ツナがボンゴレの証を継承してから3日後……
ソラはこの3日間、ご飯の時以外はほとんど1人で過ごし、
空いた時間はすべて修行に費やしていた。
ーー夜ーー地下7階ーー大食堂ーー
みんなでご飯を食べていたが、ツナ、山本、獄寺の3人がご飯の途中で眠ってしまっていた。
お茶の入った湯呑を載せたお盆を持ったまま、寝ているツナと山本を見た、京子とハル
「今日もご馳走様の前に寝ちゃったね。」
京子はツナと山本を見てそう言った。
「新しい修行が始まって、3日連続ですよ!?」
ハルがそう言った。
「よっぽど疲れてるんだよ。」
「獄寺さんは今日も1人だけ席離れてますし。」
「……怪我大丈夫かなぁ?」
「あららー?みんなボロボロだもんね。」
「修行、甘くない!!」
「ほっときなさい。自分の修行の不甲斐なさを恥じてるのよ。」
「うまくいってねーのか?」
「ええ……1分間に蠍をやっと2匹……何よりあの子、やる気があるのか、ないのか……」
「ふむ……」コーヒーを飲みながら聞いていたリボーン
(隼人兄、修行が上手く行ってないんだ……)
ビアンキの話を聞いて、獄寺を心配したソラ
その時、獄寺が席から立ち上がった。
「リボーンさん、お先に休ませてもらいます。10代目にもよろしくお伝えください。」
「ああ。」
「隼人兄、せっかく京子姉達がお茶を…」
出て行こうとする獄寺を呼び止めようと声を掛けたフゥ太
だが、獄寺はそのまま食堂を出ていってしまった。
「お前と獄寺は例の件もあるし、水と油だとは思っていたが、やはり、この組み合わせは無理があったのかもな。」
「軟弱なのよ。」そう言い、京子が持っているお盆から、お茶の入った湯呑を取って飲むビアンキ
「……ソラに替わってもらうか?」
「無理だよ。」リボーンの提案を即座に切り捨てたソラ
「即答だな。」
「今の獄寺さんは、私の話なんか聞かないよ。ビアンキ姉と同じで水と油……」
(!…まだ3日前の事を誤解させたままなのか?)
ソラと獄寺の間の誤解がまだ解けていない事に気付いたリボ―ン
「いいえ、替わりません。あの子の事は、最後まで見させて下さい、お先にお風呂頂きます。」
「ああ。」
「ビアンキ姉っ」
「はひっ…」
「ビアンキさん…」
ビアンキも大食堂を出ていった。
ビアンキに続くように、ソラも椅子から降りて、移動し始めたソラ
「あっ…ソラ、お茶っ……」
ソラに声を掛けたフゥ太
「ごめん、要らない。」
そう答えた後、大食堂から出ていったソラ
ーー地下14階ーーソラの私室ーー
部屋に戻ったソラは、マント、ウェストポーチ、ガンホルダーを外してからベッドへ寝転がった。
「ハァ……今のまま、ミルフィオーレと戦うなんて…無理だよ。パパやタケ兄はともかく、隼人兄があんな調子じゃあね……」
ビアンキと獄寺の様子を見てそう思っていたソラ
「例の件……か。やっぱり、家庭環境の事……だよね?」
ソラは、ビアンキと獄寺の関係や、獄寺の母親の事を聞いた時の事を思い出していた。
ビアンキと獄寺は異母姉弟だという事。
獄寺の母親…「ラヴィーナ」は、正妻ではなく愛人で、まだ若く駆け出しだったが、将来を嘱望された、
才能あるピアニストで、大変な美貌の持ち主だった事。
2人の父親は、マフィアで、妻子ある身でありながら、獄寺の母親に一目惚れし、口説いた事。
その2人が付き合い始め、ラヴィーナのお腹の中に新しい命を身籠り、そして生まれたのが、獄寺だという事。
獄寺の母親は、父親の組織の者に消されたという噂があり、獄寺はそれを聞いて、城を飛び出して行った事。
「……10年前の隼人兄は……まだ、真実を知らない……誤解したまま、なんだよね……お母さんの事……」
ソラは、獄寺の過去の事を知っているからこそ、なおさら心配していた。
ビアンキと獄寺の間の壁が少しでもなくなる事をただひたずら祈る事しか出来なかった。
ーー地下7階ーー大食堂ーー
一方、こちらでも、リボーンがツナに例の件……獄寺の過去の話をしていた。
「……なにそれ、そんな酷い話、獄寺君一言も…」
獄寺の酷い過去を知って、動揺を隠せないツナ
「それであいつ…家庭がドロドロのグチャグチャだって…」
「や、山本!起きてたの?」
寝ていると思っていた山本が起きていて驚いたツナ
山本は3人分のお茶を淹れた。
「ほいっ」そう言いながら、お茶を淹れた湯呑をツナの前に置く。
「ありがと。」
「おう!」
ツナは山本に淹れてもらったお茶を啜る。
「難しいなぁ、どうやって獄寺君を励まそう…」
「ほっとけっ」
「えっ!?」
「男なんだ、自分で折り合いつけさせろっ」
「なっ…お前、こーゆー時冷たいぞ!!」
「周りがとやかく言う問題じゃねーって言ってんだ。」
「まーまー2人とも!気持ちがニッチもサッチもいかなくなった時は、気分転換が1番だと思うぜ!」
「気分転換?」
「おう!俺に良い考えがある、任せとけって!!」
そう言いながら、ツナの右肩の方へ自分の右腕を回した。
「はぁ…」
「それに……ソラの誤解も、解かねぇといけねぇしな……」
「えっ…?山本、それってどういうこと?」
「ツナ、ソラの様子がおかしいのは、お前も気付いてるだろ?」
「う、うん……なんか俺達にまた壁を作って、避けてるような気はしてた。それに…あんまり喋らないし……山本、何か知ってるの?」
「実はな……」
山本は話した……3日前、ツナが球針態に閉じ込められている間に自分と獄寺とソラの間に起きた事を……
獄寺はツナを本気で見殺しにするような、ソラの言動や行動を見て誤解をしており、今も誤解し続けたまま、2人の間に壁がある事を。
「俺が球針態に閉じ込められている間にそんな事がっ…」
「俺は修行に入る前に、ソラと話して真意を聞いたから、誤解したままにならずに済んだけど、獄寺はそれを知らないんだ。」
「そんな……」
「それだけじゃねぇぞ。」
「「えっ?」」
「恐らく、ソラはお前達に負い目を感じてるんだと思う。」
「負い目…ってどういう事だよ?」
ツナは気になってリボーンに聞く。
「……ツナ、あのボンゴレの試練を提案したのは俺じゃねぇ……ソラだ。」
「「!!」」驚くツナと山本
「ソラちゃんが?」
「それは知らなかったのな…俺はてっきり小僧だと思ってたんだぜ?」
「本当なの?リボーン」
「ああ。飛躍的にパワーアップする方法を考えた結果、伝説の試練しか思いつかなかったらしい。しかも、このままではラルがツナの指導を
下りてしまう事を聞いて知っていたから、余計に焦ってな……」
「焦る……?」
「何でだ?」
首を傾げた2人
「もし、あのままラルがツナの指導を下りていたら……おそらく今頃、単独で白蘭を倒しに行こうしていたはずだぞ。」
「なっ!?」
「それ、本当なのか?小僧」
「ああ。ソラにはそれが解っていた。だからこそ、ラルのその自殺行為を止めるためにも、これしか選ぶ事が出来なかったんだぞ。
この時代のツナが試練を受けた時の事を、ずっと前にこの時代の俺から聞かされてたらしくてな、その時、試練に必要な条件や、
その試練の中で、残酷な映像を見せられる事とかも聞いて知っていたそうだ。」
「この時代の…俺の…?(…っていうか、なんでそんな事をソラちゃんに教えてんだよ!?リボーン!!)」
ツナは心の中でこの時代のリボーンに向けてツッコんでいた。
「へぇ……この時代のツナもボンゴレの試練を受けてたんだな…」
「そして、ラルが求めるツナは継承後の姿だという事を、ソラは早い段階で気付いていたし、今のままではミルフィオーレに
勝つことなど出来ない事は明白だった…」
「だから、ボンゴレの試練を…?」
「ああ。ソラはきっとギリギリまで悩んでいたはずだぞ。昔のツナの事は、この時代のみんなから聞かされていたみたいだし、今は身近で
見て知っているからな。お前がマフィアのボスになりたくないって思ってる事を……ソラは誰よりもそれを解っていたからこそ、ツナに
申し訳なく思ってるはずだぞ。一歩間違えれば、ツナを死なせてしまっていたかもしれなかったのと、勝手に試練をして、ボンゴレの証を
継承させてしまった事をな…」
「そんなっ…」
「ツナだけじゃねぇ。ツナを守るために戦っている獄寺や山本に対しても同じ事だ。必要な事だったとはいえ、守るべきボスを危険に
晒してしまってるからな。結果、山本は誤解せずにソラを責めていないが、獄寺は責めてるだろ?」
ツナと山本はそれを聞いて、呆然とし、すぐに声が出なかった。
「……この試練をする事に決めたのには、もう1つの理由がある。」
「もう1つの……理由…?」
「何なんだ?」
「ツナが守りたいと思ってる、みんなを守れるようになるための近道だからって言ってたんだ。誰も欠ける事なく、無事に過去へ帰れるように……
ソラはツナのその気持ちも知っていたからこそ、この試練をする事に決めたんだぞ。」
「そっか…」顔を俯かせたツナ
「ソラの奴、ツナの事、良く見てるのな…」
「リボーン、俺……どうしたらいい?」
「そんくらい自分で考えろ、ダメツナ。あと、さっき京子と話してて知ったんだが、ソラの奴、どうやらまた1人で寝てるみたいだぞ。」
「えっ!?」
「ツナ達だけじゃなくて、京子達にも少しだけ壁を作ってやがる。」
「そういやぁ、ソラはどこで寝てるんだ?」
「知らねぇぞ。」
「ツナも?」
「うん……知らない。」
「そっか。けど、考えてみると、ソラの事…まだ良く知らねぇんだよな、俺ら。」
「うん、そうだね……」
改めてソラの事をまだ良く知らない事を思い知らされたからか、落ち込むツナ
「まぁ、そう落ち込むなって!とりあえず、獄寺のソラへの誤解を解いて、それから考えようぜ!!」
「……そうだね。」
山本に元気づけられたツナ
「ランボさん、登場!!」
そう言いながら、風呂上がりのランボが現れた。
「よっ、ランボ!風呂入って来たのか?」
入って来たランボに声を掛けた山本
「んーとねぇ、ビアンキと京子とハルとイーピンもだよ。今ねぇ、お風呂の中ねぇ…」
お茶を飲みながら、ランボの話を聞いていたツナと山本
「なっ」
「ぶーっ」
それを聞いて山本は、持っていた湯呑をテーブルに落とし、ツナは飲んでいたお茶を口から吹き出した。
「あちっ」
「あちゃちゃ」
ランボの言葉を聞いて、わたわたする2人
「本当、ガキだな。」
その様子を見ていたリボーンがそう言った。
ーー夜中ーーソラの私室ーー
ソラは悪い夢を見ているからか、魘されていた。
ソラはマントを羽織り、フードを被った状態のまま、何かから逃げるように必死に走っていた。
<いたぞ!『陽色の姫君』だ!>
<こっちに居たぞ!捕らえてボスに差し出すんだ!!>
ソラを追いかけていたのは、ブラックスペルやホワイトスペルの隊服を着た男の人達だった。
それも4人や5人じゃない……10人は確実に居た。
<うちのボスは『陽色の姫君』の何を欲しているんだ?>
<さぁな。だが、おそらく、あの並外れた戦闘力を欲してるんじゃねぇか?>
ソラは1人ずつ確実に、左手に持った銃で武器を壊し、体術で相手を倒していた。
<確かに……あの小さな体のどこにあんな力があるのか……>
<まるで化け物だっ…>
ソラは襲ってきた敵を倒しながら、立ち止まる事なく、走り続けていた。
その時、急に足を止めたソラ
『あなたはっ…』
ソラの前に突然現われたのは、ミルフィオーレファミリーのボス…白蘭だった。
<もう逃がさないよ?『陽色の姫君』…姫ちゃん>
『!』
<僕、君のその力が欲しいんだ。だから…逃がしはしないよ?>
そう言いながら、白蘭の手がソラに迫る。
ソラは体が震えてそこから動けずに居た。
『嫌っ……いやぁーー!!』
「はっ…」
目を覚ましたソラ
「夢……か…」
そう言って、上半身を起こした。
机にある、デジタル時計を見てみると……夜中の3時過ぎだった。
「今の夢……妙にリアルだったな……いったい、白蘭は『陽色の姫君』としての私の何を欲しがってるんだろ…?」
太猿と戦った時に言っていた、ミルフィオーレのボス……つまり、白蘭が「陽色の姫君」である自分を欲しているという事。
その理由が未だに解っていない事。
「……まさか、私の正体が…バレてる、のかな…?」
ソラはそう考えたら、急に体が震えだした。
「ううん、そんなはずないっ……だってそれはパパが最重要機密扱いにしてくれてたはずっ……そんな簡単には、外に漏れる訳がないっ…
なら、どうして…?」
ソラには、白蘭が「陽色の姫君」としての自分の何を欲しているのかが、超直感で薄々気付いてはいるが、決して口から出る事はなかった。
怖いのだ、その事を認めてしまうのが……
だってその事を認めてしまったら、今のままでも充分に怖いと思ってる自分の力が、もっと怖くなってしまうから……
「っ……怖いっ……怖いよっ……パパぁっ……ママぁっ……」
この時代の2人の事を思い出しながら再びベッドに寝転がり、体を震わせたまま、枕に顔を埋めて、1人で泣き続けていた。
今、自分の傍に居る、10年前の2人のどちらかに助けを求めれば済む事なのだが、ソラにはどうしてもそれが出来なかった。
今回のお話は修行が始まって3日後の所ですね。
ツナ、獄寺、山本の3人は新しい修行をしていますが、獄寺だけは上手く行っていない様子……
それに獄寺とソラの間では、まだ誤解が解けていません。
あと、ツナ達が獄寺の過去をリボーンから聞いて初めて知るお話ですね。
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