お互いの思い…

ーー西暦1993年ーー

今日は2月14日…年に一度のバレンタインデーの日である。
ここ、夢が丘小学校4年2組の教室では…

「「マリオ君っ!私のバレンタインチョコを受け取ってっ!」」という女子がいれば、

「「深沢君っ!(龍一君っ!)私のバレンタインチョコを受け取ってっ!」」という女子もいる。

それに対し、二人は…
「サンキュー、ホワイトデーの時には必ずお返しするよ!」
「ありがとうっ!」と対応する二人であった。

この2人は呼ばれている名のとおり…マリオ・ヴィットーリと深沢龍一の二人であった。

この2人のどちらかにバレンタインチョコを渡すだけのために、わざわざ他のクラスの同級生の女子や、
上級生や下級生の女子の少人数が4年2組にやってきた。
特にマリオの方にバレンタインチョコを持ってくる女子が多かった。

「マリオ君と龍一君、あいかわらず人気者だね!っといっても…私達もさっき
2人にバレンタインチョコをあげてきちゃったんだけどね。」

「そうね、タマエちゃん」

「けっ、くだらねぇな…」と窓の上に座っている大介がつぶやいた。

「ちょっと大介〜!あんた、せっかくの雰囲気をぶち壊さないでよ〜!」

「…バレンタインのどこが良いんだよ…」

「山口君、チョコ嫌いなの?」

「嫌いとかそんなんじゃねぇ…うっとーしいんだよ。中には貰えなくて暗くなってる奴もいるしよ。」

「た、確かに…今気がついたけど、ほんの一部だけ雰囲気が暗い所があるわね…」

「そういえばそうね。」

大介に言われて初めて気づいたタマエとえり子

「俺…こういう暗い雰囲気が気に入らねぇんだよな。」

「同感。あっ、バレンタインといえばさ〜、なつみは誰かにバレンタインチョコをあげてんのかな〜?えり子ちゃんはどう思う?」

「そうね…今ロンドンに好きな人がいれば、あげると思うけど、好きな人がいなければ、
お父さん以外には誰にもあげていないと思うわ。」

「うん、うん。私もそう思うな。大介はどう思う?」

「んん?さぁな、どうなんだろうな…そんなもん俺が知るかよ。」

「それもそっか。」

「それに…」

「それに?」

「あいつ…たぶんバレンタインどころじゃねぇような気がする。」

「どうしてそう思うの?山口君」

「まだ…あれから…2ヶ月しか経ってねぇんだぜ?」

「あっ…そっか…みらいちゃんの事だね?」

「ああ、あいつは…まだ普通にバレンタインとかそういうイベントとかする気力がねぇ気がする…
もしかしたら今は…あの時の壁を乗り越えるのに必死なんじゃねぇかと思うんだ。」

「確かに…なつみならありえそうね。」

「そうね。だってあの時、みらいちゃんが未来へ帰る時に最後になつみちゃんに言った言葉…嬉しかったはずだもの。
私だってもし自分の子供からその言葉を聞いたら、嬉しいもの。」

「私も〜。」

「みらいちゃん…元気にしてるかしら?」

「きっと元気にしてるよっ!だってみらいちゃんはなつみの子供だもんっ!ねっ?大介」

「ああ…そうだな。みらいなら元気にやってるさ。きっと・・・」と外の空を眺めながら言った。

「ところで大介、あんた…誰かからバレンタインチョコもらった?」

「いや、貰ってねぇよ。もし仮に俺にバレンタインチョコを持ってきたやつがいても、俺は受け取らねぇよ。」

「ええ〜!?どうしてよ?」

「…あんまりチョコ食ったりしねぇし…もし俺の知らない女子から貰う場合、相手の事知らねぇのに、
はいそうですかって受け取れるわけねぇだろうが。それに俺、バレンタインデーに興味はねぇよ。」

「うわ〜大介あんた冷たいわね〜。でも気持ちくらいは受け取っておきなさいよ〜?」

「山口君、私もそう思うわ。」

「…めんどくせぇ…」

「だ〜い〜す〜け〜?」大介を睨むタマエ

「や、山口君、それはちょっと…」

「俺がどうしようと俺の勝手だろっ」

その時、1校時目開始の5分前をを告げるチャイムが鳴った。
他のクラスの同級生の女子や、上級生や下級生の女子達はそれぞれ自分の教室へと戻っていった。

その後本当の1校時目の開始を告げるチャイムが鳴り、今日の授業が始まった。
そして時間があっという間に過ぎて、今日の授業が終わり、みんな帰る準備をして教室を出ていった。

大介も鞄を持って、教室を出て、学校から出ていき、家への帰路についた。

「はぁ…やっと抜け出せたぜ…来年もこんなんだと嫌になるぜ。」とつぶやきながら歩く大介であった。

大介はしぶしぶ歩きながら、今朝タマエとえり子と話していた会話を思い出していた。

<回想>

『ああ、あいつは…まだ普通にバレンタインとかそういうイベントとかする気力がねぇ気がする…もしかしたら今は…
あの時の壁を乗り越えるのに必死なんじゃねぇかと思うんだ。』

『確かに…なつみならありえそうね。』

『そうね。だってあの時、みらいちゃんが未来へ帰る時に最後になつみちゃんに言った言葉…嬉しかったはずだもの。
私だってもし自分の子供からその言葉を聞いたら、嬉しいもの。』

『私も〜。』

『みらいちゃん…元気にしてるかしら?』

『きっと元気にしてるよっ!だってみらいちゃんはなつみの子供だもんっ!ねっ?大介』

<回想終了>

「ああ…あいつの子供だもんな、元気に決まってるさ…それに…なつみもな…」
と一度歩く足を止め、空を見上げ、ロンドンにいるなつみをみつめるように遠い彼方の方を見つめていた。

「あいつ…今頃ロンドンで何やってるんだろうな…」
と思いながら、2ヶ月前になつみがロンドンへ行く前に言った言葉を思い出していた。

『2年経ったら帰ってくるよっ!』

2ヶ月前、確かに彼女はそう言ってロンドンへ行ってしまった。

「2年…か、2年後にあいつはこの夢が丘に帰ってくる…待ってるからな…なつみ」
とここにはいないなつみ向かって言った。その後少ししてからまた止めていた足を歩かせた。

山口太郎左衛門商店…大介は家に着いた。

「あら、お帰りなさい。大介さん」

「ただいま。」

「あっそうそう、今渡しておきますね。はい、これ。今年のバレンタインのチョコレートです。」

「ありがとう。」

「いいえ、大平が大介さんのお部屋で待っているので、よろしくお願いしますね。」

「ああ、解った。」と言って奥の自分の部屋に行った。

自分の部屋に入ると…

「ただいま、大平」

大平はすぐに大介へ飛びついた。
その後大平は大介にある箱を渡した。

「ん?大平、これは…もしかして、兄ちゃんにチョコをくれるのか?」

大介の言葉に大平は頷いた。

「サンキュー、大平。」と言って受け取った。

大平は大好きなお兄ちゃんにチョコを受け取って貰えて喜んでいた。

(たぶん母さんと一緒に作ったんだな、これ。)と言いながら大平から貰ったチョコを見つめた。

「大平、今食べて良いか?」

大平はすぐにこくんっと頷いた。

「んじゃ開けるぞ。」と言い、中を開けた。

「おっ、こりゃ美味そうだな、大平。じゃ、いただきます。」
と言って大介は食べ始めた。

「うん、美味いぞ、大平!ありがとなっ!」

さて、来年の大介はどうしているだろうか…また今日のような日常だろうか?
それは誰にも解らないだろう。

一方ロンドンの2月14日のバレンタインデーの日では…

「はぁ…今年は誰にもバレンタインチョコをあげる気になれないな…」と呟いている少女がいた。

そう、彼女は2ヶ月前にロンドンへ引っ越していった水木 なつみであった。
今は学校に来ており、周りではほとんどの人がバレンタインムードになっていた。
だが、彼女は違った…今年は自分の父親以外のチョコは用意していなかったのだ。

「なつみ、おはようっ。」

なつみに声を掛けたのは、なつみがロンドンに来て、初めて友達になった天羽 宙といい、
彼は日本人だが、ずっとロンドンにいたため、ロンドン育ちである。

「あっ、おはよう。宙君」

「どうしたの?元気ないね。今日はせっかくのバレンタインデーの日なのにさ。」

「なんか…今年は誰かにバレンタインチョコをあげる気がしなくて。もちろん、パパには毎年のようにあげるけどね。」

「まだ…なつみはロンドンに来たばからだから…慣れていないもんね。なつみは日本で育ったから。」

「確かにそれもあるかもね。」

「日本か…なつみは日本が本当に好きなんだね。」

「そりゃあもちろんよ。向こうは自分が生まれた国だし、それに…
私がロンドンへ来る前に住んでいた夢が丘には友達もいるしね。」

「…なつみ、今年はそうでも…来年はどうなるか解らないよ。でも、今はそれで良いんじゃないかな?なつみなら大丈夫!
この先なつみが本当にバレンタインチョコをあげたくなる人にきっと出会えるよ。必ず…僕が保証する。」

「ありがとう、宙君」

授業が終わり、なつみは帰路についた。

「…私が本当にあげたくなる人…か。いったい…誰なんだろう…みらいちゃんのパパは。」
そう呟きながら、歩いていた足を止め、首にかけてあるロケットペンダントを取り出して、そのブローチの蓋をあけて中の写真を見た。
そこに写っているのは赤ちゃんのみらいちゃんだった。

「あれから2ヶ月か…みらいちゃん、元気にしてるかな?」
と言いながら、空を見上げ、遠い彼方の方を見つめた。

「それに、日本にいるみんなも元気にしてるかな…。」
と言っていると、頭の中で大介の顔が浮かんだ。

「や、やだっ、なんで大介の顔が浮かんでくるのよっ!」と慌てていたが…

「でも…大介でもありなのかもね…みらいちゃん、大介に凄くなついていたもんね。それに…大介…みらいちゃんが来てから、
いつだって私やみらいちゃんの事を守ってくれてた…みらいちゃんが電車に惹かれそうになった時も…
必死に助けようとしてくれた…大介の良い所…いっぱい見つけた。」
と言いながら、みらいちゃんが来てからの大介との思い出を懐かしんでいると…

「…ちょっと悔しいけど…ちょっぴりみらいちゃんのパパが大介だったらいいな…」と思ったなつみであった。

「2年…か。2年後、夢が丘に帰れる…大介、また会えるよね。」と今ここにいない大介に向かって言った。

その後少し時間が経った後、

「さて、そろそろ帰ろっと。よ〜しっ!明日からも頑張るぞ〜!!」
そう言い、なつみは走って家へ帰っていった。

2年後、なつみはロンドンから日本へ帰ってくる…
自分が住んでいた夢が丘へ…そして2人はきっと再会するだろう…
2年後のバレンタインデーの日にはどうなっているだろうか?
それは誰にも解らない…
だが、二人ならきっとハッピーエンドだろう。



えっと…今日がバレンタインデーの日という事で、初めてのバレンタイン小説を創作いたしました。
なつみがロンドンに行ってしまってから約2ヵ月後のバレンタインデーの日ということでこの小説を創作しましたが、
どうだったでしょうか?
しかし…今回作った小説では二人がラブラブモードっていうのを取り入れていないので、
ご不満な方ももしかしたらいるかもしれませんね。その時はごめんなさいっ!!

とりあえず今年のバレンタイン小説です。
それではこの辺で失礼致します。

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