相合傘 1

西暦1995年、季節は夏・・・6月中頃の梅雨の時期であった。
ここ、夢が丘中学校では、六時間目の授業が行われていた。
1年3組の教室では、国語の授業をしていた。

窓際の一番後ろに座っている生徒…山口 大介は、今の授業をつまらなそうにしていた。

(はぁ…かったりーなー。俺、国語の授業は嫌いなんだよな〜…元々文系じゃなくて理系だしな。
国語の授業が好きだという奴が居たら、どこが良いのか聞きてぇぐらいだ。)
っと思いながら、今の授業をあまり聞かず、ノートも取らずにいたのであった。

その時、大介はふいに外の方を向いた。

(ん?天気がわりぃな…今にも雨が降りそうだぜ。そういや〜、天気予報で今日の降水確率は50%だって言ってたっけ。
50%だから、降る確率が低いと解っていたし、今朝は晴れてから大丈夫だと思って、傘を持って来なかったんだよな。
どーすっかな・・・・濡れて帰るしか、方法は…ねぇよな。)
っと心の中で呟きながら、今にも降りだしそうな空を見上げていた。

そして放課後になり、大介は鞄を持って教室から出て、下へ降りていった。
靴箱のある玄関へ着き、大介は上靴から運動靴に履き替えた。

「やっぱ降ってきやがったか…」
と言いながら、一つため息をついた。

「じゃーねぇな、走って帰るか。」
っと言って、外に走って出ようとした時・・・

「あれ?大介」

その時、大介が良く知る声が聞こえてきた。

「ん?あっ…なつみ」

「どうしたの?傘は?」

「ねぇよ。」

「忘れたの?」

「忘れたんじゃねぇよ、最初から持ってこなかったんだよ。」

「どうして?」

「だってよ、今朝は晴れてたんだぜ?確かに天気予報じゃあ、降水確率は50%だって言ってたけどよ、
こんなに晴れてんなら、雨降る心配はいらねぇと思ったんだよ。」

「ふ〜ん。要するに、持ってくるのがめんどくさかったのね。」

「…まぁな。」

「それで?どうやって帰るの?」

「ん?そりゃあ走って帰るぜ。雨に濡れるけど、歩いてるよりはマシだしな。」

「ねぇ、大介」

「ん?あんだよ?」

「もうすぐ期末考査があるの、忘れてないよね?」

「忘れてねーけど。」

「期末考査が近づいてるのに、このまま濡れて帰る気?」

「風邪なんかひかねぇよ。」

「そんなのわかんないじゃないっ!」

「いいんだよ、別に。風邪ひいたなら風邪ひいたで休むから。」

「授業…遅れを取るよ?」

「まぁ、そりゃ取るよな。」

「…あんた、中間考査や期末考査が成績に響く事は解ってるよね?」
「ん。」

「だったらどうして雨が降っても風邪をひかないように、傘を持ってこないのっ!?」

「あんだよ…そんなの、なつみには関係ねぇだろ?」

「確かに関係ないわ。でも、なぜだか自分にとっては、あんたの事、放っておけないのよっ!」

「へっ?」

「どうしてかは…解らないけど…ね。」

「なつみ…」

そこで、雨がさっきより少しだし激しくなってきた事に気づいたなつみ

「あっ…さっきより雨がひどくなっちゃってる。」

「げっ、マジかよ!?んじゃ、俺、もう帰るから。また明日な!」

「あっ!ちょっと待ってよっ!大介っ!!」

「なんだよ?」

「風邪ひくといけないから、私の傘に…入りなよ。」

「えっ…」

「ねっ?」

「い、いいよ、別にっ」

「…一緒に帰ろう?大介」

「なつみ…」

「ねっ?いいでしょ?」

「…お前が俺と一緒でも構わねぇなら…」

「それじゃ、一緒に帰ろっ!大介」

「あ、ああ。…傘、俺が持つ。」

「えっ?」

「俺、お前より背が高いだろ?だから、お前が持ったら、肩が疲れちまうしな。」

「…じゃあ、お願いね。大介」

そして、二人はなつみの傘で、一緒に相合傘で帰ることになった。
その時、校門を出るまでに何人かの生徒が見ていた。

ある男子生徒は「水木さんの傘に入れてもらえるなんて、羨ましい奴めっ!」
ある女子生徒は「まぁ、相合傘をして帰っている人達が居るわ。」

などと、大介となつみの二人のことを見て、いろいろ言っている生徒達であった。

実はなつみは母親に似た容姿のためか、学校の男子生徒にかなり人気があり、なつみに言い寄る生徒は数知れずなのである。

大介は歩きながら、なつみに話し掛けた。

「お、おい、なつみ」

「何?」

「みんな、お前と俺を見ていろんな噂話をしてっけど…いいのか?」

「何が?」

「何がって…お前、結構男子に人気あんだろ?だから、すぐに今日の事が解っちまうんだぜ?」

「別にいいわよ。」

「別にいいってお前…龍一の耳にこの噂が流れてもいいのかよ?」

「えっ?龍一君に?」

「ああ。お前、龍一の事がまだ好きなんだろ?」

「…昔はね。」

「へっ!?む、昔はねって…」

「私、今は龍一君に好意は抱いていないんだ。」

「…マジで言ってんのか?それ。」

「うん。今は普通に友達としか思っていないけど。」

「…いつ、龍一への思いが変わったんだよ?」

「う〜ん…たぶん、星祭りの後からかな?」

「星祭りの後から?」

「うん。」

「ふ〜ん。じゃあ、お前、とっくに初恋終わってたのか。」

「えっ?」

「龍一なんだろ?お前の初恋。」

「…わかんない。」
「はぁ?わかんない!?」

「龍一君が本当に私の初めての恋なのかな?って…」

「おいおい…今さら何言ってんだよ?お前、小学4年生の時、龍一の事でいつもあんなに騒いでただろうが。」

「だって…」

「まぁ、本当はどうなのかは本人にしかわかんねぇけどな。」

「そういえばさ、大介の初恋っていつ?」

「えっ…俺の初恋?」

「そうよ。」

「…さぁな。」

「あっ、何よ、教えてくれないわけ?」

「ああ、教えられねぇな。」

「どうしてよ、教えてくれたっていいじゃないっ!それともなに?私が誰かに言うとでも思ってんの!?」

「んな事、思ってねぇよ。」

「じゃあどうして?」

「…俺の初恋は、まだ終わっちゃいねぇんだよ。」

「えっ…それって…まだ初恋していないって事?」

「いや、違う。俺は今まさにその初恋を・・・している最中なんだよ。」

「えっ!?そうなの!?」

「ああ。おっと、それ以上は教えられねぇぜ。」

「そっか、頑張ってね!大介」

「あ、ああ…(俺の初恋は…お前だよ、なつみ)」

「でも意外だな〜、大介の初恋がまだ続いていたなんて。」

「なんだよ、それ。意外で悪かったなっ!」

「もう、そんなに怒らなくったっていいじゃないっ!」

「けっ」

「んもうっ」

「…なつみ、家に寄ってくか?」

「えっ?」

「その…茶ぐらいなら出せるからよ…」

「…うん、わかった。じゃあ寄らせてもらうね。大介」

「お、おう。」

「あっ、ついでだから、大介にお願いがあるんだけど…」

「ん?なんだよ?」
「あのさ〜…理科、教えてくれない?」

「理科を?」

「うん。理科の授業で解らない所があって…」

「そっか、いいぜ。教えてやるよ。」

「ほんとっ!?ありがとうっ!」

「そのかわり、俺も英語で解んねぇとこがあるから、教えてくれよ。」

「うん、いいよ。」

大介となつみは、いまだに雨が止まない中、仲良く相合傘で大介の家へと向かうのであった。



えっと、一周年を記念して創作した小説です。
大介となつみが相合傘するとしたら、一体どんな風になるのかな〜って思って、このような小説を創作してしまいました。
大介となつみなら、多少の口喧嘩はするだろうけど、小学校の頃よりは落ち着いている方かなと思ったので、
口喧嘩をしながらも、仲良く相合傘をして帰るところを頭の中で想像してしまいました。
それではこの辺で失礼致します。

相合傘 2(大平×ジュリエッタ)を読む。

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