ってる!?」
クモの数が減っている事に気付いたジンジャー

「正解です。私の銃で、晴の炎の壁の方ではなく、“晴クモ(ラーノ・チエル・セノーニョ)”の方を3匹撃ち落とした事で、その場所だけ穴が空き、
再生力が先程より遅くなったので、その隙に通り抜けて来ました。」
ジンジャーやツナ達にそう説明していたソラ

「なぁっ!?」
「すげっ…」
「なんですぐにそれを使わなかったんだよ!?」
「なるほど。しかし、この短時間で俺達に気付かれず、3匹も撃ち落とせるとはな…」
ツナ、山本、獄寺、了平が説明を聞いて驚いていた。

「君、本当に凄いね…うちのボスが欲しがるのも無理ないかも。……っていうか、君を生かしたまま捕らえるなんて難しそうだよ。」

「それはどうも。…ジンジャー・ブレッド、もう一度言います。先程の言葉を撤回して下さい!」

「ん?」

「パイパーはアホなんかじゃないし、コロ兄だって、役立たずなんかじゃありません!!あと、ラル姉の事を良く知りもしないのに、
悲惨な人生だなんて決めつけないで下さい!!あなたにそれを言う権利はありません!!」
怒りの籠った声でジンジャーにそう言い放ったソラ

「うわぁ…怖い怖いっ…君を怒らせるつもりはなかったんだけどな〜……驚いたよ、アルコバレーノの中で親しい関係なのは、
黄色のおしゃぶりを持つ、リボーンとそこに居る、ラル・ミルチだけだと思ってたから。」

(ソラ……)体をまだ起こせないので、声のみでしかソラの様子が伺えないが、かなり怒っているのが解ったラル

(ソラちゃん、めちゃくちゃ怒ってる…!?)
(フードで顔は隠れてってけど…ありゃぜってー怒ってんな…)
(あいつがあそこまで怒ってる所、始めて見るぜ…)
(ソラは師匠とも仲が良かったからな……)
ツナ、山本、獄寺、了平は、怒ってるであろうソラを見ながら、それぞれ心の中で呟いていた。

「でも、撤回する気はないよ。」はっきりそう言ったジンジャー

「そうですか、解りました。なら、私と戦って貰います。(これ以上、ラル姉を傷つけさせないっ!!)」
そう言って、右手に嵌めてる晴のサブリングに炎を灯し、マントの内側から、1つの匣を取り出して開匣した。

匣から飛び出したのは、晴カメレオンのレオだった。
レオはソラの左肩に着地した。

【姫、怒りを抑えて………そう、落ち着いて。】

レオの言葉を聞きながら、怒りを少しだけ静めたソラ

【姫、怒りに身を任せちゃ駄目だよ。】

「ごめん…」

【気にしないで。…さぁ、僕に指示を出して?君が今したい事、僕も同じ思いだよ!】
普段穏やかなレオも少しだけ怒っていた。

「うん、行くよ?“武器変化!!(カンビオ・アルマ)”」
レオを自分の右手に乗せた後、そう言ったソラ

ソラの掛け声で、レオは銃に姿を変えた。
その後、左太股のガンホルダーから銃を取り出し、両手に銃を持った。

「二丁拳銃か〜……結構本気?」

「どうでしょうね?」

「フフフっ…じゃあ手始めに……これはどうかな?」
そう言いながら、ラルの時と同じように、帚から先の尖ったミサイルを放つ。

ソラはそれを次々と難なく回避していたが、回避している内に、壁まで追い込まれていた。

「フフフっ…もう後ろは壁で逃げ道はないよ?」
楽しそうに言うジンジャー


「姫ちゃん!?」
「危ないのな!?」
「なんであの女と同じ行動取ってんだよ!?」
ソラがピンチだと思い、焦るツナ、山本、獄寺の3人だった。

「落ち着け、お前ら!」
そんな3人に落ち着くよう、声を掛けた了平

「で、でもお兄さん!!姫ちゃんがっ…」

「大丈夫だ。姫には、まだ逃げ道が残されてるからな…」

『えっ…』了平の言葉を聞いて首を傾げたツナ達。

「黙って見てれば解る。」

了平にそう言われ、黙ってソラとジンジャーの戦いを見るツナ達。


「君、もしかして単独での戦闘はあまり強くないの?」

「そんな事ないですよ。それに…逃げ道は、まだありますから。」
余裕そうな声でジンジャーに応えるソラ

「?…逃げ道なんてどこにも…」

「あるじゃないですか、上が。」
そう言いながら、両手に持っている銃の銃口を下に向けて、晴の炎を噴射させた。

「!?…君、飛べるの!?」驚くジンジャー

「誰も飛べないなんて言ってませんよ?」


「そうか!そういえば姫ちゃんは空が飛べるんだった!!」
ソラが空を飛べる事をすっかり忘れていたツナ

「そういえばそうでしたね。」
「ハハっ…俺も忘れてたぜっ」
獄寺や山本も空が飛べたのをすっかり忘れていたようだ。

「そうだ。ソラも沢田と同じように、上に回避する事が出来るのだ。」


「君が飛べるだなんて聞いてないよ!?」

「それはそうですよ。だって私、まだ任務先での実戦では、一度も飛んで戦ってませんから。(修行の時は使ってたけどね。)」

「くっ…」今まで余裕の笑みを浮かべていたジンジャーが焦っていた。

「じゃあ行きますよ?」
そう言って、晴の炎の推進力で一気にジンジャーへ詰め寄ったソラ

「速いっ!?」

ソラはジンジャーの目の前まで来ると、素早く右足で横蹴りを腹に喰らわした。

「がはっ…」

「ついでに帚も。」
そう言って、右手に持った銃を帚に向けて撃った。

「ああっ…僕の帚がっ…」
帚を壊されて焦るジンジャー

(何だろう…?さっきお腹蹴った時、違和感があったんだけど……)
ソラは一旦距離を置くため、前方斜めに銃口を向けて噴射させて離れながら、
蹴った時に感じた違和感について考えていた。

「あなたの事ですから、魔術とやらでまた帚を出すんでしょ?」

「…バレた?その通りだよ。」
今まで焦っていたジンジャーが楽しそうな笑みを浮かべて、どこからともなく、新しい帚を取り出した。

「……スペア、いくつあるんでしょうね?」

「さぁ、いくつかな?今度はこっちから行くよ!」
そう言って、攻撃を仕掛け始めたジンジャー


「……なんなんだ!?あの速さは!?この間見た時より速いじゃねぇか!?」

「ん?獄寺、姫が銃を使って飛んでる所、見た事があるのか?」

「ああ、この間1回だけ見たぜ。」

「俺のお願いを聞いてくれたんスよ。」

アジトに居た時に見せて貰った時の事を話した山本

「…っという訳なんスよ。」

「なるほど、そんな事があったのか。」

「俺達が見た時はもっと見える速度だったんスけど…」

「それはそうだ。山本が見たいと言ったから、見える速度にしたんだからな。」

「えっと…つまり、わざわざ炎の出力を抑えて見せてくれた…って事っスか?」

「そういう事だ。だが、出力のコントロールも楽ではない。良く見せて貰えたな?」

「姫ちゃん…無理して見せてたのかな?」

「それは違うぞ。沢田」

「えっ…」

「山本のお願いを聞いたのは、自分の大切な人の1人だからだぞ。姫は親しい人からのお願いには特に弱くてな……
山本には時々面倒見て貰ってたから、見せてくれたんだと思うぞ?」

「そうなんスか?」

「ああ。山本だけではない。獄寺も面倒を見てたんだぞ?」

「お…俺もか?」自分もそうだと思わず、驚いていた獄寺

「姫の獄寺へ態度は仕方ないだろう…あいつは、獄寺の優しい部分しか知らん!だから今の獄寺には、少し接しにくいのだろう。」

「やっぱり、この時代の獄寺君は姫ちゃんに優しかったんだ……(それに…お兄さんの言った通り、まだソラちゃんは
獄寺君と話す時の接し方がぎごちない気がする。)」

「ああ。姫が獄寺と仲が悪い所など極限に見た事がない!もちろん、俺を含めた他の守護者のみんなともな!!」

(俺があいつとね……)了平の言葉が信じられない獄寺


「帚、これで何本目ですか?スペア、あり過ぎですよ。」

「フフフっ…新しい帚は、いくらでも出せるよ。僕の魔術(ソーサリー)でね…」

【どうする?何度壊してもすぐに新しい帚を出すよ?】

「そうだね。どうしようか?(それにしても、ジンジャー、全然疲れた顔してない…それに、やっぱり違和感がある。
間違いない、目の前に居るジンジャーはっ…)
レオに応えながらも、さっきから感じてる違和感の正体に気付き始めたソラ

攻防を繰り広げながらも、余裕で会話をしていたソラとジンジャー

「ジンジャー・ブレッド!」

その時、ラルの叫び声が聞こえ、戦闘を止めて、視線をラルに向けた2人。
ラルはまだ痛む体を起こしていた。

「………てっ…かい…しろ」
ラルは体を起こして、左手の平に乗せた濁ったおしゃぶりで何かをしようとしていた。

「!!…ラル姉!駄目ーーっ!!」
ラルが何をしようとしているのかすぐに気付いたソラが叫んだ。

(コロネロ、すまない……お前の言いつけ、守れそうにない!!)
顔の痣が広がり、濁ったおしゃぶりが青色に輝き始めた。

「!!」ラルを見つめたまま、フードで隠れているが、苦痛の表情を浮かべていたソラ

「どうなっている!?」
「なんだ!?あの青い光は!!」
「おしゃぶりが…」
了平、山本、ツナが声に出しながらも、驚いた表情を浮かべていた。
もちろん、獄寺も声には出さないが、驚いた表情をしていた。

「コロネロへの侮辱を撤回するか、死を選べ…ジンジャーブレッド」

「大丈夫かよ、あいつ…」柄にもなく、ラルの事を心配していた獄寺

「顔の、痣が…」

ツナが言うように、今のラルの顔の両頬の痣はおしゃぶりが青い光を放ち始めた時、今までよりも広まってしまっていた。

「フフっ…醜いかなぁ〜…それはなりそこないになった時の中途半端な呪いの名残だろ?まぁでも君も、まがりなりにも
アルコバレーノってわけだ。君の濁ったおしゃぶりはもう使い物にならないと思ってたよ。ただ、残念な事に、ラストスパートが
遅過ぎたね。この指を鳴らせば、クモが卵から飛び出し、一斉に君に襲いかかる…それでお終い。」

それを聞いて、ソラ以外、驚いた表情を浮かべたツナ達。

「いかん!!」
「ま…待って!!」
了平とツナが悲痛の声を出した。

「いいね……悲痛の叫びを聞くと、余計に鳴らすのが楽しくなるよ。」
そう言いながら、指を鳴らそうしていたジンジャー

「や…やめろー!?」叫ぶツナ

パチンッ…

ジンジャーが指を鳴らしたのに、何も起こらず、ラルの持っていたおしゃぶりの光が消えた。

「確かになりそこないだ。」何ともないラル

何も起きずに無事なラルを見て驚くジンジャー

「ラル!」無事なラルを見てほっとするツナ

「クモは…!?」張りついていたはずのクモはどうなっているのか気になる獄寺

「あれ……どうしてだ!?」指を鳴らしながら、焦った声を出すジンジャー

(ラル姉、自分に張り付いていた晴クモを全部、雨の鎮静で相殺したんだね。)
焦るジンジャーとは反対に冷静に今の状況を把握したソラ

【姫、ラルはもしかしてっ…】

「…レオが考えている通りで合ってるよ。使って欲しくなかったんだけどね……」

「不完全な呪いに蝕まれたオレの体は歪な体質変異を起こし、体内を巡る波動までもが、本来のものとは違う、霧と雲の属性に
変わってしまったんだ。だが、このおしゃぶりは変わらない。本来コロネロではなく、オレが受け取るはずだったこの青いおしゃぶりは、
オレの命と引き換えに炎を放つ。……属性は雨!」
そう言った後、ラルの全身が青い炎を纏った。

「あっ…死ぬ気の炎!!」
「俺と同じ色だ!!」
驚くツナと山本

「!…そうか!なぜあのクモが卵から出てこないか解ったぞ。」

了平に振り向いたツナ達。

「あのおしゃぶりの力だ!!」

「その通り。…“晴クモ(ラーノ・チエル・セノーニョ)”の卵を急成長させる晴の活性の力を雨の鎮静で相殺したんだよ。」
そう言いながら、今まで飛んでいたソラが晴の炎の壁越しではあるが、ツナ達の傍に降りて来て、レオを元の姿に戻していた。

「なるほどね……そういう事か。」
晴クモがラルを襲わなかった理由が解って納得していたジンジャー

「で…でも、匣兵器じゃなく、ラル自身が炎を纏うなんて…」
「俺もあんなのは初めて見るぞ。」
ラル自身が炎を纏っているのを見てそう言ったツナと了平

ラルは炎を纏ったまま立ち上がった。

「アルコバレーノの肉体構造は、私達とは異なるの。そして、その肉体に背負わされた宿命…苦しみや絶望は誰にも解らない。」

「姫の言う通りだ。オレがあのままアルコバレーノになっていたら、魂を病み、バイパーの最後と同じ道を選んでいただろう。」

ソラとラルの言葉を聞いて、息を呑んだツナ達。

「コロネロが居たから……コロネロが居たから、オレは生きたんだ。あいつのおかげで生きてこれた。(コロネロ…お前がいなくてなってから
オレは…オレは後悔ばかりだ。)」
ゴーグル越しに涙を流していたラル

(ラル姉…)そんなラルを心配そうに見つめていたソラ

『ソラ、俺はこれからもこの身に背負わされた宿命から逃げずに生き続けるぜ!だから、お前も自分の力に怯えてばかりいないで…笑えよ!
みんな、お前の笑顔が大好きなんだぜ、コラ!』

(コロ兄…)ソラはずっと前にコロネロに言われた言葉を思い出していた。

「ほーう…君にとってコロネロは救世主みたいだね。でも結局ここで消えるんだし、またコロネロのした事は報われないのさ。」

「ジンジャー………消えるのはお前だ!!」
そう言って、雨の炎を纏ったまま跳んだラル

ラルに続くように、雲蜈蚣も跳んでいた。

ラルはジンジャーに向かって跳んだ後、そのまま体術で攻撃をするが、それを帚で次々と防ぎ、交わしていたジンジャーだった。

「勢いは認めるけど、まっすぐにしか進めなくちゃ意味ないよ。」
顔だけ後ろに振り向きながらそう言ったジンジャー

だが、後ろを振り向いたジンジャーが見たのは、雲蜈蚣の力を借りて、方向転換しているラルだった。
ラルはそのままジンジャーを背後から飛びついて絞めつけた。

「最後のチャンスだ。コロネロに対する侮辱を撤回するか、死かを選べ!」

「ヤダヤダ、しつこい女だな……だーれが撤回するかよ。僕が本気を出せば、こんな拘束…へでもないね。
甘い甘いバァ〜…!?(意識が…遠のく…)」
絞めつけられて身動きが取れなくなっても、余裕の笑みを浮かべていたジンジャーがその時、異変が起きた。

(…ラル姉の雨の炎の鎮静が効いてきたみたいだね。)
ジンジャーの身に起きた異変にすぐに気付いたソラ

「終わりだ!ジンジャー・ブレッド」
そう言った後、ラルの雲蜈蚣がジンジャーの体を貫いた。

「オレの死ぬ気の炎の鎮静力を甘く見過ぎたな。」

「くっ…そー…でも…いいのかい?これでコロネロを殺した実行犯は聞けなくなるんだよ?」
体を貫かれていながらも、笑みを浮かべるジンジャー

「お前を生かしておいた所で、どうせ話さないだろう。…自分で探す。」

「憎らしい…女だなぁ…でも、あ〜…楽しかった。」
そう言いながら、瞳の輝きを失い、眼から何かが出て来て、ブクブクという音がしていた。

「!!…レオ、盾になって!”武器変化!!(カンビオ・アルマ)”」

「伏せろ!!」

ソラがレオに指示を出したのと、ラルが叫んだのはまったく同時だった。
その後、爆発が起こった。

「くっ…」

レオが盾になってくれたおかげで、爆風にぶっ飛ばされる事なく、その場に留まっていたソラ

その間にツナ達は、爆風がまだ止んでないのに、ラルの方へ駆けつけていた。

【爆風、止まったよ。姫】

「うん、ありがとう。戻っていいよ。」

元の姿に戻ったレオ

「レオ、匣に戻って?」

【うん、解ったよ。僕も太陽と同じでいつでも行けるから、遠慮なく呼んでね?】

「うん。」

レオに向かって匣を翳し、匣の中へと戻っていた。

ソラは立ち上がってラル達の所へ近づいた。

(…とっさに雲蜈蚣のシールドを展開したんだね。)
ラル達に近づきながら、ラルの周りに落ちてる、死ぬ気の炎を失った雲蜈蚣を見てそう思ったソラ


「………極限によく倒したな。奴も師匠の仇の一部に違いはない。」

「残念だけど、倒せてないよ。」そう言いながら、ラルの傍まで来たソラ

「何!?」ソラの言葉を聞いて驚く了平

「姫の言う通りだ…見ろっ」
そう言って、ジンジャーが落ちた所に視線を向けるラル

みんなもそれに釣られて、視線を向けた。

そこには、ジンジャーそっくりの人形の残骸があった。

「なっ…人形!?」

「ここに居たジンジャーは…初めから人形だったんだよ。」

「あれが、ジンジャーが『魔導師の人形(マジシャンズ・ドール)』と呼ばれる所以だ。いまだ奴を奴に止めを刺した者はいない。」

「ジンジャーは不吉なヒットマンでね、ここ数年…ファミリーが滅亡するような抗争では必ず目撃されてるんだよ。」

ソラとラルがジンジャーの事をそう説明していた。

「…恐っ」

「まるで妖精だな。」

「妖怪の間違いじゃないっスか?」
了平にそう言う山本

「どっちにしても、もう会いたくない…」

「そうっスね…」
ツナに同意した獄寺

(それにしても、あのジンジャー・ブレッドまで味方につけてるなんて…いったい、ミルフィオーレには何があるんだろう?)
ツナ達の様子を見ながら、心の中で呟いていたソラ

「大丈夫?ラル……あっ、そうだ!お兄さん、オレの時にみたいに、ラルの怪我を治してあげてくれませんか?」
ラルの傍でしゃがんだまま、了平に向かってそう言ったツナ

「ああ…あの晴匣を使ったやつか。」
ツナの怪我を治してた時の事を思い出してそう言う山本

「おお、そうだな。見せてみろっ…すぐに…」
そう言いながら、ラルが怪我した左腕に触れようとした了平

「触るな!!大したことはない。」
触れて来た了平の手を払いのけてそう言ったラル

(大したことない、だって…?)
ラルの言葉にカチンときたソラ

「でも…」
「そうだ。遠慮などする事はない。」
ラルの事を心配して声を掛けたツナと了平

「戦いはこれからが本番だ。余計な事はせず、力は温存しておけ。オレは大丈夫だ。」
左腕を右手で押さえたままそう言ったラル

「そうはいかないよ。出ておいで、モモ」

そこに今まで黙ってたソラの声が聞こえて来た。

そして、ラルの目の前に晴モモンガのモモが現れた。

「姫!!なぜっ…!?」

「ラル姉、どこが大したことないの?」
少し冷たい声でそう言いながら、ラルの右手を退けて、左腕を軽く握ったソラ

「ぐっ…」痛そうな声を出すラル

「これの、どこが大したことないの?それに、余計な事って何…?」
フード越しに少し怒りの籠った瞳をラルに見せたソラ

「そ…それはっ…」

「それは?」

何も返す言葉が見つからないラル

「ハァ〜……モモ、お願い。」ラルの左腕から手を離して、モモに指示を出したソラ

【了解!!ラルの左腕を完全治癒すれば良いんでしょ?】

「うん。あと、もしまだ落とせてない卵があったら、叩き落としておいて。モモなら解るでしょ?」

【了解!!】

モモは治療を開始する前に、ラルの体をざっと調べて、卵がまだ付着していないか調べていた。

【大丈夫みたいだよ!それじゃ、治癒するね!】
調べ終わった後、ラルの左肩に乗って、そこから左腕を治療し始めた。

「………すまない。」

「…私の炎は多少使ったくらいじゃ、なんともないから気にしないで。」

「!…そう…だったな。……そういえば、姫はいつから気付いていたんだ?ジンジャーが人形だという事に…」

「そういえばそうだな。いつからだ?」
了平もその事を思い出したからか、ソラに聞く。

それはツナ、獄寺、山本も気になっていた事だった。

「ジンジャーと戦った時だよ。最初にお腹を蹴った時、なんか違和感があってね…それに何度かやりあった後も、全然疲れが見えなかったのもあって、
不思議に思ってたんだ。何度か蹴ってるうちに、もしかして目の前に居るジンジャーは本物じゃなくて、人形じゃないかって…」

「なんでその時に言わなかったんだよ!?」

「確信がなかったからだよ。あまりにも巧妙に出来過ぎてて、本物か、偽物か見分けにくかった。」
獄寺の疑問にそう答えたソラ

「なるほどな…」納得する了平

「それに…私、ちゃんと止めたよ?ラル姉がおしゃぶりの力を解放しようとしてた時に…」

「すまない。…あの時は、頭に血が上っていて、聞こえなかったようだ。」

「だろうね。ラル姉、コロ兄の事で冷静さを失ってたもん。」

「ああ…姫の言う通りだ。オレはコロネロの事で頭がいっぱいになって、あいつの事を侮辱されたのが悔しくて、冷静さを失っていた。」

【ソラ、終わったよ!!】

ラルの左腕の怪我が完治した。

「ありがとう、モモ」

【どう致しまして!!】

「それじゃ、匣に戻って?」

【うん!いつでも呼んでくれていいよ?モモがみんなの怪我を治すから!!】

「うん。その時はお願いね?」そう言いながら、匣を翳したソラ

モモは匣の中へと戻っていった。

「ラル姉、腕の痛みは消えた?」

「ああ。モモのおかげで全然痛くない。」

「良かった。」

「おい、ラル・ミルチ…そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇか?」

「獄寺君?」

「アルコバレーノの謎ってのをよ。」

獄寺のその言葉にハッとした表情になるツナ達。

「……断る。」

「てめっ……いつまでも1人でしょいこんでんじゃねぇよ!!何で話せねぇんだよ!?」
ラルの言葉にキレる獄寺

「何と言おうと、オレから話すつもりはない。」

「!」

「どうしても知りたければ、山本に訊けばいい。」

「なっ…野球バカが…?」

「山本、知ってんの!?」

「ん…?まぁな…」渋りながらもそう応えた山本

「それってどういう」

その時、警報が鳴り響いた。

「この警報は!?」

「敵に見つかったのか!?」
獄寺の後に了平がそう言った。

「ジンジャーの奴…予告通りに通報したというわけか…」
ジンジャーの言っていた事を思い出しながら呟くラル

「ラル姉、ここで待ってて?警備システムを破壊してくるから!!了兄、行くよ!!」
ラルにここで待つように言い、了平に呼び掛けてから駆け出したソラ

「あ…ああ!!」ソラの後に続くように駆け出した了平

「山本!ラルとここで待ってて?」

「わかったのな!!」

ツナと獄寺も後を追う。

ソラ達は、ラルと山本をその場に残して、急いで警備システムを破壊するために奥へ進んでいった。


標的39へ進む。


今回も前回に続き、ジンジャーとの戦いです。
この話では、ラルがおしゃぶりの力を解放する前に、
ソラとジンジャーを戦わせてみました。
でも、やっぱ戦闘シーンは上手く書けませんね。
戦闘が終わった後は、アニメや漫画ではラルの怪我を治療していませんが、
ソラのアニマル匣「モモ」で左腕の怪我だけ治療させました。
それでは標的39へお進み下さい。

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