名前を呼んで!



「隼人兄の馬鹿ーー!!」

「あっ…11代目っ!!」

叫ぶ獄寺に振り向く事なく、走り去って行ったソラ

「11代目…」

「獄寺、どうしたんだ〜?ソラの奴、怒ってたぞ?」
ソラが去って行った方から、山本が現れ、獄寺に声を掛けていた。

「ちっ…山本か。」

「なぁ、何があったんだ?あのソラがお前に怒るなんて、珍しいじゃねぇか。」

「てめーには関係ねぇ…」

「そんな事言わずに教えてくれよ?気になるのなっ」

「……ハァ〜…実はな…」
山本の根強い押しに負けた獄寺が事の経緯を話し始めた。


ーー回想ーー

「あっ!居た!!」
獄寺を見つけ、こちらに駆けてくるソラ

「ん?11代目、どうされました?」
そう言いながら、駆けて来たソラの視線に合わせるためにしゃがんだ獄寺

「隼人兄、どうしていつも私の事…「11代目」って呼ぶの?」

「はい!?」突然そんな事を言われると思ってなくて驚いた獄寺

「突然こんな事聞いてごめんね?でも、ずっと前から気になってたんだ。タケ兄や了兄……他の守護者のみんなは私の事を名前で
呼んでくれてるのに、なんで隼人兄だけ「11代目」って呼ぶのかな〜?って…」

「そ…それはっ…あ、あなたが10代目の娘だからですよ!」

「答えになってない!それだったら、他の守護者達だって、「11代目」って呼ぶはずでしょ!?なのに、守護者の中で「11代目」って
呼んでるのは隼人兄だけだよ?」

「う…」

「…隼人兄もみんなと同じように名前で呼んでよ?」

「それは出来ません!!」

「………なんで?」即答されて、不満顔で獄寺に聞くソラ

「あなたを名前で呼ぶだなんて、そんな恐れ多い事、俺には出来ません!!(10代目の大事な1人娘を名前で呼ぶだなんてっ……
いくら11代目のお願いでもこればかりはっ……)」
ソラのお願いは出来れば叶えてあげたいが、そのお願いを簡単に受け入れる事が出来ないでいた獄寺

「どうして?」

「俺のような幹部が…「タケ兄達も幹部だよ?」うっ…」

「ねぇ、どうして名前で呼んでくれないの?私、隼人兄には名前で呼ばれたい!」

「う゛っ……」

「………どうしても無理?」

「………」無言で肯定した獄寺

「隼人兄の馬鹿ーー!!」


ーー回想終了ーー

「…って訳だ。」

「アハハっ……そういやぁ、獄寺だけだったな、名前で呼んでねぇの。」
話を聞いて笑う山本

「やっぱてめーに話したのが間違いだったぜっ…」
そう言いながら、この場を去ろうとした獄寺

「まぁ、待てよ!」そう言いながら、獄寺の右肩に手を置いた山本

「んだよっ…」山本を睨みつける獄寺

「なぁ、獄寺…なんで名前で呼んでやらねぇんだ?」

山本から視線を外してそっぽ向く獄寺

「ソラはお前に名前で呼んで欲しいんだろ?」

「ああ。」

「なんで呼ばねぇ?」

「………」黙ってる獄寺

「…お前がなんでソラの事を名前で呼ばないのかはなんとなく解る。けどな、ツナの娘だからってだけで、名前を呼ばねぇなんて、
そんなの間違ってるぜ。」

「なんだと!?」再び山本に視線を向けて、睨みつける獄寺

「ソラがどうして獄寺に名前で呼ばれたいのか、聞いたか?」
山本も今までの爽やかな表情ではなく、真剣な顔つきになっていた。

「…いや、聞いてねぇ…」

「ソラが何もなく、突然呼び方を変えて欲しいだなんて言う訳がねぇ…ちゃんと理由があるはずだぞ?」

「!!」はっとした表情になる獄寺

「………ツナが呼んでたぜ?じゃあな。」
そう言って、その場を去っていった山本

「11代目が名前で呼んで欲しい理由…っか。………とりあえず、10代目の所が先だな。」
そう言って、ツナが居るであろう執務室に向かった獄寺だった。


ーーソラの私室前ーー

山本はソラの様子が気になって、部屋の前まで来ていた。

コンッ…コンッ…

『誰…?』

「俺だ。入っていいか?」

『タケ兄…?鍵はかけてないから、そのまま入って来ていいよ。』

「んじゃ、入るのな。」
そう言いながら、ドアを開けて中に入って行った山本

ソラはベッドの上で膝を抱えて座っていた。

山本はソラの居るベッドの方へ近寄り、隣に座った。

「…何か用?」

「さっき獄寺と喧嘩しただろ?なんでそうなったのかは獄寺から聞いた。」

「………」黙ってるソラ

「なぁ、ソラは…なんで急に獄寺に名前で呼んで欲しいなんて言ったんだ?理由があるんだろ?「11代目」じゃなくて、
「ソラ」って呼んで欲しい理由が……」

「…理由は確かにある。でも、大した理由じゃない…」

「それでもいいのな。教えてくれないか?その理由を……」

「………「11代目」って呼ばれるの、あんまり好きじゃない。パパの娘ってだけで「11代目」って呼ぶ人……“私”を見てない。
もちろん、隼人兄みたいに、ちゃんと見てくれてる人が居るのは知ってるよ。でも、どうしてもそう呼ばれるのは、あまり好きじゃない。」
少し間を置いてから話始めたソラ

山本は黙ってソラの話に耳を傾けていた。

「この間、パパと上層部の人達の所へ行った時、言われた。11代目として恥じない行動を取れ!っとか、ボンゴレの未来のためにしっかり
勉強に励め!っとか……たくさん言われた。中には、私が11代目って事に毛嫌いしている人も居た。その人達、10代目の娘ってだけで
しか見てない。「沢田ソラ」を見てくれてる人がほとんど居ない。その人達が「11代目」って呼ぶたび、上辺だけの忠誠のように聞こえた。」

(そういやぁ、ツナがこの間その事で愚痴ってたっけ……子供でも容赦なくプレッシャーを与えてたって……)

「隼人兄が「11代目」って呼ぶのに固着してる理由はなんとなく解るよ。でも、パパの娘ってだけで「11代目」って呼ばれるのは嫌っ…」

「そっか。」

「それに…なんか、最近になって急に、隼人兄に「11代目」って呼ばれるたび、嫌気を感じるようになっちゃって……」

(たぶん、上層部でのプレッシャーのせいだろうな……)
ソラの話を聞いて、急に「11代目」と呼ばれる事に嫌気を感じるようになった原因が上層部にあると悟った山本

「でも、名前を呼んで欲しいのは、「11代目」って呼ばれたくないからだけじゃないよ。」

「そうなのか?」

「うん。……ずっと前から、名前で呼んで欲しかったんだ……でも、言えなくて……」

「なんでだ?」

「パパの事、「10代目」って呼んでるでしょ?」

「そうだな。獄寺は中学の時からずっとツナの事をそう呼んでるぜ。」

「隼人兄がパパの事をそう呼んでるのを聞くたび、なんとなく、言っちゃいけないような気がしたんだ。言ったら、隼人兄が困るって
いつも感じてたから…」

「そっか…(たぶん超直感がそうさせたんだろうな……もし超直感がまだ覚醒してなけりゃ、もっと早くに獄寺に言ってただろうし。)」

「…タケ兄」

「ん?」

「隼人兄…やっぱり困ってた?」

「えっと……」視線を泳がす山本

「困ってたんだね……」
山本の様子を見ただけで察したソラ

「ソラ、獄寺に理由…話してないだろ?」

「うん、話してない。」

「なんでだ?」

「…言いたくなかった。だって言ったら、絶対物凄い勢いで土下座しそうなんだもん。隼人兄は何も悪くないのに、
自分が悪いかのように謝る気がする。」

「ああ…確かに……」その様子がありありと想像出来た山本

「隼人兄の事……ううん、隼人兄だけじゃなくて、タケ兄、了兄、恭兄、ランボ兄、骸兄、クローム姉……
みんなの事、私はもう1つの家族だと思ってるから。」

「もう1つの家族?」

「うん。だから、家族だと思ってる人から名前で呼ばれないのは寂しい。」
寂しそうな表情を浮かべながらそう言ったソラ

「そっか。」

その時、ソラがうとうとしてしてるのに気付き、ソラをベッドに横たわらせた山本

「タケ兄…」

「眠いなら、寝ろよ。小僧との修行で疲れてるんだろ?飯食う時間になったら起こしに来るから、それまで寝てて良いぞ?」
そう言いながら、ソラの頭を撫でていた。

「うん…」

ソラは眼を開けてるのがすでに限界だったのか、すぐに眠りについた。

「寝ちまったか。…いい夢見ろよ、お休み。」

ソラに布団を掛けてやり、もう一度ソラの頭を撫でてから、部屋を静かに出て行った山本


ーー獄寺の私室ーー

獄寺は、ツナの所に行った後、自分の部屋に戻って、ソラがどうして急に名前で呼んで欲しいと言ったのかを必死に考えていた。

「くそっ…全然わかんねぇっ…」

コンッ…コンッ…

「ん?誰だ?」

『俺だ。』

「山本か…」

『ソラの事で話があるんだ。中に入れてくれよ?』

「………わかった、入れよ。鍵は開いてっから…」
獄寺はソラの事だと聞いて、山本に中に入るように言った。

「おう、邪魔するぜ。」そう言いながら、入って来た。

「んで?11代目の事ってなんだよ?」

「ソラにさっき聞いてきたのな。獄寺に名前で呼んで欲しい理由…ちゃんとあったぜ。」

「んで?11代目は何て言ってたんだ?」

「ソラの奴、俺達の事…もう1つの家族だと思ってるらしいのな。」

「もう1つの…家族?」

「ああ。だから、家族だと思ってる獄寺に名前で呼ばれないのは寂しいんだと。」

山本は「11代目」と呼ばれる事に嫌気が差し始めてる事は一切話さす、ただ家族だから名前で呼んで欲しいんだって事を獄寺に伝えていた。

「11代目がそんな事を………山本」

「ん?」

「今回は礼を言うぜ。……ありがとな…」

「ハハっ……気にすんな!!ソラは今、疲れて寝てっから、夕飯前になったら部屋に行ってやれよ。」

「ああ、そうする。」

「んじゃ、これ以上は仕事の邪魔になるだろから行くぜ。じゃーな!」
そう言って、爽やかな笑顔を浮かべたまま、部屋を出て行った山本

「けっ……あの野球バカにまた貸しを作っちまったぜ……」
出て行った山本の事をそう愚痴りながらも、笑みを浮かべていた獄寺だった。


獄寺の部屋から出た山本

「さて、次はツナの所だな。今回の事は報告しといた方が良いだろ。」
そう言いながら、ツナが居るであろう執務室に向かった。


ーーツナの執務室ーー

「…っという訳で、ソラの奴、「11代目」って呼ばれるのに嫌気が差し始めてるみたいなんだ。」
ツナの執務室に着いた後、すぐにソラの事を報告していた山本

「そう……ソラがそんな事を…」

「山本、それは本当なんだな?」

「ああ。ソラ本人から聞いたから間違いないぜ。」

「そうか。」

執務室には、ツナだけでなく、リボーンと雲雀も居た。

「それでさっきここに来た隼人、少し元気がなかったんだ。」

「獄寺の事だったら、もう心配要らない。俺がさっき伝えたから、夕飯の時にはもう解決してると思うぜ?」

「えっ!?全部!?」

「いや、俺達の事をもう1つの家族だと思ってる事だけを伝えた。「11代目」って呼ばれるのに嫌気が差してる事を獄寺が知れば、
全力でソラに土下座しそうだし、自分をドン底まで責めそうだったからな。」

「そっか。ありがとう、山本」

「いや、気にすんなよ!それでさ、ツナ…」

「ん?」

「近いうち、ソラを笹川の所に連れてった方が良いんじゃないかって思うんだ。」

「確かにな……今日の修行見てて俺もそう思ってたんだ。ソラは心配させないように頑張って隠してたから、思わず見落としそうになったが、
なんとか気付く事が出来た。あいつ、少し精神的に不安定になってる。」

「やっぱ小僧もそう思うか?」

「ああ。おそらく、今山本が言った、上層部からのプレッシャーのせいだろ。」

「…赤ん坊、上層部に殴り込みしていい?」
今まで黙って聞いていた雲雀が殺気を溢れ出させながら、トンファーを取り出した。

「「駄目です!/駄目だぞ。」」
ツナとリボーンが雲雀を止める。

「…綱吉、君だって上層部に少なからずとも、怒りを覚えてるはずだよ?大事な1人娘が精神的に不安定なのが、あいつらのせいなんだから。」

「そ…そうですけどっ……でも、駄目です!!」
雲雀の言う通り、ツナも怒りは覚えているが、なんとか雲雀を止める。

「雲雀、堪えろ。俺だって、今の上層部は気に入らねぇっ…」
ポーカーフェイスをなんとか保ってはいるが、僅かに殺気を出していたリボーン

「………わかったよ。」リボーンの様子を見て、殴り込みに行くのをやめた雲雀

「よ…良かったっ……それじゃ、京子にその事を伝えて、連れていく日を決めるよ。」

「誰が連れてくんだ?」

「そうだな〜…」山本にそう言われ、考え込んでいたツナ

「僕が連れていくよ。」

「えっ……良いんですか?恭弥さん」

「うん、いいよ。久しぶりに並盛に行こうと思ってた所だし。」

「あっ…ありがとうございます!それじゃお願いしますね!!」

ツナ達は、ソラが寝ている間、日本に居る京子の所へ連れて行く話をしていたのだった。


ーーソラの私室ーー

獄寺は山本に言われた通り、もうすぐ夕飯の時間という時になったので、ソラの部屋に来ていた。
ソラはまだベッドで寝ていた。

「11代目、起きて下さい。」
そう言いながら、ソラの肩をそっと揺する獄寺

「う…う〜ん……誰…?」

「俺です。もうすぐ夕飯の時間になるので、起こしに来ました。」

「隼人兄…?」
上半身を起こし、まだ完全に眼を覚ましてないのか、眼を擦っていたソラ

「眼を擦ってはいけませんよ。」そう言って、擦っている手を離させた獄寺

「…隼人兄、馬鹿って言ってごめんなさい。」
獄寺と喧嘩した時の事を思い出してそう言ったソラ

「いえ、謝らないで下さい!あれは俺が悪いんですから!!」

「でもっ…」

「…11代目、少しだけ、お時間を頂けますか?」

「えっ…いいけど…」首を傾げながらそう言ったソラ

「その、呼び方の事なんですが……」

「…その話なら忘れてくれていいよ?」

「えっ…!?」驚く獄寺

「無理に呼んでくれなくてもいい。隼人兄、あの時困ってたでしょ?困らせてごめんなさい。」
そう言って、頭をペコリと下げたソラ

「そ…そんなっ…謝らないで下さい!!」

「でも…困らせちゃったのは事実だよね?」

「た…確かにそうですがっ…山本から聞きました。あなたが名前で呼んで欲しい理由を…」

「えっ!?」山本が獄寺に何か言っていたとは思ってなかったのか、驚いた表情になるソラ

「守護者である俺達の事を……もう1つの家族だと思って下さっている事を…」

「あっ…(タケ兄、「11代目」って呼ばれるのが嫌になってる事は言わないでくれたんだ…)」
獄寺の言葉を聞いて、内心ほっとしていたソラ

「ありがとうございます!俺達の事を家族だと言って下さって…」

「お礼なんかいいよ。私が勝手にそう思ってるだけだし。」

「11代目…いえ、ソラさん」

「えっ…」

「すみません。やっぱり、呼び捨てはとても出来そうにありません。ですから…「ソラさん」では駄目でしょうか?」

「………そ、そんな事ないよ!!そりゃ呼び捨ての方が嬉しいけど、名前で呼んでくれればそれで良いから!!」
少しの間呆然としていたソラだったが、はっとして獄寺にそう答えた。

「そうですか。ありがとうございます。」
微笑んだ獄寺

「こっちこそありがとう!!隼人兄!!」満面の笑みを獄寺に向けた。

「それでは、食堂に行きましょうか?きっと10代目達が待って下さっていると思いますし。」

「うん!」ベッドから降りて、靴を履いたソラ

「では、参りましょうか?ソラさん」そう言いながら、左手を差し出す獄寺

「うんっ、行こう?隼人兄」そう言いながら、獄寺の左手を右手で掴んだ。

2人は手を繋いだまま、部屋を出て行き、食堂に向かっていた。

その後の食事中は、獄寺に名前で呼んでもらえて上機嫌なソラだった。

ツナや守護者のみんなはそんなソラを微笑ましそうに見ていたとか。



獄寺は初め、ソラの事を「11代目」と呼んでいて、ソラのお願いを聞いて初めて名前で呼ぶようになったという設定なんですよ。
この話の時期は、5歳になったばかりの頃ですね。
ソラは基本呼び方は要求しません。
でも、こんな風に獄寺に必死にお願いして、名前を呼んでもらう事もあっても良いと思います。
普段、物分りが良過ぎて、我儘を言って困らせる事がないソラですが、
そんなソラが我儘を言ったら、きっと聞いてしまうでしょう。
獄寺がソラを名前呼びにするのは、叶えてあげたいけど、ツナの娘だからってなかなか言えずにいますが、
それ以外なら、喜んで聞きそうです。(笑)
もし良ければ、感想を頂けると嬉しいです。
それではこの辺で失礼致します。

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